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「おはようございまぁす」
マヌーレさまが目を擦りながら部屋から出てきた。
「おはようございます」
女将さんが起きた方達のチェックをしながら、にこやかに返す。
それから私、『元』ドジのサーメルカークの仕事。
一人一人に合ったご挨拶をすること。
お辞儀をして、笑顔で、笑顔で。
「逝ってらっしゃいませ、良き明日を願っております」
顔を上げた先に、マヌーレさまがいた。
「おはようございます、今日は通りに出られますよ」
亡くなった人は、旅館に来たって二日目から横の通りに出れる。
道を挟んだ片側は、全て冥楼旅館。
そして、向かいに店などがある。
「はい、分かりました」
大抵の人は通り?という顔をするのに当たり前のように返事をした。
この人はやはり《散らぬ花》かも。
前の記憶があるのかもしれない。
ふわりと微笑み、女将さんが挨拶を繰り返す。
「お早いお目覚めで。逝ってらっしゃいませ」
慌てて頭を下げる。
だが、机の角で頭を打ってしまった。
頭を抱えたら、肘で置物を壊してしまい、女将さんに呆れられた。
「あんたねぇ…」
目の前に白い手がある。
その手をつかんで立ち上がり、埃を払った。
(毎日それは念入りに掃除しているので埃など無いはずだが……)
女将さんのかと思ったが、それはマヌーレさまの手だった。
「相変わらずですね…」
目の前で苦笑を浮かべたマヌーレさまに17歳の面影はない。
幼子を見守るような、母の表情だ。
「あっ、申し訳ありません、ありがとうございます…」
大丈夫ですよ、と優しくマヌーレさまは言う。
「私ったらドジですね…」
そういいながら違和感に気づいた。
マヌーレさまは、今なんと言った?
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