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第94話 〚輪の外で軋む音〛(恒一)
夏の夜。
人の少ない公園のベンチに、
恒一は一人で座っていた。
街灯の下、
足元に落ちる自分の影だけが、やけに濃い。
(……おかしい)
指先を握りしめる。
これまでなら、
澪の動きは「読めた」。
どこへ行くか。
誰といるか。
どんな未来になるか。
――全部。
でも最近、
それが、分からない。
◆
「守る輪が広がっている」
その言葉が、
頭の中で何度も反響する。
仲間。
男。
教師。
大人。
いつの間にか、
澪の周りには“線”が引かれていた。
自分だけが、
その外側。
(……俺は、選ばれなかった?)
恒一は、唇を噛んだ。
違う。
そんなはずはない。
澪は、
「気づいていない」だけだ。
本当は、
自分が一番――
◆
ふと、
胸の奥に違和感が走る。
(……?)
いつもなら、
ここで“確信”が湧く。
「次はこうなる」
「こうすればいい」
でも今は、
何も、見えない。
(……予知が、来ない?)
恒一の表情が、
ゆっくり歪む。
澪の力は、
自分に向いていたはずだ。
自分を、
選ぶためのものだったはずだ。
なのに。
(……俺が、映ってない)
◆
ベンチの背にもたれ、
恒一は空を見上げる。
花火大会の日、
澪の手を引いたのは――海翔だった。
その瞬間。
澪の視線は、
一度も、自分に戻らなかった。
(……輪の中にいるやつらは)
(みんな、邪魔だ)
でも。
ただ邪魔なだけなら、
こんなに胸は、軋まない。
◆
(……澪は、選んでる)
その事実に、
恒一はようやく気づく。
予知に守られる側から、
予知に“選ばれない側”へ。
自分は、
押し出されている。
(……それでも)
恒一は、
マスクの奥で、笑った。
(まだ、終わってない)
見えないなら、
見せればいい。
選ばれないなら、
選ばせればいい。
◆
ポケットの中で、
スマホが冷たく光る。
連絡先の一覧に、
澪の名前は、もうない。
それでも。
(……俺は、輪の外からでも)
(壊し方を、知ってる)
街灯が一つ、
瞬いた。
輪の外で、
静かに、軋む音が鳴り始めていた。