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鬼殺隊の射手

16 - 第16話 無一郎の誕生日 前編

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2025年09月13日

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無一郎の誕生日 前編

・・・・・・・・・・


「え?時透くんの家に泊まる??」

『はい。明日がお誕生日なんです』


薬の調合をしていたしのぶさんが、手を止めて驚いた顔でこちらを見てくる。

まあ、そりゃそうなるよね。


「胡蝶さん、今晩のつばさの外泊許可をお願いします」


隣で時透さん…改め無一郎くんが頭を下げる。


「…椿彩は、それでいいんですか?ちゃんと納得してるの?」

『はい。私が一緒にいてあげたいんです』


しのぶさんが心配そうに見つめてくる。

少しの間があって、小さく溜め息をついた。


「……分かりました。泊まってきていいですよ。でもね、時透くんも身体を鍛えた男の子ですから、力も強いです。もし、椿彩が何か嫌だと思うことがあったら、ちゃんと断ったり助けを呼んだりするんですよ」

『はい、ありがとうございます!』

「ありがとうございます、胡蝶さん」


よかった。これで気兼ねなくお泊まりできる。


『じゃ、ちょっと準備してくるね』

「うん。ゆっくりいいから」

「時透くん。客間で待っていていいですからね」

「はい」











つばさが準備している間、僕は蝶屋敷の客間で待たせてもらう。


誕生日を特別だと言ってくれたつばさ。

どうでもいいと思っていたけど、急に、誕生日を1人きりで迎えるのが寂しいと思ってしまって、今夜一緒にいてほしいと頼んだ。

つばさはちょっと困ったように、明日改めて来るのではだめかと代替案を出してきたけど、僕が食い下がったら渋々了承してくれた。


つばさといると、時々胸がきゅっとなる。でもそれは不快な感覚では全くなくて、胸の奥から身体全体に優しい温もりが広がっていくような不思議な感じなんだ。

他の人に対しては今までそんなことなかったのに。


つばさが笑うと嬉しくなる。弓を引いている時の真剣な横顔も格好いいと素直に思った。

こっちを見てほしい。僕の傍にいてほしい。

僕はつばさのこと、何も知らない。だから彼女のことをもっと知りたい。


少しでもつばさと一緒にいたくて、僕は蝶屋敷までついてきた。自分の家に戻るまでの道中でも話ができるように。



『無一郎くん、お待たせ。準備できたよ』

「あ、早かったね。……あれ?なんか髪濡れてない?」


思いの外早く戻ってきたつばさの、いつものように後ろで1つにまとめられた髪が水気を帯びている。


『ああ、ちょっと急ぎ足でお風呂入ってきたからね。大丈夫よ、そのうち乾くから』

「ごめん、慌てさせたね。ゆっくり準備してよかったのに」

『平気よ。歩いてるうちに乾くでしょ。それに気化熱で涼しくなると思う』

「そっか…」


つばさはいつもの隊服とは違う、弓道着とも違う、普通の女の子のように柄物の着物と袴を着ていた。

それが新鮮で胸の鼓動が速くなる。

一時期はつばさと一緒にいて脈が速くなるのは自分の修行が足りないせいかもと思っていたけど、どうやらそうではないみたいだ。

でも僕はまだ、この感情の名前を知らない。


「じゃあ、行こうか」

『うん』


もう一度胡蝶さんのところに行って挨拶する。


『しのぶさん、行ってまいります』

「行ってらっしゃい。…時透くん、椿彩を頼みますね」

「はい」


僕たちはもと来た道を戻った。

つばさの荷物は僕が持たせてもらっている。重くないからいいよ、と断られたけど、半ば強引に。


『わざわざごめんね。無一郎くんには二度手間だったね。しかも荷物持ちまでさせて』

「ううん。僕が勝手についてきただけだから。つばさと話したかったし」

『何を?』


つばさがきょとんとした顔をこちらに向けてくる。


「うーん。僕、つばさのこと何も知らないから聞きたいなって」

『大して面白いネタは持ってないよ?』

「そんなのいいよ。色々聞くね。つばさは何人家族だったの?」

『6人だよ。お父さんとお母さんと、弟が3人の4人姉弟 』


……ってことは。


「じゃあ、きょうだいの中で女の子はつばさだけ?」

『うん。私と双子の弟と、その下の10歳離れた弟たちも双子なの。双子が二組』


ふたご?…何だろう。なぜか“双子”という言葉が胸の奥に引っ掛かる。


『名前はね、私と同じ歳の弟が“シュウヤ”で冬生まれ。柊に弓矢の矢って書くの。下の弟たちは、夏生まれだから“カイト”と“ヒナタ”。海に都と、太陽の陽に向かうって字ね』

「冬生まれで“柊”がつくなら、もしかしてつばさの名前の漢字も羽が生えた“翼”じゃなかったりする?」

『うん、花の椿に彩りって書くよ』


そうなんだ。てっきり“翼”だと思ってた。

椿に彩りって、綺麗な名前だなあ。


「喧嘩はする?」

『さすがに下の弟たちとは相手にならないからしないけど、シュウヤとは15歳前後まではよく喧嘩してたなあ』

「でも男対女の子でしょ?つばさは不利じゃない?」

『ううん、そんなことないよ。私、合気道習ってたから、シュウヤが攻撃してきても受け流して逆に相手をひっくり返してた』


すごい。


『シュウヤは悔しがって、よく捨て台詞を吐いてどっか行っちゃってたよ。今は仲いいけどね 』

「そうなんだ。10歳離れた弟たちは?」

『歳がそれだけ離れてると可愛いよ。お姉ちゃんお姉ちゃん、って私の後ろをついて回って、よくどっちが私の隣でごはん食べるかとかで揉めてた。両隣に来ればいいのにね』


可笑しそうにつばさが笑う。

家族のことを話す彼女はとても優しい表情をしていた。

「お父さんとお母さんは?」

『両親はね、学校の先生をしてたから忙しくて朝家を出るのも早いし夜遅くに帰ってきてた。でもお休みの日はお母さんと女同士でお買い物に行ったり、お父さんと父娘デートしたりしてたよ。私は4姉弟唯一の女の子だから特に父から可愛がられてたと思う』


そりゃそうだよ。こんなに優しくて可愛い娘がいたらお父さんはメロメロだよね。


『…あ、ごめんね私ばっかりぺちゃくちゃ喋って』

「ううん。僕が質問攻めにしてたから。……僕はね、家族のことさえ何も覚えてないんだ。忘れちゃいけない、いちばん大事な存在な筈なのに。薄情者だよね……」


言いながら悲しくなってくる。


「思い出そうとすると頭が割れそうに痛くなって諦めちゃうんだ 」


僕の話を黙って聞いていたつばさが、彼女の荷物を持っていないほうの手をぎゅっと握ってきた。


『薄情者なんかじゃないよ。薄情者だったら家族を忘れても何とも思わないよ、きっと。…無一郎くんは多分、大事な存在を忘れないとやってられない程のつらい経験をしたんじゃないかな。心が壊れてしまわないように、自分で自分の記憶を閉ざすことがあるって聞いたことあるよ。人間の防衛本能なんだって。いつか、それを思い出しても大丈夫なようになったら、その時はちゃんと記憶の扉が開くって』


つばさが真っ直ぐに僕の目を見て言ってくれる。


『だから心配しないで。いつか絶対思い出せるよ。その時私がまだこっちの世界にいたら、思い出したこと、いっぱい話して聞かせてね』

「……っ…うん!」


優しく微笑んだつばさ。僕だけに向けられた優しい笑顔。

胸の中が温かくなって、宙ぶらりんだった心がしっかりと地面に足をつけた気がした。


僕も彼女の手を握り返す。そのまま手を繋いで自分の家に帰った。







『さあ、早速ごはん作ろうかな。無一郎くん、アレルギーはある?』

「あれるぎー?」

『特定の食べ物を口にして身体が痒くなったり呼吸が苦しくなったりすることない?』

「うん、ないよ。嫌いなものもほぼないと思う」

『よかった!何か食べたいものはある?』

「ふろふき大根が食べたい」

『わかった!じゃあそれ作るね。…あ、お風呂入ってくる?その間にごはんの支度しておくよ』

「うん、そうする。ありがとう」


僕は着替えと手拭いを持って風呂場へ向かった。


つばさの料理がすごく美味しいって、どこかで聞いたことあるな。

誰が話してたんだっけ。思い出せないや。



入浴を終えて戻ってくると、台所からいいにおいが漂ってきていた。


「すごい…もうできたの?」

『あとちょっとかな。無一郎くん、ゆっくりしてていよ』

「邪魔しないから見ててもいい?僕は料理できないから手伝えないけど…… 」

『うん。そんな面白いもんでもないけどそれでもいいなら』


やった。

つばさのエプロン姿も可愛いなあ。


「そのエプロンどうしたの?」

『これね、蜜璃さんがくれたの。スフレパンケーキのお礼にって』

「そうなんだ。似合ってる」

『嬉しい。ありがとう』


みつりさん…って甘露寺さんだよね。

いいなあ。僕もつばさに何かあげたい。


『…よし、できた!無一郎くん、お待たせ 』

「わあ…美味しそう……!」


僕がお風呂に入っている間に、ごはんも炊いてふろふき大根と味噌汁、魚の煮付けまで作ったんだ。


「いただきます」

『いただきます』


つばさが作ってくれた料理を口に運ぶ。

あまりの美味しさにびっくりしてしまう。


「…!美味しい!」

『よかった〜!まだあるから、たくさん食べてね』


誰かと一緒にする食事ってこんなに楽しいんだな。

ごはんも煮付けもふろふき大根も味噌汁も、全部、全部美味しかった。

お腹いっぱいになって、すごく幸せな気持ち。


つばさは蝶屋敷でも料理の手伝いをしてるって聞いた。

いいなあ。蝶屋敷の人たちや療養してる隊士は毎日こんなに美味しいごはんが食べられるんだ。


「つばさ、ありがとう。すごく美味しかったよ」

『お口に合ってよかった!明日も張り切って作るね!』


流し台へ食器を運んで、洗って片付けるのも一緒にする。


その後は他愛もない話をして過ごした。






「ねえ、つばさ。お願いがあるんだけど」

『なあに?』

「同じ部屋で寝てもいい?布団はちゃんと別にするから」

『お…同じ部屋か〜…。……いいよ、私が寝相悪くてもし無一郎くんを蹴飛ばしちゃっても日輪刀で斬らないでね』

「うん!」


僕がつばさを斬っちゃうわけないでしょ。

可笑しくてちょっと笑ってしまった。





寝間着に着替えて布団を敷く。

浴衣を着たつばさが色っぽく見えて少しドキドキしてしまう。


「つばさ、おやすみ」

『おやすみ。……あっ、無一郎くん待って』

「?」


つばさが入りかけた布団から出てきて座るので僕もそれに倣う。


『無一郎くん、お誕生日おめでとう』


はっとして時計を見ると、ちょうど日付けが変わった時間だった。


『生まれてきてくれてありがとう。無一郎くんと出会えてよかったよ』

「…っ!」


思い掛けない優しい言葉に、一気に視界がぼやけて熱い雫が頬を伝って流れていく。


『わ!?無一郎くんどうしたの!?私何か嫌なこと言っちゃったかな… 』

「…ううん、違う。すごく…嬉しくて……」

『そう?びっくりした。ああよかった〜』


泣き出した僕を見て慌てた様子のつばさだったけど、僕の返答にほっとしたのか、いつもの穏やかな表情に戻った。

そして、僕のほうに近付いてきて、ぎゅっと抱き締めて頭を撫でてくれた。


ああ、あったかい。

女の子の華奢で柔らかな身体と、髪の毛のにおいだ……。


心臓の音…聞こえていませんように……。


僕もつばさの身体に腕をまわして肩に顔をうずめる。





「…つばさ、ありがとう。もう大丈夫だよ」

『うん、よかった』

「布団…もう少しくっつけて寝てもいい?」

『いいよ』


寝間着の袖で涙を拭い、布団を引っ張ってぴたりとくっつけて並べる。


布団に入って明かりを消す。


「……つばさ」

『どうしたの?』

「…手、繋いでもいい?」

『うん、いいよ』


差し出してくれた手を握って、僕たちは眠りについた。





つづく

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