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月城 蓮桜音
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ふわもちお餅
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「……なんか、めっちゃ眠い」
夕食を食べ終わり、配膳カートと食器を返して戻って来ると、アトリがソファーに沈み込みそうになっていた。ちなみに、病院の消灯時間よりもまだ早い。
「もう風呂入って寝るか。色々あって疲れたよな」
アトリが意識を取り戻したのが、まだ今日の朝の出来事だというのが信じられない。お互い、二人でいる空気感にすっかり慣れてしまっていた。
病室は完全個室なのでバスルームがある。
バスタブにお湯をはりながら、タオル等を準備した。
「?あれ」
急にアトリは何か思い付いたようで、ソファーから身を起こした。
「昨日俺ってお風呂入った?」
「昨日は、オレがきっちり身体を拭いて綺麗に致しました」
アトリは顔を赤らめ、それを隠すように頭を抱えて丸くなった。
「うあぁ…何から何まですみません」
「背中に傷があって洗いにくいだろうから、今日もオレが手伝うよ。服脱いで待ってて」
タオルを手渡すと、何やら複雑な表情になったが、素直に彼は脱衣場に向かう。
自分の着替えの支度をして、脱衣場に後から
入ると、ちょうどアトリが入院着を脱いだところだった。
「あ、傷の具合見せて」
「うん…」
「傷のとこ、熱を持ってたり、痒かったりしないか?」
「大丈夫」
両腕と、背中に巻いた包帯とガーゼを取る。
順調に塞がってきているようだ。
(裂傷って、厄介だよな。化膿しないように気をつけないと)
マコトが続いて裸でバスルームに入ると、アトリが驚いた顔で振り返った。
「……マコトも脱ぐの?」
「アトリを洗ったら結局こっちの服が濡れるだろ。ついでに一緒に入った方が手っ取り早い」
シャワーの栓を捻って、お湯が出てくるのを待つ。
「雑」
「合理的って言え」
シャワーをアトリの頭からかける。
そして、持ってきた小瓶の液体を手に取って、彼の髪で泡立てた。
「これ何?…あ、凄くいい匂い」
「これ1つで、頭から身体まで洗える、液体石鹸。オレが作りました」
今回、この病院にも薦めてみようと思って、何種類か香りの違うものを持ってきたのだ。
「お医者さんなのに、こんな物まで開発するの?」
アトリが首を傾げた。もっともな疑問だと、自分でも思う。
「別の使い方もあるんだ。希釈して布に染み込ませれば、お風呂に浸かれない時にこれで拭くだけで身体の清潔が保てる。寝たきりの人が多い施設だと便利だろ?」
実は、お風呂に滅多に入らない先輩がいて、堪えかねて思い付いたものだった。
そんな風に、普通に過ごしていて思い付いたものが多いので、マコトが特許を取ったものには脈絡がない。
さすがに背中以外は自分で洗って貰って、 最後に頭からシャワーをかけて泡を一気に全部流す。一瞬アトリが前のめりになった。
「ぷわっ……シャワー激しすぎ」
「何を言う。これが全身丸洗いの楽しさだ」
泡が流れた後、改めてアトリの創傷を見る。両腕と背中の裂傷。どういう状況だと、こんな風に傷を負うのだろう。
傷がこちらに向くように、腕を掴んで肘を曲げさせる。
「?マコト」
(例えば、衝撃を腕で庇って――)
腕を掴んだまま、壁際にアトリを寄せる。
(壁にぶつかったり…?)
「……マコトっ。なんか、これ嫌だっ……」
アトリの必死の呼び掛けに、はっと我に返る。気付けば、彼を至近距離で壁に押し付けていた。
「あ、うわ、ごめん。考え事してた」
飛び退くように離れる。あまりに近くになりすぎて、赤面してしまう。
「勘弁してよー。裸なんだし」
アトリの方も、顔が赤くなっていた。
何だか、おかしな雰囲気になってしまった。
その後は、考えも散漫になりながら、二人は順番にバスタブに浸かって風呂を出た。
「――っ!」
何かを思い出しそうになったところで、アトリは目を覚ました。
酷く怖い夢を見た。怖かったことだけを覚えている。心臓が激しく脈を打っている。
(ここは、夢の中じゃない、よな?)
横に寝返りをうつと、隣のベッドでマコトがこちらに顔を向けて寝ているのが見えた。
自分の蒲団を抜けて、彼のベッドの側に立つ。
意外と寝顔が幼い。起きている時は、終始自分を気に掛けて世話を焼いてくれるから、随分歳上のように感じているのだが。
その、耳から顔の輪郭、首筋までを、そっと指でなぞる。
――この人の存在は、限りなく『現実』だ。
暗闇の中で1つの灯りを見付けたかのように、ほっとする。
「……なにしてんの、アトリ」
「あ」
起こしてしまったようだ。
「……怖い夢を見たんだ」
しどろもどろで答える。
「あー、そっか」
緩慢な動きで、マコトが起き上がる。そして、自分の枕をアトリの枕の隣に置いた。
「こっちのベッドの方が広いからな」
アトリの寝ていたベッドに潜り込み、おいで、と手招きする。
戸惑いながら一緒の蒲団に入ると、マコトはアトリの胸のあたりを、掌でトントンと柔らかく叩き始めた。
「はい、おやすみー」
(小さい子供じゃないんだからさ……)
こんなことで寝られて堪るか、と抵抗したが、次第に瞼を開けていられなくなる。
間もなく、アトリは眠りに落ちた。
コメント
1件
うわ、風呂場のあの「壁に押し付ける」シーン、めちゃくちゃ印象的でした。マコトが医者としての観察眼と、無意識のアトリへの執着みたいなものが混ざっちゃった感じがして…。しかも「裂傷って、厄介だよな」と心の中で呟きながらああいう動きになるのが、職業と感情のバランスが絶妙でした。 それから自作の石鹸の設定も好きです。「これ1つで頭から身体まで洗える」って、現実の医療現場でも需要ありそう。設定の細かさに世界のリアリティが宿ってるなと。 最後の「怖い夢→トントンで寝かしつけ」も、無意識の信頼関係がにじみ出てて温かい。この二人、いい距離感ですね。