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土曜日。朝から大学祭で賑わうキャンパスには、学生たちの笑い声と香ばしい匂いがあちこちに漂っていた。
その一角――中庭の仮設テントで、みことはエプロン姿でたこ焼きを焼いていた。
「いらっしゃいませ〜」と一緒に手伝っている同級生が元気に声を出す一方で、
みことはにこやかに「どうぞ、できたてです」と静かに手渡す。
その柔らかい表情に、思わず見惚れて立ち止まる学生も多い。
「なんかさ、最近のみことくん……雰囲気柔らかくなったよね?」
「うん、前から可愛かったけど、今はなんか……穏やかっていうか」
「てか今日も尊い……」
と、テントの周囲ではみことを取り巻く静かな崇拝のささやきが絶えない。
そんな中、突然――
「わっ、え、ちょ、イケメン多すぎ!!」
「なに!?ドラマ撮影!?」
悲鳴混じりのざわめきがあがる。視線の先には、学祭を訪れた5人の姿があった。
こさめ、らん、いるま、ひまなつ、そしてすち。人目を引く圧倒的な美形軍団だった。
その視線の渦の中、みことは5人を見つけると、ぱっと優しく微笑んだ。
その笑顔は周囲にいた者すべてを沈黙させるほどの破壊力。
「……え、え、みことくん……笑った……」
「尊い……ッ……」
崇拝の声が一斉に息を呑む中、すちたちはテントの前までやってきた。
「よう、来たよ」
らんが手を上げると、
「みことくん〜会いに来たよ〜!」とこさめがにこにこ。
みことは少し恥ずかしそうにうつむきながらも、穏やかに言った。
「みんな……来てくれてありがとう……」
そして、目を輝かせてすちの方を見上げる。
「……みんなに、俺の焼いたたこ焼き、食べてほしいなって思ってたんよ」
その一言に、すちは目を細めた。
「もちろんいただくよ」
「じゃあ……ちょっと待っててね」
みことはそう言って、手際よく鉄板にたこ焼きを並べていく。
だが――。
(これ、普通のたこ焼きじゃないんだよね……)
実はこのたこ焼き屋は、密かな人気企画「ロシアンたこ焼き」。
15個中5個に、「異物」が入っている仕様だ。
やがて出来上がったたこ焼きを詰めた容器を、みことは笑顔で5人に差し出した。
「ロシアンたこ焼き15個入り、ハズレは5個だよ」
「うわあ……マジか……!」とひまなつが顔をしかめ、
「面白れえじゃん」といるまがニヤリと笑う。
それぞれが1個ずつ手に取って、一斉に口へ運ぶ。
「……あ、チョコだ。でも、案外いける」
ひまなつが少し驚いた顔で言う。
「ん、普通の味。セーフ」
いるまがあっさりとした口調で噛み締める。
「俺も普通だったー!」とこさめ。
「……ッッッ!!!」
らんが静かに顔をしかめる。ワサビが強烈に効いていたようだ。
そしてすち――。
「……ふふ」
やや眉をひそめながらも、柔らかく笑った。
「からし、だね。でも……みことが作ってくれたと思うと、全然悪くない」
みことは驚きつつも、「ごめんね……外れだったんだ」と少し申し訳なさそうに眉を下げた。
けれど、すちはその表情ごと優しく見つめる。
「いや、むしろ……当たりかもね」
その言葉に、みことはぽかんとしたあと、頬を赤くして「……変なの」と呟いた。
周囲からはまたもや「キャー!!」「なんなんこのふたり…!」「甘酸っぱい!!」と羨望と悶絶の声が上がる。
この日のたこ焼き屋は、例年で一番の行列ができたという。