テラーノベル
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一方通行のめめこじが向き合うまでのお話
🧡side
俺の世界は、この3:2に映るファインダーの中の小さな世界。
記憶っちゅーもんは、段々薄れていくから、俺は絶対に想い出に残しときたい。
言葉は残せんでも、切り取ったその日、その場の画像があるだけでも、見ればきっと思い出が蘇る。
だから、俺は今日もこの小さな世界を覗いて切り取る。
「照兄ぃ、ふっかさん、こっち向いて!」
ピピ、という音の後にカシャッと軽快な音が鳴る。
振り返った照兄とふっかさんの素の顔が、ファインダー越しに映し出されて切り取られる。
またか、なんて顔をした二人が、仕方なさそうに微笑んでくれた。
カメラを構えたまま、俺も笑ってまた指でカメラを押して。
撮った写真を確認すれば、ええ写真ばっか。
俺はみんなの素の顔が好き。
人間性も映し出されるし、何よりこんな顔、メンバーや知ってる人だからこそ見れる顔やもん。
片目を瞑って、小さな世界を覗き込む。
そのまま楽屋内を見渡せば、めめがいた。
ソファーに座って、何か真剣に考え事をしているめめは、まだ俺がカメラを向けていることに気付いてない。
そのままジッと見つめていれば、ようやく気付いためめが、怪訝そうな顔をして、また視線を戻す。
「笑ってや、めめ」
「やだ」
「いけずぅ〜。俺めめの笑顔が見たい」
「いつも見てるじゃん」
「ちゃうねん!今日のめめの笑顔を残しときたいねん!」
「康二、うるさい」
俺なんか一瞥もせずに、めめはテーブルに置かれた資料を見てまた考え事をして。
その綺麗な横顔に、俺はシャッターを押した。
笑うめめも好きやけど、真剣なめめも好き。
だからコレも思い出や。
そう自分を納得させていると、楽屋のドアが開いて、阿部ちゃんが入ってきた。
俺やみんなに挨拶して、それからまだ気付いてないほどに集中してるめめの前に、机を挟んでしゃがみ込む。
「めーめ。おはよ」
「……阿部ちゃん!おはよ」
めめの視界に阿部ちゃんが入った時、それまで真剣だった表情が一気に崩れた。
俺が見れんかった笑顔を、阿部ちゃんが一発で引き出した。
咄嗟に構えたカメラにふたりを映す。
俺には向けない、メンバーの誰とも違う、阿部ちゃんだからこそ見せるようなめめの笑顔。
柔らかくて、どこか切ない表情で。
阿部ちゃんとふたり、笑い合う写真から、いつの間にかフォーカスはめめに。
アップして、その表情を切り取っていく。
「こら、康二。俺らのこと撮りすぎ」
突然暗くなったレンズの先、阿部ちゃんが手のひらで覆っていた。
カメラをおろせば、阿部ちゃんが困ったように笑っていて。
その後ろで、めめもこちらを見ていた。
でも、視線は俺やない。
めめがいつも見る先は、必ず阿部ちゃんがいる。
俺はいつからか、そんなめめを目で追って、そして気付いた。
───めめは、多分阿部ちゃんのことが好きなんや。
毎晩、その日撮った写真を確認する時、必ずと言っていいほど、めめはカメラを見ていない。
ふと見せる笑顔の先には阿部ちゃんがいて。
そうやって毎日毎日見てたら分かる。
めめは阿部ちゃんに対して恋をしてる。
さすがの俺でも丸わかりや。
だから俺は、ちょっとだけめめの背中を押してやろうと思った。
後々、自分が後悔するなんて、なんも思わんくて。
収録が終わって、照兄の声でみんながそれぞれ解散して帰っていく。
めめが上着を着て、楽屋を出ようとしたのを呼び止めた。
あからさまに面倒くさそうな顔を向けられたが、足を止めてくれた。
「なに?」
「ちょっと話したいことあんねん。少しでええから、飲み行かへん?」
にゅうひん☆
8,581
にゃーにゃ
3,689
「えぇ…ここで話せないの?」
「あかんあかん!皆に聞かれたらあかん事やねん」
「なにそれ。なんか怖いんだけど」
「ええから!ほんのちょっとだけ時間ちょうだい?」
渋々承諾してくれためめと、歩いてすぐ近くにあった居酒屋へと入った。
運ばれてきたビールを片手に、とりあえず乾杯をして、一気に流し込む。
疲れた身体にアルコールが染みた。
ふぅ、と一息ついて、お通しを口に運ぶめめへ口を開く。
「なぁ、めめ、単刀直入に言うてええ?」
「なに」
片頬を膨らましながら、咀嚼するめめの喉がごくりと動いた。
ほんま、何しても様になる男やな。
こんな男に好かれる阿部ちゃんが、少し羨ましいくらいや。
グラスを掴んだ指先が、滴る水滴で濡れていく。
「めめ、阿部ちゃんのこと、好きやろ?」
そう口にした時に、めめの瞳が大きく開かれた。
同時に、ちょっとむせて、口を抑えて咳払いをした。
図星やな。分かりやす。
少し笑うと、おしぼりで口を拭いためめが、なんで、と聞き返してきた。
「そんなん、いつもカメラ向けて見よったら分かるわ」
「え、マジ?俺、そんなに阿部ちゃん見てる?」
「てことは図星やんな?めめ、バレバレやで」
「うわぁ……マジか。え、阿部ちゃんには何も言ってねぇよな!?」
「言うわけないやろ〜!」
机を挟んで向かい合うめめの肩を、身体を起こしてバシバシ叩いた。
ホッとしためめの肩の力が抜ける。
それから、顔を両手で覆って、大きな溜め息を吐いた。
めめが次の言葉を紡ぐまでに、俺はビールを飲み干して。
先におかわり頼もかな、なんて手を伸ばしかけた時に、ようやくめめが言葉を零す。
「……康二、絶対に誰にも言わないで」
伸ばしかけた手を戻した。
めめらしくない、弱気の声が俺に刺さる。
思わず正座をして、めめと向き合った。
めめは俺を見らんけど、俺はちゃんとこの目でめめを真っ直ぐに見る。
背中を押すって決めたんやもん。
「……言わへんよ」
めめだけに聞こえるような、小さい声。
それでも、ゆっくりと開いた指の隙間から覗いた目が、ようやく俺と合った。
その射抜くような目で見られたら、誰しもイチコロやろに。
阿部ちゃんも例外ではないかもしれない。
ただ、男同士という点を除けば、の話やけど。
「…康二が言うと、なんか信用なんないね」
「なんやてぇ!?」
「ははッ、ウソウソ。ありがとね、康二」
「俺、めめのこと応援してんねんで。そら男同士てゆうのもあるし、同じメンバーとかいう悩みもあるかもしれへん…。でもラウと一緒の加入組として、もちろんメンバーとしても俺はめめに幸せになって欲しいと思っとるからな!」
「ん…。マジでありがと、康二」
阿部ちゃんに向ける笑顔とは、似たようで似つかないまた違う笑みが向けられた。
あれはほんまに恋してる顔なんやな。
そう思うと、なぜかチクッと胸が痛んだ。
この日を境に、めめはよく俺に阿部ちゃんの話をしてくるようになった。
「なぁ、康二。ちょっとしんどいかも…」
「おん。じゃあ今日はなに食べたい?」
俺にバレてからのめめは、あからさまに俺を頼ってくるようになった。
阿部ちゃんへの想いが増しているのか、たまに心が苦しくなる時があるらしい。
そんな時に、毎回めめは俺をご飯に誘って、阿部ちゃんの話をしてくる。
俺はそれを慰めたり、アドバイスしたり、ただただ話を聞いて。
自分の心が疲弊してるなんて気付かないまま、静かに蓄積されていく想いとは裏腹に、今日も俺はめめの口から阿部ちゃんの話を聞く。
「…阿部ちゃんにさ、ちょっと褒めて欲しくて。ココ最近、英語の勉強したノートを見せたんだけど、めちゃくちゃ訂正された。絶対呆れられてる」
「めめがおバカさんなんて、ずーっと前からメンバー皆知っとるっちゅうねん」
「ちょっとでもカッコイイって思われたいの」
「めめはカッコええやろ」
「中身までカッケェって思われたいんだって〜」
はぁー、と項垂れるめめはいつも通りで、俺はそんなめめへ鞄から取り出したカメラを向けた。
ファインダーの小さな世界に、めめを収める。
ピピッとなる音で、少しだけ顔をあげた瞬間にシャッターを押した。
その流れるような視線も、雑誌の表紙に出来るほど色気があって、思わず息をのむ。
「……めめ、言わへんの?阿部ちゃんに」
「言って壊れるくらいなら、言わない」
めめに問いかけたあの日から、この答えも変わらへん。
それがモヤモヤしたり、時おり胸が苦しいほどに痛い。
そんなにしんどいんやったら、伝えたらええのに。
きっと阿部ちゃんは、断ったにしても、OKするにしても、メンバーとの距離間は絶対に変えへん。
だってあんなにメンバーが好きな人やもん。
俺だってメンバーみんなが好き。
やから分かんねん。誰ひとりとして、関係を崩すことはない。
だけどめめは、それが分かっていたとしても、言わない選択肢しか持たん。
言わへんまま苦しむなんて、ちょっとズルない?
そんな喉の奥から出かけた言葉を、ビールと一緒に飲み込んだ。
今日も俺は、カメラを片手に皆を映す。
それを寝る前に見返すのがとても幸せなのに、ここ最近はずっと苦しい。
照兄、ふっかさん、しょっぴー、舘さん、阿部ちゃん、さっくん、ラウール。
ボタンを押しながら、ひとりひとり移した写真を見るのは、思わず笑みが零れるほど愛おしく思うのに、めめの写真だけは手が止まる。
どれを見ても、めめはこっちを向いてへん。
それが何故か苦しくて、痛くて、辛い。
よぉ分からへん。
阿部ちゃんを想うめめの心情に引っ張られているのか、なんで俺が辛い思いしとんねんってツッコミたくなるくらいや。
楽屋の中、それぞれにフォーカスを当てて写していく。
今日も皆してええ顔。
……やのに、まためめだけがこっちを見てへん。
視線の先で、しょっぴーと阿部ちゃんが話してる。
それを頬杖をついて静かに見つめて。
嫉妬とか、いいなとか、そんな目で見てへんのはわかる。
ただただ阿部ちゃんを、好きだなって顔で見てる。
その横顔に問いかけた。
───なぁめめ、こっち向いて。
シャッターを押すたびに、息が詰まって、あかんって思った。
ゆっくりとカメラを下ろして、楽屋から静かに外へ出た。
長い廊下を歩いて、それが段々と早足になって、人気のない階段の隅でずるずると壁にもたれて座り込んだ。
「……ふ、っ…ぅ…え…ッ」
なんでやろな。
涙が勝手に出てきて、嗚咽が漏れる。
胸元のシャツを手繰り寄せて、心臓を叩いた。
ズキズキする。チクチクする。
でもコレが何なのか分からんくて、苦しい。
膝を抱えて、唇を噛み締める。
泣くな、泣くな。
そろそろ戻らんとやばいのに。
そう思っても涙は止まらんくて。
どうしよう、なんて思っていると、頭の上から何かが被さった。
いきなりの暗闇。
頭の上に置かれた重みに、肩がびくりと跳ねた。
「康二、また泣いてんの?どうした?」
「……舘さん…?」
暗闇から顔を出すと、俺の頭に腕を置いた舘さんが横にいた。
被せられたそれは、舘さんの上着だった。
この人はほんまにメンバーの事をよく見てる。
俺が泣くのを毎回察知して、唯一追いかけてきてくれる人。
その温かさで、また涙が零れた。
「今日はどうしたの。振り入れミスでもあった?」
「…ちゃうねん。なんか、苦しくて…」
「え?病院いく?」
「ちゃうよ、舘さん。そうじゃなくて…」
舘さんの優しさに、心が解けて口を紡いだ。
めめが阿部ちゃんを好きなのは黙って、めめがこっちを向いてくれへんこと、めめを見ると苦しくなること、でもめめには幸せになって欲しいこと。
全部伝えて、返ってきた言葉はシンプルだった。
「康二、それ、お前がいちばん気付いてるんじゃないの?」
眉根を寄せて、むしろ気付いてないというのがおかしい様な顔をして、俺の顔を覗き込む。
キョトンとした俺の顔に、眉を下げて笑う。
ちょっと分厚い手のひらが、俺の髪をクシャッと撫でた。
この人はほんまに、優しい。
「だって、答えもう自分で言ってるじゃん。目黒が好きなんでしょ?」
「…俺が、めめを…好き…?」
「そう。苦しいなら、伝えればいい。康二のその素直な想いを、目黒に伝えたらいいよ 」
「…苦しいなら…伝える…」
それは俺がめめに言ったのと同じセリフ。
今、俺はめめと同じく苦しんでる。
それは、好きだから。
気付かないようにしていたのだろう。
だって、めめは阿部ちゃんが好きで、めめの幸せを願っていたから。
それを俺が邪魔するなんてしたくなくて。
蓄積させていた想いが溢れて、また涙が出た。
俺の涙が止まるまで、舘さんの手のひらはずっと、俺の頭を撫でていた。
「康二」
収録終わり、楽屋へ戻る途中で、めめの声に振り返る。
手招きをされて、踵を返してめめに近づく。
周りのメンバーに気付かれないように、耳元でめめの声が響く。
「今日、ご飯いい?」
「……ええよ」
いつも通りに笑う。
めめにはまだ、伝えれてない。
というか、伝えれる隙もなければ、タイミングも分からない。
だって今伝えたところで、振られるのは目に見えてる。
余計に苦しくなってしまうから、まだ、言えない。
めめも阿部ちゃんに対して、同じ気持ちなんかもしれん。
でも、めめはまだ望みがある。
阿部ちゃんがどう思っとるかなんて分からんし、もしかしたらなんて事も有り得る。
せめてめめが、早く言ってくれたなら…。
そんな事を心の隅で思ってしまった。
仕事を終えて、皆と別れて、めめとふたりでお店へ。
他愛もない会話をしながら、運ばれてきた焼き鳥を手にして、口に入れる。
腹を満たしながら、俺はまたカメラを手に今日撮った写真をチェックして。
暫くすれば、めめがまたいつものように阿部ちゃんの話をし始めた。
今日の阿部ちゃんも可愛かった、だとか、阿部ちゃんの歌声がよかった、どんな会話をした、本当に些細なことも。
俺はそれをひとつずつ、ちゃんと聞いて、ちゃんと答える。
めめの目を見て、ひとつずつ。
だけど、やっぱり苦しいのは変わらん。
少しずつ足されていった水が、零れる寸前、コップの縁ギリギリを保っている状態や。
めめ、苦しいのは、俺もやで。
気付かへんやろ?
めめ、俺はここにおんのに、なんで目が合わんのやろな。
おかしな話やろ?
めめが今話してるのは、俺やのに。
めめの目には、阿部ちゃんしか映ってない。
俺が入る余地なんてなにひとつないのに。
舘さん、見てみぃよ。
素直に伝えたところで、俺は勝てへんよ。
「それでさ、その時に阿部ちゃんが……っ、康二?」
「…ん?」
「いや、なんで泣いてんの…?」
「え…?」
めめと目が合う。
気付かない内に、俺の頬には涙が伝ってて。
慌てて腕で拭った。
その腕を、めめの手が止める。
やめて、ちゃうねん、言いたない。
変に優しくせんでくれ。
「──っ、康二!ごめん、俺なんか言った?」
「ち、ちゃう!目にゴミ入ったみたいや!」
「嘘つくな。康二、具合悪い?」
「いやほんまに、なんもあらへんて」
「康二」
めめの指に力が入る。
痛いくらいに掴まれた腕を下ろして、めめを見た。
真っ直ぐに俺を見て、その瞳にはちゃんと俺が映っていて。
目が合ったのに、嬉しくない。
そんな目で見んといて。
俺が欲しいのは、愛おしそうに眺めるあの視線なのに。
「…めめ、阿部ちゃんに告白せぇへんの」
「なんで今その話になんの?しないって言ってるよね」
「っ…怖いからか?」
「え?」
「怖いから…言いたないだけやろ?関係が壊れるのが嫌なんやもんな」
「康二…何言って…」
ちゃうねん。
俺の腕を掴むその指の強さも、俺の名前を呼ぶその声も。
比較したってなんも変わらへんのに。
俺はどうしたって阿部ちゃんにはなれへん。
阿部ちゃんを見る時みたいに俺を見てよ。
阿部ちゃんを想う時みたいに名前を呼んでよ。
めめの頭の中、少しでも俺を入れて。
俺はずっと、めめを見てるのに。
「~~~~ッ俺が…!俺がどんな気持ちでめめを応援しとる思っとんねん!!」
握られた腕を振りほどく。
ガシャン、と机の上の皿が揺れて、激しく音を鳴らした。
グラスに注がれたビールが波を打つ。
水面が揺れて、水滴が跳ねる。
振りほどいた腕の先、めめが傷付いたように悲しい顔をした。
なんでめめがそんな顔すんの。
そんな顔、せんといてよ。
笑った顔が一番好きやのに。
もういっぱいいっぱいだった心に、一滴の雫が静かに落ちた。
たった一滴。
それだけで、溢れるには十分だった。
呼応するように、ぼろぼろと零れていく涙も、ひた隠しにしていた想いもすべて決壊していく。
「も…しんどいねん…」
騒がしいはずの居酒屋なのに、周りの音がやけに静かで。
自分の鼓動だけ、耳に響いてやかましい。
俺が静かに零した想いは、消えそうに小さく紡がれる。
耳を塞いで、めめの声も遮断した。
「……めめを好きなのが、しんどい…。めめに幸せになって欲しいだけやのに、応援するって決めたんに、それを嫌だと思う自分も、もう嫌や…」
吐き出した想いに、より強く自分の気持ちを知る。
あぁ、俺こんなにめめを好きやったんやな。
多分最初から、ずっと。
だからめめの気持ちにも気付いた。
自分の気持ちには蓋をして。
幸せになってほしかったのに嘘はあらへん。
やけど、めめの視界に映るのは俺であって欲しかった。
それも嘘やないよ。
再び伸びてきためめの手を叩き返した。
ごめん、と小さく呟いて鞄を手に取ってバタバタと店を飛び出す。
街の灯りも、行き交う人の声も、何も目には映らない。
立ち止まれば見慣れた風景だとしても、いくらでも綺麗な風景はあるはずなのに。
カメラを向ければ広がる俺の小さな世界に、今は何も映したくない。
自宅までの道をただひたすら走った。
息が上がって苦しい。
めめを想えば苦しい。
好き。めめが好き。ただ、それだけなのに。
「康二、これ…」
楽屋の前の廊下で、ばったり会っためめが気まずそうに俺にケースに入ったカメラを渡してきた。
昨日帰ってから、カメラを忘れたことに気付いた。
大切な物なのにそれすら忘れるほど、頭は冷静ではなくて。
差し出された手から、カメラを受け取った。
少しだけ触れた指先が熱を持つ。
めめは多分、いま目の前の俺を見てくれている。
それなのに、俺はめめを見れずにいる。
「…康二、あのさ…」
気まずい雰囲気に、先に口を出したのはめめだった。
だけど、何を言ったらいいか迷ってる。
俺がめめを好きって言って、それでどう思った?
少しは俺のこと片隅に考えてくれた?
それだけでも十分や、めめ。それでええんよ。
自然と、ふっと笑いが漏れ出た。
「めめ、ごめんな。昨日の事、忘れていつも通りにしてくれるか?」
「え…ぁ、うん」
「よし!ほな行こか!みんな待ってんで」
あえてめめとは目を合わさず、出来る限りの笑顔を向けた。
それから楽屋へと一緒に入って、いつも通り仕事して。
その日は一日、カメラを触れずにいた。
あれだけ毎日撮っていた俺のメモリーに、その日のフィルムだけ無くて。
そんな日もある。仕方ないこと。
そう思いながらここ数日の写真を見返していく。
収録の合間、楽屋、プライベート。
メンバーの写真とは別に、風景もあって。
たった数日前でも懐かしさで、記憶が蘇る。
俺が見る世界は全部が輝いて見えていた。
なのに、今は暗い。
指が止まる。
めめの横顔、その先の笑った阿部ちゃん。
真剣に見つめる顔から、1枚1枚進んでいくごとに、めめの表情が柔らいで、屈託の無い笑顔へと変わっていく。
愛しそうに、その目が好きだと物語っている。
「えぇなぁ…阿部ちゃん…」
もう、撮れへん。
俺の世界に、めめを映せへん。
こっちを向かないめめに、淡い期待を抱きたくない。
めめの写った写真を選択して、メニューを開く。
一番下の削除の項目へと下げていく。
何度か指が押すのを迷って。
ゆっくりと瞬きをして、深く息を吐いた。
画面に表示されていた写真が消える。
だけど不思議と、もう涙は零れなかった。
あれから数週間が経った。
個人の仕事も忙しくなり、中々メンバーに会えない日々が続いていた、
今日は久しぶりにメンバー全員が集まって、歌番組の収録がある日。
楽屋に入ると、ほぼみんな集まっていた。
各々準備して、リハをやって、休憩して、本番して。
朝から夜まであっという間に過ごしていく。
何ら変わらない1日。
めめとも自然と話が出来てる。
ただ、目は合わないだけ。合わせないだけ。
見てしまえば、きっと揺らいでしまうから。
「……康二、撮らないの?」
収録が終わって、帰る支度をしている時に、めめから話しかけられた。
まさかめめからそんな事を言われるなんて思ってなくて、ちょっとビックリした。
肩にかけた鞄の中、カメラは入ってる。
でも出さなかった。
休憩中も、リハの合間も、撮ろうと思えば撮れたのに、出せなかった。
みんな多分、気付いていたけれど、そんな日もあるだろうと気に止めなかっただろうに。
めめは本当にズルい。
見なかったのは自分のくせに。
「んー…今日はええかなって」
「…俺のせい?」
「ちゃうよ。めめのせいやない」
首を横に振って、否定する。
俺が弱いだけやもん。
俺の気持ちの問題や。
撮れないのも、きっと今だけ。
「康二」
めめが俺の名前を呼ぶ。
聞きたないのに、足は止まったままで。
ほなまたな、なんて言って帰ればいいのに。
俯いた視線の先にめめの足。
それがゆっくりと近づいてきて、身体が余計に強ばった。
「俺、決めたよ」
爪先が触れ合うほど近く、頭の上からめめの声が降りかかった。
その言葉を理解するのは一瞬で、目が開く。
次いで出てくる言葉が予想できる。
強く拳を握った。
あの日みたいに、心臓の音がうるさくなって、周りの喧騒なんて耳に入らなくて。
めめの低い声が、俺の身体に鉛を落としていく。
「阿部ちゃんに、ちゃんと伝えてくる」
きっと、今、めめは凄くいい顔をしてんねやろな。
覚悟が決まった顔は、一番カッコええ。
シャッターチャンスやのに、惜しい事をした。
唇をキュッと噛み締めて、息を整える。
握りしめた拳に、爪が深く食いこむ。
今、行かんといて、なんて言えるはずもなく。
俺が出来ることは、めめの背中を押すこと。
そんなのよぉ分かっとんねん。
「そ…っか!行ってこい!めめなら大丈夫や!…阿部ちゃんもきっと、めめを見てくれるよ」
「ん…、ありがとう、康二。お前に言われたこと、凄く効いた」
「何もしてへんけどな!ほな、俺帰るわ。またな、めめ!頑張れ!」
声が震えそうになるのを精一杯押し殺した。
めめ、俺はちゃんと笑えてた?
上手く喋れてた?
泣かなかったの、偉いやろ?
大丈夫よ。追っかけてもらえんでも、俺を見らんでも、俺はちゃんと前を向ける。
時間はかかるかもしれへんけど、またちゃんとめめを俺の世界に映すから。
だから、その時は少しでも、こっちに笑って。
めめが幸せなら、俺も幸せやから。
靴を脱ぎ散らかしたまま、バタバタと部屋へ上がり込んで寝室のベッドへと倒れ込む。
シーツを掴んで、顔を埋めて、身体を丸めた。
悔しいのか、寂しいのか分からへん。
めめが上手くいったら俺も嬉しい。
瞼を閉じた暗闇に、めめを思い浮かべた。
現像する写真に、俺を見るめめはいないけれど、俺の心のメモリーにはちゃんと笑ってるめめがいる。
それでいい。
誰も知らん、俺だけのアルバムの中のめめ。
好きの気持ちと一緒に閉じ込めた。
静まった部屋に電話が鳴る。
いつの間にか眠ってしまっていて、表示も見らずに慌てて電話をとった。
まだ開かない目を擦って、もしもし、と聞き返す。
低く、どこか甘く、鼻にかかるような独特の声が耳に届いた。
「もしもし、康二? 」
思わず耳から離して、携帯に表示された名前を見る。
さっき楽屋で別れたはずのめめからだった。
時計を見れば、2時間ほど経っていた。
もう一度、耳に携帯を押し当てる。
震えそうになるのを、空いた方の手で抑えて。
「……な、に?」
「いま、家?」
「家やけど……」
「すぐ近くまで来てるから、出てこれない?」
「なんで…」
「いいから。カメラ、持ってきてよ」
待ってる。
そう言って電話が切れた。
行かない選択肢だってあるはずなのに、身体は動いていて、ベッドから降りて洗面所へ走った。
寝起きの顔を洗って、少し乱れた髪を軽く整えて。
身なりを整えたところで、意味がないのは分かっている。
分かっていても、少しでもカッコよく見られたい。
めめが前に言ってた気持ちが、今ならよぉ分かる。
薄手の上着を羽織って、ケースに入ったカメラを手に取った。
持ってきてよ、と言っためめの言葉を反芻する。
なんで今、カメラが必要なんやろ。
今更、何を撮れというのだろうか。
もしかしたら、阿部ちゃんがいるかもしれない、という危惧すらあった。
ふたりを撮るだなんて、出来ひんのに。
置いていこうかと迷って、だけどやっぱり持ち直して靴を履いた。
玄関を出ると、生ぬるい風にのって、夜の匂いがした。
マンションから見下ろす街の夜景はいつもと変わらないはずなのに、久しぶりにハッキリと目に映ったその景色は綺麗で。
エレベーターを降りて、エントランスを抜けると、上からは分からないほど人が行き交っていた。
こんな時間でも、まだ街は賑やかなまま、静まることを知らない。
俺だけが、置いてかれそうなくらいにゆっくりとした空気に包まれる。
人ごみの中、目線の先に、目立つ高身長。
変装していても分かるくらいオーラが違ってて、バレバレやんって、ちょっと笑った。
俺に気付いためめが、大きく手を振りながら近づいてきた。
「こっち。ちょっと人の少ないところ行こ」
「……めめ、阿部ちゃんは?」
「後で話すから」
大きな背中を向けて、数歩前を歩き出しためめについて行く。
ほんま、マイペースな男やな。
無自覚に人を振り回して、人の気も知らんで。
離れないように、だけど一定の距離でめめについて行く。
少し歩いて、大通りから外れて、なんて事ない道路の白線を踏む。
街灯のぼんやりとした明かりが、影を作る。
振り返っためめが、撮ってよ、と口にした。
「……撮れへんよ」
「…いいから。カメラ構えて」
「なんで…?」
「いいから」
めめの手が重なって、ケースを開ける。
ほら、と渡されたカメラを首にかけて、目の前にいるめめをファインダー越しに覗いた。
「映ってる?」
そう言いながら数歩離れて、電柱の影から飛び出したり、何回かポーズを取る。
だけど俺はシャッターを押せないまま、ただ小さな世界の中のめめを見る。
時おり合う視線が、胸を刺す。
あれだけ呼んでも見なかっためめの目が、今おれの世界を覗いてる。
「康二、俺、振られたよ」
両手を広げながら、くるくる回って、眉根を下げためめが笑う。
一瞬、空気がひんやりとした。
カメラを構えた手が、冷たくなっていく。
どういう感情をもてばいいのか、分からなかった。
言葉を返せずにいると、めめが背中を向けて止まった。
「…違うな。振られた、じゃなくて、振ってもらった、が正しいのかも」
ちょっと考えるような素振りを見せて、もう一度俺に振り返る。
街灯に照らされためめの表情はよく見えない。
「康二が俺に怒って、カメラを忘れた日、ごめんけど中身見ちゃって。ほんと俺、視線がずっと阿部ちゃんだったなって 」
紡がれていく言葉は、耳を通り抜けて、現実から引き離していく。
めめが何を言いたいのかよく分からなくて。
「あー、ほんっと、好きだった…」
知っとるよ。
何回聞いたと思ってんねん。
そんなの、俺がいちばん知ってる。
だってずっと見てたんやもん。
「でもね、康二を泣かせてしまって、俺、ちゃんとまずお前と向き合わなきゃって思った。阿部ちゃんの事もだけど、お前の気持ちを無視したままはダメだなって」
「……めめ?」
「だから、会わなかった時間、ずっと考えた」
「…っ、」
「今更さ、こんな事言うのもズルいって思ってる」
指で鼻を拭って、スンっと息を吸っためめが、静かに息を吐く。
ふたりの吐息と、コンクリートの砂利を靴裏が踏む音だけ静かに響いて。
「俺、康二を泣かせたくないなって」
なんやそれ。
なんなん、それ。
俺が泣き虫なことくらい、分かっとるやん。
何を今更…ほんと、今更やで、めめ。
泣き顔なんていくらでも見た事あるくせに。
意味がわからんくて、喉に詰まった言葉が出てこない。
「康二の気持ちも考えなくて、泣かせてしまった日から、康二の事ばっか考えるようになって…。でも、阿部ちゃんを好きだった気持ちに嘘はない。だから、思い切って振ってもらうために伝えてきた」
「そ…んなん、OKやったら、どないするん…」
「阿部ちゃんが俺を見てないことくらい、康二も分かってるでしょ」
困ったように、めめがハハッと笑った。
分からへんよ。
だってめめしか見てへんもん。
いつでも追いかけていたのはめめだけやったから。
メンバーを撮っていても、いつでも欲しかったのはめめの目線だけ。
今はそれが、ちゃんと俺に向いている。
こんなに嬉しいことはないよ、めめ。
これ以上、なんも要らへんのに、 めめの口はまだ止まらなくて。
「……康二、まだ時間はかかるかもしれないけど、俺はちゃんとお前と向き合いたいって思ってるよ」
夢なんかな、これ。
俺の世界の中で作り上げた夢かもしれん。
だって、もうお腹いっぱいやもん。
めめがこっちを向いてくれてるだけで幸せやのに、そんな言葉まで貰ってええの?
塞ぎ込んでた想いが溢れて、ようやく目の端から涙が伝った。
「…ほんまに?」
「俺、嘘つけるほど器用じゃないよ」
「信じれへん…」
だってあんなに、阿部ちゃんの事が好きやったのに。
ありえんくて、まだ受け止めきれずに、ファインダーを通してめめを見るのに視界はぼやけて。
めめが大きく手を広げた。
それから、ゆっくりと言葉を零していく。
「康二、ファインダー越しじゃなくて、俺の目を見て」
めめの言葉に、カメラを下ろした。
改めて、めめと真っ直ぐに目が合う。
あれだけ見て欲しかった視線が、今はなぜかこそばゆくて。
だけど、ちゃんと俺を見てる。
嘘やない。その視線に、嘘はない。
気付けば手を広げためめの胸に飛び込んでいた。
めめが口を開けて、やだぁ、なんて言って大きく笑う。
零れる涙を拭って、俺も笑った。
それからまた、近距離でカメラを構えて、めめを映す。
押せなかったシャッターが音を鳴らした。
夜の暗闇に、笑っためめが写る。
初めてちゃんと、こっち向いて笑ってくれためめを切り取った。
えぇ顔しとるよ、めめ。
心が満たされていく感覚に、思わず心の声が漏れた。
「最高や」
3:2の小さな俺の世界。
そこに映るめめを、俺はこれからも写していく。
夜の静寂も、朝の喧騒も、メンバーの笑顔も、伝えられないほど美しい景色も。
何億画素でも物足りないほどの綺麗な世界と共に。
いつまでもこの世界は、俺の大事な宝物だから。
END.
🧡のソロ曲「ファインダー」を聞いて真っ先に思い浮かんだのが🖤🧡の片思いで…( ˇωˇ )
歌詞をなぞってるのもあるので、ぜひ聞きながら読んで欲しい…笑
今回も読んで頂きありがとうございました!
いつもいつも長くなる🙃まとまり下手くそすぎてすみません…笑
コメント
11件
ファインダーの「カメラを下げたそこには君が」のところが読んでたら頭に流れてきて涙腺崩壊でした😭
💚は、誰を見てるの?🤔
拝読しました…kjのソロ曲が話の儚さと曲の雰囲気とあっていてめっちゃ好きです 最終的に結ばれて尊くて倒れました😇kjの感情が細かく描かれていて読んでる方も切なくなりました😭