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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第90話 〚二人の視線が重なった瞬間を、無意識に避けた〛
― 澪視点 ―
朝ごはんの席は、
いつもより少しだけ、空気が重かった。
理由は分からない。
でも、
胸の奥がきゅっと縮む感じがする。
私は、
カレーのスプーンを持ちながら、
何気なく顔を上げた。
その瞬間だった。
――視線が、重なった。
海翔の向こう側。
少し離れた席から、
西園寺恒一がこちらを見ている。
そして、
同じタイミングで。
隣に座る海翔の視線も、
同じ方向を向いた。
(二人が……)
私の中で、
何かがひっかかった。
空気が、
一瞬だけ、張りつめた。
理由は分からないのに、
心臓が速くなる。
――見ちゃだめ。
そう思ったわけじゃない。
でも、
気づいたら。
私は、
視線を逸らしていた。
カレーに目を落として、
何もなかったみたいに、
スプーンを動かす。
(……今の、なに)
自分でも驚くくらい、
自然な動きだった。
誰にも見られないように、
ただ、
その場から逃げるみたいに。
海翔は、
何も言わない。
でも、
隣にいる気配が、
少しだけ近くなった気がした。
それが、
妙に落ち着く。
逆に、
落ち着いてしまうのが、
少し怖かった。
(私……)
二人の視線が重なった瞬間。
そこに、
自分が“挟まれていた”ことに、
今さら気づく。
西園寺くんの視線は、
熱を帯びていて。
海翔の視線は、
動かない壁みたいだった。
どちらも、
私に向いていた。
だから、
逃げた。
理由なんて、
考えなかった。
考えたら、
もっと怖くなる気がしたから。
私は、
何も知らないふりをして、
朝ごはんを食べ続ける。
でも。
胸の奥に残った、
小さなざわつきだけは、
消えなかった。
(……なんで、避けちゃったんだろ)
その答えを、
私はまだ、
自分に聞けないままだった。