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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第89話 〚“先を越される焦り”が、生まれた〛
― 西園寺恒一視点 ―
――奪われた。
そう思った瞬間、
胸の奥がざらついた。
朝食の席。
澪の隣には、
また海翔がいる。
当たり前みたいに。
最初から、
そこが指定席だったみたいに。
(……なんでだよ)
俺の方が、
先に目をつけたはずなのに。
俺の方が、
澪を“特別”だと思ったはずなのに。
なのに。
海翔は、
澪の隣に座って、
何も主張しない顔で、
そこに“居続けている”。
それが、
一番腹が立った。
俺は、
睨んでいた。
自分でも分かるくらい、
感情を隠さずに。
でも、
海翔は気づいている。
いや、
最初から気づいていた。
俺の視線を受け止めたまま、
何も言わずに、
澪との距離を詰めた。
(……先を越された)
一瞬で、
そう理解してしまった。
しかも。
真壁恒一が、
視界に入った。
あいつも、
澪を見ている。
同じ方向。
同じ熱量。
一瞬、
目が合った。
(……お前もか)
言葉は交わさない。
でも、
分かった。
あいつも、
“奪われる側”だ。
なのに。
海翔は、
二人分の視線を、
全部分かっている顔で、
澪の前に立っている。
守る、
というより。
(……囲ってる)
澪が逃げられないように、
でも、
怖がらせない距離で。
それが、
何より腹立たしい。
俺は、
焦っている。
自覚してしまった。
(このままだと……)
澪は、
完全に海翔の“場所”になる。
俺が入り込む余地は、
なくなる。
(まだだ)
まだ、
何も終わってない。
俺は、
何もしていないだけだ。
そう、
自分に言い聞かせる。
でも。
心臓の奥で、
小さな声がする。
――遅い。
――もう、間に合わない。
その声を、
必死で無視した。
焦りを、
怒りに変えて。
(……次は)
次は、
もっと近づく。
次は、
邪魔されない。
そう決めた瞬間。
海翔が、
こちらを見た。
睨みでもない。
威嚇でもない。
ただ、
“把握した”目。
(……見られてる)
その事実が、
さらに俺を苛立たせた。
先を越された。
守る場所を、
取られた。
そして今、
俺は追う側になっている。
その構図が、
どうしようもなく、
悔しかった。