テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あめ猫
3,650
朝。
いつも通りの時間。
でも——
セブンは、いつも通りじゃない。
「……」
キッチンに立っている。
コップを持ったまま、止まっている。
頭の中。
昨日の言葉が何度も繰り返される。
“すごいって言う”
“ここから先はダメ”
“一緒にやる”
そして——
“こう”
「……」
ほんの一瞬。
近かった感覚がよぎる。
すぐに、視線を逸らすみたいに動く。
落ち着かない。
——リビング。
クールキッドはもう起きている。
「パパ」
呼ぶ。
「……何だ」
返事が少し遅れる。
それだけで、違和感。
クールキッドはじっと見る。
いつもと違う。
少し変。
「……どうしたの?」
逆に聞く。
セブンが一瞬止まる。
「……何でもない」
即答。
でも。
明らかに何かある。
クールキッドは首を傾げる。
「へん」
はっきり言う。
「……気のせいだ」
セブンは目を逸らす。
落ち着かない。
手の動きも少しぎこちない。
朝の準備。
食事。
全部、微妙にズレている。
クールキッドはそれを見ている。
ずっと。
「パパ」
「……何だ」
「だいじょうぶ?」
その一言で。
セブンの動きが止まる。
完全に。
「……何が」
低く返す。
「なんか、へん」
ストレート。
逃げ場がない。
「……」
セブンは何も言えない。
言葉がない。
代わりに。
頭の中で、また浮かぶ。
“こう”
「……」
一歩、近づく。
クールキッドが見上げる。
「パパ?」
セブンは少しだけ迷う。
でも——
手を伸ばす。
ぎこちなく。
そのまま。
抱きしめる。
「……っ」
力が入る。
無意識に。
やり方が分からないまま。
ただ、“やる”ことだけをなぞる。
強い。
思っているよりずっと。
クールキッドの体が少し潰れる。
「……パパ」
声が小さくなる。
でもセブンは気づかない。
「……」
そのまま、数秒。
クールキッドが少し動く。
もぞもぞする。
「……くるしい」
はっきり言う。
その一言で——
セブンが止まる。
一瞬で。
力が抜ける。
離す。
「……」
沈黙。
クールキッドは少しだけ息を整える。
「……つよい」
ぽつりと言う。
責めてはいない。
ただの事実。
セブンは動かない。
完全に固まっている。
「……」
失敗した。
それだけは分かる。
でも。
どう直せばいいかは分からない。
クールキッドはセブンを見る。
少し考える。
それから。
「……こう」
小さく言う。
自分から近づく。
軽く。
本当に軽く。
セブンにくっつく。
腕は回さない。
ただ触れるだけ。
「これ」
見上げる。
「だいじょうぶ」
セブンは目を少し見開く。
その感覚。
さっきと全然違う。
軽い。
でも、離れていない。
「……」
言葉が出ない。
クールキッドはそのまま少しだけ寄り添う。
それから離れる。
何事もなかったみたいに。
「つみきする」
切り替える。
床へ行く。
カラカラと音が鳴る。
いつもの朝に戻る。
でも。
セブンは動けない。
その場に立ったまま。
自分の手を見る。
さっきの感覚。
強すぎた力。
そして。
今の、軽い接触。
「……」
小さく息を吐く。
「……分からないな」
ぽつりと呟く。
でも。
ほんの少しだけ。
答えに近づいた感覚もある。
“やること”じゃなくて。
“加減”の問題。
“形”じゃなくて。
“相手”。
セブンはゆっくり歩く。
クールキッドの隣に座る。
積み木を一つ取る。
「……こうか」
小さく積む。
クールキッドが見る。
そして。
少しだけ笑う。
「うん」
それだけで。
さっきより、少しだけ自然になる。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!