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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ターラン商会でマーサさんに顔を出した日の夕方、セレスティンが教会へと戻ってきました。
「お帰りなさい、セレスティン」
「ただいま戻りました、お嬢様。些かお待たせしてしまい、申し訳ございません」
見事な最敬礼で謝罪されてしまいました。
「時間に指定はありませんでしたし、ゆっくりとやるように指示を出したのは私です。謝罪は不要ですよ、セレスティン。それよりも」
「はっ、調査しましたところシェルドハーフェン港湾部は予想以上に複雑怪奇な場所でございます」
「ふむ、聞きましょう」
セレスティン曰く、シェルドハーフェン港湾部は海運王と呼ばれる者が四割の利益を独占。残り六割を数えるのが嫌になるほどたくさんの組織が奪い合っているのだとか。
まあつまり、マフィアやギャング、カルテル、悪徳商人達がしのぎを削っている場所ですね。うん、まるでお祭りです。
「シスターに聞いてたが、そこまでとは思わなかったなぁ」
ベルが呆れるのも無理はありませんね。
「左様。港湾部では組織間の抗争も陸に比べて熾烈を極め、昨日までの上級者が新参者に倒されるなど日常茶飯事。勢力図は日々変化しております」
ううむ、確かに厄介な場所です。交易は儲かりますからねぇ。
「この中で不動の地位を築くのが『海狼の牙』と呼ばれる海運ギルド。巷では海運王と呼ばれる組織でございます」
「海狼の牙ですか」
シスターが呟きます。
「シスター、何か知っているのですか?」
「ええ、ここ数年で勢力を拡大してきたギルドですね。元は海賊だった筈です」
「ほう、海賊!」
ロマンですね!ヨーホー!
「おい待てお嬢が変に興味を持ったじゃないか。真似するから変なこと吹き込むなよ」
失礼な、私はそんなに子供ではありません。ちょっとロマンが分かる普通の女の子です。その筈です。自信はありませんが。
「シャーリィ、海賊にまで手を出してはいけませんよ?」
「出しませんよ。冒険にロマンは感じますが、今はそれより大切なことがたくさんあります」
でも海には出てみたい。
「こほんっ!話を戻すぞ。その海狼の牙って連中に話を付けるのが目的なんだな?」
「はい。セレスティンの報告通りに複雑ならば、大勢力に話を通しておけば色々とスムーズに事が進む筈」
「と言ってもなぁ、俺達は新参者だ。わざわざ会ってくれるかね?」
「最初に名前を売る必要がありますね。セレスティン」
「無論、調査しております。昨年辺りから『海の大蛇』を名乗る海賊がシェルドハーフェン近海の主要な交易路を荒らし回っており、『海狼の牙』も手を焼いているとの情報を得ました」
「ちょっと待て、それってまさか…」
「それを私達が討伐して、その成果を手土産に海狼の牙との接触を図ります」
「マジかよ。つっても、俺達に船なんか無いだろ。どうやって海賊を殺るんだ?海戦の知識すらないんだ」
「如何に海賊であろうと、物資の補給や強奪品を売り捌くために必ず何処かへ停泊しなければなりません」
「まあ、それはそうだが」
「そこを狙います。わざわざ彼らの得意な海で戦う必要など無いのですから」
正々堂々?悪党の世界にそんな言葉ありませんし、相手は海賊。つまり敵です。容赦する必要もない。
「それは良いのですが、その停泊地を調べなければいけませんよ、シャーリィ」
シスターの指摘はごもっともです。
「ご安心を、シスター。この数日かけてラメルさんに依頼して調査をお願いしています」
「ラメルの旦那に?」
「手土産無しで『海運王』に会える筈もありません。農園の収穫物を使うわけにもいきませんし、手土産にするには困り事を解決するに限ります」
で、海と言えば海賊ですからね。領内にも良く出没してお父様を悩ませていました。お母様がガレオン船を真っ二つにしたって笑いながら話してくれたのは良い思い出です。私もお父様も笑顔を引きつらせていましたが。
「なるほどな、だから港の状況をセレスティンの旦那に調べさせていたのか。ラメルの旦那を使わないから、不思議に思ってたんだよ」
「二つの事を依頼したらお金も掛かりますし何より時間も掛かります。セレスティンを信頼していたのも事実ですが」
「勿体無いお言葉です、お嬢様」
また最敬礼されてしまいました。腰が痛くないのかな?
「海賊達の拠点を突き止めたら、私達暁の初実戦となります。今からワクワクしますね」
「何で楽しそうに笑ってんだよ」
「簡単です、ベルモンド。相手は海賊、シャーリィにとって考慮する必要もない明確な敵なのですから」
「なるほどな」
何やらシスターとベルが話し込んでいますが、気にしないことにします。これまでの戦力強化の成果が出るのは楽しみですね。
翌日、教会を訪れたラメルさんからお話を聞きます。もちろんベルを連れて。
「嬢ちゃんの読み通りだ。『海の大蛇』と幾つかの海賊がシェルドハーフェン南にある廃れた漁村を拠点にしてやがる」
「やはり近くにありましたか」
狩りをするなら近場に拠点を築くのは当たり前ですからね。
「で、そこを出入りしてるのは『闇鴉』って商人ギルドだ。こいつら、そこで物資や金を提供する代わりに交易品を仕入れて高値で売り捌いてやがる。元は強奪品、つまり元手はゼロだ。海賊への支払いとかを引いてもボロ儲けだな」
「海賊は物資とお金が手に入る。商人は普通より遥かに安く交易品を仕入れられて利益を出せる。共存関係ですね」
「その通りだ。ついでにサービスだ。『闇鴉』はターラン商会から懸賞金が出てる。元は身内だったらしいぜ?」
「ほう?」
良いことを聞きました。ついでにマーサさんに貸しが出来ますね。何をして貰おうかな。
「良い情報だったぜ、ラメルの旦那」
「こっちは仕事をしただけなんだがな」
「良い仕事をしてくれました。確か、金貨二枚でしたね?こちらが報酬です」
金貨三枚を渡します。
「相変わらず羽振りが良いな、嬢ちゃん。何か入り用ならまた連絡してくれ」
「はい、是非」
うん、腕利きの情報屋も押さえておきたいので、羽振りの良さは継続。手懐けて裏切らないようにしないと。
「お嬢も遠慮がないな」
ラメルさんが立ち去るとベルがそう囁きます。
「大切なものを守るためなら、何だって手に入れますよ。さあ、お仕事の時間です」
記念すべき暁の初舞台。相手が名のある集団なら良かったのですが…まあ、仕方ありません。コツコツといきます。
私は初めての戦いに向けて気分を高揚させるのでした。自然と笑顔になるのを自覚しながら。