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その日は、プレーが思うようにいかなくて珍しく藍が落ち込んでいた。
「今日の俺、ほんま最悪やった……」
「そんなことない。お前はよくやってるよ」
「やってへん……」
「……藍」
「ぎゅって、して……」
呟く声はかすれ目も潤んで、こんな藍は他の誰も知らない。
「俺……ほんまは……平気なふりしてるだけやねん。でも……祐希さんの前やと強がり消えてまう」
「それでいい。お前は俺の前だけ全部出していい」
黙って抱きしめたら、藍は祐希の胸に顔を押しつけて小さく震えていた。
「ありがと……もうちょっとだけ……甘えさせて」
「うん。好きなだけ、ここにいろ」
傷ついた心を包むのは、誰よりも優しくて誰よりも大きな祐希の腕。
胸の奥に溜まっていた悔しさや不安が、祐希の腕に触れた瞬間にじわじわ溶けていく。
しばらく黙ったまま、藍はただそのぬくもりにしがみついていた。
「……祐希さんの腕、あったかい」
「落ち着いた?」
祐希が耳元で低く囁く。その声に安心させられるように藍はこくんと頷いた。
「……うん。なんか、泣いたらスッキリした」
「それでいい。悔しいって思えるのはお前が本気でやってるからだ」
祐希の言葉が胸にしみる。強がらなくても失敗しても、この人は変わらずに隣にいてくれる。それだけでもう一度前を向ける気がした。
「俺な……やっぱりもっと強なりたい。祐希さんと一緒にもっと上で戦いたい」
「俺も。藍となら、どこまででも行ける」
祐希が少しだけ力を込めて抱きしめる。その強さがまるで未来に背中を押してくれているみたいで、藍の胸にじんと温かいものが広がった。
「ありがと。俺、また明日から頑張れるわ」
「うん。無理すんな。でも、俺がいること忘れるなよ」
「忘れるわけないやん」
照れくさそうに笑って顔を上げた藍の瞳は、もう揺れていなかった。祐希の腕の中で弱さを見せて、受け止めてもらったからまた新しい一歩を踏み出せる。