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マッドハッター 〜 砂漠の町 ロパライア カレー専門店にて 〜
ペスト医師達は、見たことのない武器を黒い服の中から取り出した。暗器、というやつだろうか。
「医師とは思えないものを持っているな? 一つぐらい取り入れて見るか?」
「なら、その身を持って味わってみるといい!」
ペスト医師の一人が両手に鉄の棒の両端を尖らせた武器を持ち、向かってきた。峨嵋刺(がびし)だ。点穴など急所をついたりするのに使われる暗器の一種だ。
ペスト医師の峨嵋刺を杖の柄で受け止めるとそのまま、私は店の窓ガラスを突き破る形で店の外へ押されてしまった。咄嗟に身を翻して、ペスト医師を投げ飛ばした。
「いってぇな。」
砂の地面に手をつくと同時に魔法陣を出現させて、砂を隆起させて峨嵋刺を持ったペスト医師に向けて手をかざした。隆起した砂は爆発音を上げると同時にペスト医師に向かって行く。ペスト医師はバク転をして距離を取り、砂から逃げる。
「もらった!!」
「!」
店の中から別のペスト医師がグローブのついたピストルを構えていた。構造が少し複雑だが、単発式。手首についているトリガーに手をかけていた。まずい、撃たれる。
「させるか!」
発砲と同時に真横から、人間に変身したクロウがペスト医師に飛び蹴りを繰り出して、銃口を反らした。耳が痛くなるような破裂音とヒュン、と風を切るような音が自分の耳元でした。クロウのお陰で、銃弾は耳元を通り抜けていったようだ。
あいつ、私の頭を狙ってやがったのか。
「我が主!」
割れた窓から、クロウと肩に乗っているスパイキー・スパイク、アルマロスが出てきた。クロウ達が私に駆け寄ってきたと思ったが、顔のすぐ横で金属音がし、火花が散った。伸ばされたクロウの長い腕と手の先で峨嵋刺を掴んでいた。
「…ご無事で?」
「助かったよ、…さて。」
服についた砂をはたいて落としては、いつの間にかずらりと並んでいるペスト医師達に視線を向ける。
「お前たちは何者だ? ただのペスト医師にしてはずいぶんと物騒じゃないか。」
「我らはペスト医師の中でも最も最高上位クラスのものだ。」
「特殊部隊、とでも言っておこうか。」
梟のような防毒面をつけた老人が杖をついて店から出てきた。
五人目。一体どこに潜んでいた?
よく見ると、こいつらの防毒面が普通のペスト医師よりもデザインが違うことに気づいた。雀、烏、鷲、鷹。そして、梟。四人から五人に増えたペスト医師達を見て、ただならぬ雰囲気を感じた。
「わしらは、お主を討伐するために結成された特殊部隊。暗殺を生業とし、戦闘を得意とするんじゃよ。」
「へぇ?」
少し興味があるが、何故その上位クラスがここ、ロパライアにいるのか気になる。
「おっと、自己紹介せねばのう? 特殊部隊副隊長、梟のノクタ。」
「同じく! 鷹のアチピターだ!」
「同じく、烏のカルボスっす!」
「同じく…鷲の、アクィラ。」
「同じく、雀のパッセル。」
「「「いざ、お命頂戴!!!」」」
副隊長以外の全員が暗器を持って襲いかかってきた。アクィラという鷲の防毒面を被ったペスト医師がアタッシュケースを床に置いて構えた。カバンから銃口が見えたので、私とクロウ達はすぐに立ち上がり、走り出した。
ダダダッ!!
カバンからマシンガンのような発砲音と無数の銃弾が放たれた。私達を追いかけるようにカバンと銃口をこちらに向けてくる。建物と砂に弾丸がめり込む。あんなのに当たったら一溜まりもない。
私は先程、クロウが掴んでいた一本の峨嵋刺を手に取り、銃口に向けてぶん投げた。峨嵋刺は真っ直ぐマシンガンの銃口にすぽっと入った。銃口に峨嵋刺が入ったのを確認すると、私は片手をぎゅっと握り、魔法陣を発動した。
「しまっーー」
その瞬間、カバンの中に入っていたマシンガンが銃口の中で暴発し、大爆発を起こした。機関銃や拳銃は、銃身を曲げるか、溶接しないとこのように暴発しない。幸いにも峨嵋刺の素材は鉄。これを溶かせるぐらいの熱を魔法で引き起こし、銃口を塞いだ。それによって、二発目以降で銃弾同士がぶつかり合い、このような大爆発を引き起こした。マシンガンの弾がみっちりつまったカバンなら、爆発の威力は高いだろう。
「わわわっ!? ハッター! どうするの!?」
「逃げるに決まってるだろ! いくらなんでも相手が悪すぎる!」
建物に沿って、彼らから逃げていると、爆発した煙の中から飛び出してきたのは、烏と鷹の防毒面を被ったペスト医師。
「逃がさないっすよ!」
「我々から逃げられると思うな!」
烏の防毒面を被ったペスト医師はクロウに蹴られたやつ。鷹のほうは店で酒を出せと騒いでいたやつだ。見るからに面倒くさそうなやつらが追ってきた。
「…どうしますか? 我が主?」
「はぁあ…、紅茶が飲みたい気分だよ。」
目頭を抑えながら、杖を持ち替えて片手でぐるぐると早く回す。柄の部分で背後から飛んできた銃弾を弾く。単発式の弱点は連続で撃てない事と、装填に少し時間がかかる事だ。だから、防御もできず、クロウに蹴られたのだ。
「くっそー! また当てられなかったっす!」
「そう落ち込むな! 狙いはいいぞ、カルボス!」
会話が丸聞こえだ。嗚呼、頭が痛い。人を人と思わずに的として見てる時点で怖すぎる。これがペスト医師の嫌いなところだ。
沸々と怒りが湧いてくる。
嗚呼、これだから、人間は。
人間は…? 人間はなんだと言うのだ。
嫌い? 憎い?
いや、両方だ。
瞬間、心の底からドロっとした黒い感情が溢れ出た。私の中の何かが、蠢いた。