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夜が今日も明ける。水色のカーテンに映る街の影がこさめに朝を告げていた。サメを模した丸っこい目覚まし時計を泣き止ませ、ベットの上で伸びをする。自身のふわふわの白いパーカーパジャマが体を柔らかく包む。六畳半の部屋に、机や冷蔵庫が所狭しと並べられている。
机の上に置いてあるマイクが、埃をかぶってこちらを寂しげに見つめていた。朝の光がこさめを包み込んで、夢と現実の間に閉じ込めている。カーテンを開ける。窓に貼った雫型のシールとサメのシールが、光を水色に染めてこさめに届けている。怖いほど綺麗な青空、ベランダから見える小鳥。全てが輝いて見えた。
こさめは深呼吸をして、澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。ベランダに出て、手すりに寄りかかりながら、小鳥のさえずりに耳を傾ける。この静かな時間がこさめにとって何よりも大切だった。気持ちを整えた後、室内に戻り、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぐ。温かいパジャマに包まれたまま、一口飲むと心が温まる。
「今日も頑張らないと」
こさめは小さくつぶやき、朝のルーチンを始める。シャワーを浴びて髪を乾かし、制服に着替える。学校のカバンを準備しながら、机の上のマイクに目を向けた。
「しばらく歌ってなかったな…」
とつぶやき、マイクに手を伸ばす。久しぶりに触れたマイクの感触が懐かしく、少しずつ心の中で歌が蘇ってくる。こさめは目を閉じて、かつての自分が持っていた夢を思い出す。音楽に夢中だった、ボーカルとしての自分。音楽と共に過ごした時間。再びその道を歩むことができるのか、不安と期待が入り混じっていた。
しかし、今はまず新しい学校生活に集中しなければならない。こさめはマイクをそっと机に戻し、朝食を取りにキッチンへ向かった。トーストにバターを塗り、ジャムを載せて簡単な朝食を済ませると、玄関へと向かった。
靴を履き、外へ出ると、輝く青空が彼を迎え入れた。新しい一日と三年間が始まる。こさめは新しい学校へと向かって歩き始めた。今日から新しい友達と高校で共に学び、笑い、青春を過ごすのだ。
目を覚ますと、体に桜の花びらが散っていた。布団にも花びらが散っていて、一瞬死んでしまったのではと思った。
「そういうことか…びっくりさせんなよ…」
昨日窓を開け放したまま寝たのだ。LANの家の近くには桜の大木がある。その花が流れてきたのだろう。布団から起き上がり、部屋を見回す。桜の花びらはそこまで多くなかったようだ。部屋の隅にある桃色のギター。最近受験が忙しくて弾いてなかった。
ふと壁にかけてある時計を見る。7:00。五秒ほど間が空き、状況を理解する。…あ、これ、遅刻するやつや。
「やばいて!入学式早々遅刻する!」
母親はもう出勤していたようだ。制服に着替え、髪を整え、急いで牛乳を一気飲みし、食パンを口に突っ込んでカバンを持つ。カバンの中身を確認し、戸締りをして急いで家を出る。朝の空には桜の花びら泳いでいた。
学校の門が見えてきた。まだ人がたくさん集まっている様子を見て、少し安堵した。遅刻は免れたようだ。息を整えながら、LANは校門をくぐる。桜の花びらが舞う中で、今日から始まる新しい日々に思いを馳せた。
いるまは目を覚ますと、布団から出てリビングへ向かった。時刻は6:00。粉末味噌汁を飲み、昨日の洗濯物を取り入れる。今日はいい天気だ。でもいるまの心には分厚い雲がかかっていた。洗濯物を畳み、身支度をする。制服に腕を通し、髪型を整える。紫色の長めの髪の毛、黄色い吊り上がった目。漫画に出てきそうな不良男子。
スマホで幼馴染に連絡を取る。LINEの通知画面に、「なつ」とだけ書かれている。電話をかけると、彼はすぐ出てくれた。
「はい…もしもし?」
眠そうな声。寝起きの彼、暇72だ。
「起きろよ。六時半だぞ」
「…え!?やっば急いで支度しないと」
スピーカーからなつの焦った声が聞こえる。何かが倒れる音と、彼の足音が聞こえる。
「焦るなよー。いつもの場所に居るからな」
そう言って通話を切る。真っ暗な家を出て、暇72との待ち合わせ場所に向かった。
眩しい青空は、いるまの生活とは真反対の姿だった。両親はほとんど家におらず、いるまはいつも一人で過ごすことが多かった。家の中は静まり返っていて、夜には冷たい孤独が襲ってくる。部屋の隅には使いかけの教科書とノートが散らばり、未完の宿題が彼のやる気のなさを物語っていた。
毎日のように繰り返される無気力な日々。学校ではクラスメイトとの交流も少なく、笑顔を見せることはほとんどなかった。唯一の救いは、暇72との時間だった。彼と過ごすひとときだけが、いるまの心に少しの光をもたらしていた。
待ち合わせ場所に向かう道中、いるまは過去の記憶にふける。かつては夢や希望を抱いていた自分が、今はどれほど変わってしまったのか。周囲の期待に応えることができず、自分自身に失望する日々。それでも、暇72との約束が彼を支えていた。
待ち合わせ場所に着くと、暇72が慌てた様子で駆け寄ってきた。彼の笑顔がいるまの心に少しの安らぎを与えた。
「待たせたな、いるま!」
「いや、俺も今着いたとこ。」
二人は並んで学校へ向かう。眩しい青空の下で、いるまの心に一筋の光が差し込むことを願いながら。
暇72は昔の夢を見ていた。仲のいい親友、いるま。彼は小学校の時までは明るくてかっこいい人気者だった。いつも誰かに囲まれていて、暇72が話しかけようとしても話しかけられなかった。
だが、中学校で彼は豹変した。明るかった彼は暗い性格になってしまった。悲しそうな彼の顔を見るたびに、心臓が締め付けられる。それでも、いるまのそばにいたいと思う気持ちは変わらなかった。彼が変わってしまった理由を知りたい、その心の奥底にある痛みを共有したい。暇72はそんなふうに考えるようになっていた。
どんなに暗い顔をしていても、いるまが自分に向ける笑顔は特別だった。暇72にだけ見せるその笑顔は、彼にとってかけがえのない宝物だった。笑顔の裏に隠された悲しみを感じつつも、彼はその瞬間だけは心から幸せを感じていた。
ハッと目が覚める。携帯が鳴っていた。いるまだった。すぐさま電話に出る。
「はい…もしもし?」
「起きろよ。六時半だぞ」
「え…!?やっべ急いで支度しないと」
いるまは画面越しに笑い、通話を切った。暇72は名残惜しく感じながら、急いで支度した。
「行ってきます」
外は目が覚めるような、それこそいるまの笑顔のような綺麗な空だった。
「おはよ〜」
すちは髪にブラシを通しながら言った。鏡越しの自分はまだ眠そうで不恰好だった。黒メッシュを深緑色の髪の毛の中から探し、寝癖を整える。朝ごはんを作り、家事を一通り済ませる。学校の支度をして、家を出る。青い空はすちの目と反対の色をしていて、綺麗だった。鼻歌を歌いながら高校に向かう。今日は、入学式だ。桜の花びらと春の風が、眠気を誘う。
「あ、猫だ」
目の前を黒猫が走っていった。ふくよかな黒猫は、黄色い目でこちらをチラリと見ると、足早に去っていった。なんだか幸せだなぁ。そう心の中でつぶやいた。
すちは歩きながら、春の空気に包まれて、今日の新しい始まりに期待を抱いていた。桜の花びらが風に舞い、すちの気持ちをさらに軽やかにしていく。新しい学校、新しい仲間、そして新しい自分が待っている。
入学式が始まるまで、すちは心の中でメロディーを奏でながら、静かにその瞬間を楽しんでいた。春の風が彼の髪を優しく撫で、光に満ちた未来が広がっているように感じられた。
「寝坊したぁ!もう、お兄ちゃん起こしてって言ったやん…!」
「みこと起きんかったんだよ」
「じゃあ耳元でさけんだりとかしてよぉ!」
「朝から声でねぇよw」
そんな他愛もない会話をしながら、朝ごはんを食べる。兄は大学生で、まだ春休み。飼い猫が餌を食べながらこちらを見ていた。
「もぅ!明日は起こしてよ?」
「それはお前次第」
「ん〜…行ってきますぅ………」
玄関から出た瞬間、違和感に気づく。足が冷たい。体が軽い!?
「あ!制服着てない!」
慌てて家に戻る。
「制服着てなかった…!」
「何してんだよw」
兄が爆笑している。つい気づかなかった。制服に着替えて、今度こそ家を出る。
「お兄ちゃんも注意してよ!行ってきます!」
今度はカバンを忘れた。自分に呆れながらまた戻る。
「バック持ってない!」
「何回目だよww」
「うるさいなぁ」
そう言ってみことは今度こそ家を出た。
心の中で、これからの日々に対する期待と、少しの不安を抱えながら、彼は新しい一歩を踏み出した。どんなハプニングがあっても、今日は特別な日だ。楽しい日になると自分に言い聞かせながら、青い空の下を歩いていった。