テラーノベル
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四月の風は、まだ少し冷たかった。
校門をくぐると、春の匂いと一緒に、やけに眩しい色が目に入った。
金色——それは、
まるで陽射しを吸い込んだみたいな、やわらかい髪だった。
知らない上級生が、
フルートケースを肩にかけて校舎へ向かって歩いていく。
「おーい、元貴。何見てんだよ」
背後から声をかけてきたのは、若井だった。
身長差で影を落としながら、俺の視界を遮るように前へ出る。
「……別に。ただ、金髪の人がいて」
「あー、あれな。涼ちゃんだよ。
吹奏楽部の先輩。
二年……いや、今年で三年か。
めっちゃ優しい人だから怖がらなくていいぞ」
「知り合い?」
「まぁ、ちょっとな。
中学の時、うちの近所で会ったことある。
元貴、紹介してやろーか?」
「いや、別に……」
口ではそう言ったけど、目は勝手にその背中を追っていた。
歩くたびに、金色の髪が春の光を撫でて、きらきらと揺れる。
なんだか、音が聞こえる気がした。
まだ吹いてもいないフルートの、透明な音色が。
ギター部の部室へ向かう廊下で、若井が唐突に言った。
「なぁ、今年の文化祭で吹奏楽部と合同やってみね?
俺らギター部だし、普通にコラボありだろ」
「いきなりだな」
「いきなりじゃねーよ。ほら、涼ちゃんもきっと面白がってくれるって」
そうやって若井は、俺の知らない世界を簡単に引き寄せてくる。
俺はただ、その流れに呑まれていくだけだ。
放課後。部室でコード練習をしていると、ドアがノックされた。
振り向くと、そこには昼間見た金髪の先輩が立っていた。
穏やかな微笑みと一緒に。
「こんにちは。吹奏楽部の藤澤涼架って言います。
若井くんに呼ばれて……ギター、聴かせてもらっていい?」
声が、思っていた以上に柔らかくて、耳の奥まで染みこんでくる。
俺は慌ててギターを構えたけれど、指先が少し震えていた。
——この春、俺はたぶん、新しい風に出会ったんだ。
コメント
2件
やばいこういうの好きすぎる。 もう涙出てきた😢なんで? こういう青春がしたかった