マッドハッター 〜 砂漠の町 ロパライアにて 〜
砂漠の町、ロパライア。砂を固めて建物や町をぐるりと囲む壁を築き上げ、どの町よりも交易をし、様々な商品や布を取り扱っている。月に一回巻き起こる砂嵐は、この町で崇拝されているサラマンダーによる加護の一種らしい。
「この町にサラマンダーなんて、本当にいるのでしょうか?」
「いるはずだ。」
スパイシーな香りが台所から漂うカレーの専門店で町行く人々を観察しながら、クロウの問いに答える。ガラスのコップに注がれた水越しにクロウとスパイキー達、そして、アルマロスを見る。
「この町には、古い言い伝えがある。」
「言い伝え、ですか。」
テーブルに並べられたバナナを使ったカレーとサボテンのカレーに遠慮なく食らいつく、スパイキー達とアルマロス。これを横目に、話を聞くクロウ。
「…遥か昔。ここロパライアは<常闇の呪い>の影響を受けていた。町の人々は暗闇と寒さに怯え、終わりのない恐怖に包まれていた。やがて、時間が進むに連れて、自分たちが生きているのか、死んでいるのかさえ、わからなくなる。虚無の空間。その呪いを解いたのがサラマンダーだ。と言う言い伝え、でしたか?」
<常闇の呪い>。言葉の通り、永遠の闇。今では古代の魔術、呪いとして現在伝わってきているが、その呪いを編み出した者は未だに不明。町全体を呪いにかけるという高度な魔術。痛みなどはないものの、人間の精神にかかわる呪いだ。
先ほど、クロウが言ったように、長時間閉じ込められると自分が生きているのか、死んでいるのかさえわからなくなり、終わりのない恐怖に包まれるのだ。やがて、自らの命を絶とうとするものまで現れるのだ。
そんな恐ろしい呪いを解いた魔物が、サラマンダーというわけだ。
「サラマンダーの炎が空高く燃え上がると、闇を裂き、再びロパライアは太陽を拝む事ができたってわけだ。」
「そのサラマンダーの力を、ハッターはほしいわけだね?」
「その通り。」
スパイキー達の口についたカレーのルーを拭ってやり、水を一杯飲み干した。しかし、ロパライアに侵入して早三時間。サラマンダーに関する情報が少なすぎて詰んでいる。
「てっきり、野生のサラマンダーが店に売られていると思ったんだが。」
「まさか、今では専用の施設で飼育、保護されているとは思いませんでしたね。」
ロパライアはサラマンダーを崇拝しているからこそ、重宝されているようで、今では野生のサラマンダーを売ることは禁止されていると聞いた時は、ショックでぶっ倒れそうになった。
「わざわざ、熱い砂漠を何日も彷徨い続けて、苦労して来た結果がこれか…。」
「でも、カレーは美味しいよ! ね? アルマロス!」
「…。」
ゲェっとゲップをして返事をするアルマロス。その横で「主の前で失礼だぞ!」と吠えるクロウ。私は大きなため息をついては今後の事を考える。店の中が少し騒がしく感じるが、それどころではない。ここまでの旅費や旅路を考えるとかなりの無駄足になってしまう。
一か八か、その施設とやらに行ってみようか。
そう考えた時だ。横から何かが飛んできた。アルマロスの防御壁で弾かれたものは、音を立て、破片が床に散らばるように割れた。飛んできたものの正体は店にあるガラスのコップだ。
「だから! 酒を出せって言ってんだろ!?」
「で、ですから、当店にはお酒は…。」
帽子のつば越しに怒鳴り声のする方へ視線を向けると、黒い服に鳥のようなデザインをした防毒面を身に着けた輩がざっとみて四人。知らんぷりを決めようと思ったが、スパイキー達が大きな声を出した。
「ペスト医師っ!」
スパイキー達の声に反応して、ペスト医師たちが「あっ!」と声を出した。向こうもこちらの存在に気づいたらしいが、今は会いたくなかった。
「お、お前は!? マッドハッター!!」
「…はぁ、今日の私は機嫌が悪い。見逃してやるからこの店からさっさと出てけ。」
「貴様がここにいるということは、ユナティカにいたアルファチームはやられたという事! ならば、我々が相手になろう!」
「なんでだよ。見逃してやると言ってるだろ。今の私は…最高に機嫌が悪いんだ。」
他の客のテーブルにあったガラスのコップを念力で次々と割っていく。脅しのつもりだったが、それでも、向こうは殺る気満々らしい。
「…はぁ、お前らのその根性は褒めてやる。だが、私を怒らせたら最期だぞ。」
コープス・ステッキを片手で持ち、いざ、尋常に勝負。
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