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第95話 〚心臓が拒む未来〛(澪)
夜。
部屋の灯りを落とし、
澪はベッドの上で膝を抱えていた。
夏休みのはずなのに、
胸の奥が、落ち着かない。
(……変だ)
最近、
“あれ”が来ない。
頭を締めつけるような痛み。
視界を覆う、勝手に流れ込んでくる未来。
代わりにあるのは――
心臓の、違和感。
◆
スマホを手に取る。
海翔からのメッセージは、
いつも通り、優しい。
「今日はちゃんと寝てね」
「無理しないで」
それを見るだけで、
少し、安心する。
なのに。
(……この先)
ふいに、
胸が、きゅっと縮んだ。
――ドクン。
心臓が、
強く、痛む。
「……っ」
息を止めた瞬間。
◆
映像が、来た。
でも、
それは“予知”じゃない。
ぼんやりした、
輪郭の曖昧な未来。
誰かの手が、
無理に伸びてくる。
近すぎる距離。
逃げようとしても、
足が動かない。
――嫌。
(……やだ)
その瞬間。
心臓が、
はっきりと拒絶した。
◆
映像が、
途中で、途切れる。
代わりに浮かんだのは――
違う未来。
澪が、一歩、下がる。
誰かの手を、はっきり振り払う。
「違う」
自分の声が、
はっきり聞こえた。
「それは、選ばない」
◆
「……え?」
澪は、
はっとして、胸を押さえる。
痛みは、
もうない。
代わりに、
鼓動が、強く、はっきりしている。
(今の……)
(私が、変えた?)
今までの予知は、
“見せられるもの”だった。
止めようとしても、
抗えなくて。
でも今は。
(……選んだ)
◆
澪は、
ゆっくりと息を吐いた。
怖い。
でも。
(これが……本当の、予知?)
未来を当てる力じゃない。
未来を、
「拒む」力。
◆
スマホを握りしめ、
澪は決意する。
誰かが望む未来でも、
自分が嫌なら――
行かない。
(……私は)
(私の心臓が、嫌だって言う未来には)
(進まない)
夜の静けさの中、
澪の鼓動だけが、確かに鳴っていた。
それは、
“守られる側”から
“選ぶ側”へ変わった証だった。