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「ねぇ!名前は!?」
HRが終わると、突然声をかけられた。黒髪に桃色のバングカラー。右耳に花札のような耳飾りをつけていて、目もピンクだった。
「えっと…うん。雨乃こさめだよ。」
「俺LAN!後ろの席だよ」
元気なやつだなぁ。そう思いながらこさめは後ろの席に座っている青年を見つめた。こさめよりすこし高い身長。声は高めで、こさめと同じくらい。
「こさめ何部入るん?」
「え、こさめは……」
突然の問いに答えが詰まる。今日の朝、つかんだマイクの感触を思い出す。
「軽音部、かな。」
恐る恐る答えると、LANは目を輝かせた。
「ガチで!?俺も!ちなみになんの楽器?」
「こさめは楽器できなくて…ボーカルやな。」
「ボーカルかぁ…俺ギター。」
「今日はこれで解散とする。」
担任が言った。LANはこさめと一緒に帰りたいらしい。こさめもそれを許可し、廊下を歩く。なんだか心臓がドキドキする。
「軽音部に入るの、楽しみだなぁ。」
LANが言った。こさめは微笑んで頷いた。
「うん、楽しみだね。」
心臓のドキドキは不安よりも期待の方が大きい気がした。新しい友達、そして新しい日々が始まる予感がして、こさめは少しワクワクしながらLANと一緒に歩き続けた。春の風が心地よく、二人の間に新しい友情の芽が育ち始めるのを感じていた。
「ふざけてんのか!」
昇降口を出ると、突然背後から大声がした。振り返るとそこでは四人、男子が喧嘩していた。
「べつにふざけてねぇよ!」
「肩ぶつけたんやから謝れや!」
「お前がぶつけてきたんだろ!」
「いるま落ち着けって…!ここでやり合ってる時間が無駄だろ。先輩にも失礼だし。」
「………帰るか」
紫色の髪の毛の男子は、金髪の男子に咎められて落ち着いたようだ。おそらく相手は三年生。殴りかかったとしても勝てないだろう。そう思ってLANの方を振り返ると、
………LANくんがいない!?
「お前らァ!先輩だからっていい気になるなよッ!?」
「え、LANくん?」
さっきの先輩に後ろから殴りかかっていた。
「あぁ!?なんだテメェ!」
「この野郎!!」
「ら、らんくん!?!?」
こさめは止めようとLANの方へ走った。
「やめて、LANくん!」
「こさめ、引っ込んでろ!」
LANは叫んだが、こさめは構わずLANの腕を引っ張った。紫髪の少年と金髪の少年も駆け寄ってきた。
「だめだよ、LANくん!こんなことで怪我したらどうするの?」
「けど…!」
「お願い、行こう。」
こさめの真剣な眼差しに、LANはしばらく黙っていたが、やがて肩を落として頷いた。
「わかったよ…」
こさめはホッとし、LANを引き連れてその場を離れた。先輩たちも何も言わずに見送った。
二人はしばらく無言で歩き続けたが、やがてLANが口を開いた。
「ありがとう、こさめ。」
「ううん。無事でよかったよ。」
こさめは微笑み、LANも少しだけ笑顔を見せた。春の風が二人の間を吹き抜け、緊張が和らいだように感じられた。これからの日々も、いろんなことがあるだろうけれど、二人で乗り越えていける気がした。
その時、さっき喧嘩していた紫髪の男子と金髪の男子が近づいてきた。紫髪の男子が先に話しかけてきた。
「さっきは悪かったな。お前らに迷惑かけた。」
「いや、こちらこそごめん。おれもついカッとなっちゃって…」
LANが申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いるまって言うんだ。こいつは暇72。」
金髪の男子が軽く手を振った。
「暇72です。二人ともありがとうな。助けてくれて。」
「ううん、何もしてないよ。」
こさめが謙虚に答えた。
「でも、お前たちの仲良さそうな姿を見て、少し落ち着いたよ。いるまもそうだろ?」
いるまは照れくさそうに頷いた。
「ああ、確かに。お前たちの姿を見て……LANはちょっときしょいけど…昔思い出したわ」
「ひどくない!?っていうか、昔の自分?」
LANが興味津々で尋ねる。
「そう。俺たちも昔はもっと仲良かったんやけど…いろんなことがあって…まあ、いろいろさ。」
暇72がいるまの肩をポンと叩いた。
「でも、これからは変われる。高校生やし。そうだろ、いるま?」
「…そうだな。お前たちに出会えて、少しだけ希望が見えた気がする。」
「よかったねぇ」
こさめが優しく微笑んだ。
「そうだ、俺たちも同じ軽音部に入らないか?」
LANが提案した。
「みんなで楽しくやろうよ。」
いるまと暇72は顔を見合わせた。少しの沈黙の後、いるまが口を開いた。
「それも悪くないかもな。」
「そうやね。」
暇72も賛成の意を示した。
「決まりやな!」
LANが嬉しそうに声を上げた。
こうして、新たな仲間たちとともに、新しい生活が始まった。桜の花びらが舞い散る中、彼らの未来は希望に満ちていた。
「おぉ…喧嘩してる…」
すちは先輩が喧嘩しているのを遠くから見ていた。先輩に紫髪のひとを金髪の人が宥めている。
「大丈夫かな…って、えぇ!?」
落ち着いたと思ったら、今度は別の男子が先輩に殴りかかった。桃色髪の少年。水色の男の子が必死で宥めている。
「おぉお……すごい喧嘩してる…」
すちはそれをしばらくながめて、さっき喧嘩していた二人に声をかけた。桃色の人と水色の人とは分かれていたようだ。
「ねぇ、大丈夫?」
紫髪の男子が振り返り、少し驚いた表情を見せた。
「ああ、何とか。さっきの喧嘩、見てたのか?」
「うん、でも、なんであんなに激しい喧嘩になったの?」
金髪の男子が苦笑しながら答えた。
「いるまがちょっと感情的になっちゃってさ。先輩たちに謝るのが遅れただけなんだ。でもLANとこさめが加わって、さらに混乱した。」
「LANって、あの桃色の?」
「そう、俺たちの同級生。あいつら…LANとこさめも熱くなりやすいっぽいんだよ。」
金髪の男子が肩をすくめた。
「俺は暇72。こいつはいるま。お前は?」
「すちだよ。なんか大変だったね。」
「まぁ、これが日常なんだ。」
いるまが苦笑した。
「でも、仲直りできたみたいでよかった。…そのLANくんとこさめくんも無事そうだし。」
すちが安心したように微笑んだ。
「そうだな、あいつらには感謝しないとな。」
いるまが真剣な顔で言った。
「うん、これからはみんなで仲良くしよう。そうだ、すちも軽音部に興味ない?」
暇72が提案した。
「え、軽音部?」
「そう、LANたちと一緒に入る予定なんだ。すっちーも入る?」
「面白そうだね。ちょっと考えてみるよ。」
「それなら楽しみにしてるよ。」暇72が笑顔で言った。
こうして、すちもまた新しい仲間たちと出会い、新たな生活が始まった。彼らの未来は明るく、希望に満ちていた。
「ん?」
みことは足を止めた。目の前を歩いていた三人の人のうち一人が、何か落としていった。「72」の形をしたヘアピン。咄嗟に拾って、届けに行った。
「これ、落としたよ!」
みことが声をかけると、金髪の人が振り返った。
「え?あ!?」
暇72が驚いた様子で頭に手を当てた。
みことがヘアピンを手渡すと、暇72は嬉しそうに受け取った。
「ほんと助かったよ。俺、暇72。お前は?」
暇72が尋ねた。
「みことだよ。」
みことがにこやかに答えた。
「俺はいるま。ありがとう、みこと。なつのヘアピンはお守りみたいなもんだから。」
紫髪の少年が言った。
「すちです。どうもありがとう、みこと君。」
すちも礼儀正しくお辞儀をした。
「どういたしまして。」
みことが元気よく答えた。
「一緒に帰ろうか?」
暇72が提案した。
「やったぁ!」
みことは笑顔で答えた。
「なっちゃんは何部にはいるん?」
「俺はぁ…軽音部かなぁ」
「俺も多分軽音部」
「おれはぁ…美術部か軽音部かなぁ」
「ふぅん…みんなが軽音部入るんやったらおれも軽音部入ろ!」
「みこちゃんが入るならおれも軽音にしようかなぁ」
みことが嬉しそうに飛び跳ねた。その光景にすちは優しく微笑んでいた。
た。
「じゃあ、全員軽音部?ってことでいいんか」
いるまがまとめた。
夕暮れの道を、四人は仲良く歩き続けた。新しい友達と一緒に過ごすこれからの日々に、みんなが心からワクワクしていた。