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#前世
shima7a
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第107話 「あと一歩」2026年7月。
夏。
第108回全国高等学校野球選手権福岡大会。
柳城高校は順調に勝ち上がっていた。
二回戦。
快勝。
三回戦。
終盤に逆転勝ち。
準々決勝。
延長十一回の末、サヨナラ勝ち。
そして。
準決勝。
柳城高校は粘り強く戦い、決勝進出を決めた。
福間監督が率いる柳城高校。
啓介部長が支える二年目の夏。
あと一勝。
甲子園まで、あと一歩だった。
決勝前日。
練習は一時間だけだった。
キャッチボール。
シートノック。
バント確認。
最後に全員でランニング。
終了後。
福間監督が部員たちを集めた。
「明日は特別なことはしません。」
「いつもどおり。」
「柳城高校らしい野球をしてください。」
部員たちは大きく返事をした。
その夜。
宿舎。
啓介は翌日の資料を確認していた。
対戦相手の打順。
投手の配球傾向。
走塁。
送りバント。
細かく整理されたメモ。
福間監督が部屋へ入ってくる。
「まだ起きていましたか。」
「はい。」
啓介は少し照れながら答えた。
「監督。」
「はい。」
「明日は緊張します。」
福間監督は笑った。
「私も毎年緊張します。」
啓介は驚く。
「監督でもですか。」
「もちろんです。」
「緊張しなくなったら、監督を辞めます。」
二人は笑った。
翌日。
福岡大会決勝。
球場は超満員。
吹奏楽。
応援団。
保護者。
卒業生。
スタンドには舞の姿もあった。
氏原記者もバックネット裏でスコアブックを開いている。
試合開始。
柳城は初回に先制。
しかし。
相手も粘る。
終盤まで2対2。
九回表。
柳城が勝ち越し。
3対2。
あと三つ。
甲子園まで、あと三つのアウト。
九回裏。
二死。
走者二塁。
最後の打者。
鋭い打球。
センター前へ抜ける。
同点。
試合は延長へ。
延長十回。
柳城は勝ち越しの好機をつくる。
しかし無得点。
その裏。
相手の攻撃。
一死満塁。
犠牲フライ。
ゲームセット。
4対3。
柳城高校。
福岡大会準優勝。
あと一歩。
あと一歩届かなかった。
整列。
スタンドへ一礼する選手たち。
涙が止まらない。
啓介も唇をかみしめていた。
ベンチ裏。
福間監督が部員たちの前に立つ。
「顔を上げましょう。」
静かな声だった。
「皆さんは最後まで柳城高校らしく戦いました。」
「私は誇りに思います。」
誰も声を出せない。
福間監督は続けた。
「負けた悔しさは消えません。」
「だからこそ、人は強くなれます。」
「この悔しさを、来年へつないでください。」
その言葉に。
二年生たちは強く頷いた。
夕方。
学校へ戻ったグラウンド。
誰もいないベンチ。
啓介と福間監督が並んで座っていた。
長い沈黙。
やがて福間監督が口を開く。
「啓介。」
「はい。」
「来年が、私と一緒に戦う最後の夏になります。」
啓介は驚いて福間監督を見る。
「まだ部員には話しません。」
「あなたにも、今日初めて話します。」
「来年の夏で、私は監督を退きます。」
夕焼けに染まる柳城高校。
その空の下で。
一つの時代が終わりへ向かい始めていた。
第107話 終
コメント
1件
うわぁ…最後の一文、じわじわ来ました。あと一歩、本当にあと一歩だったのに。啓介くんの緊張、福間監督との静かな夜の会話、そして最後の監督からの告白……全部が重なって、胸がぎゅってなりました。甲子園までの道のりがこんなにリアルで、応援しながら読んでました。悔しさと同時に、来年への希望も感じる、すごくいい話でした。