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シャーリィ=アーキハクトが伝説の勇者すら成し遂げられなかった対話によるダンジョン攻略を成し遂げた翌朝。
ダンジョン入り口周辺の陣地は最小限に削減されて、ダンジョン攻略用に準備された物資は町の建設に用立てられる事となった。
今回の騒動により『暁』戦闘部隊を指揮するマクベスは、対人だけではなく魔物を想定した訓練計画を作成、また魔物に有効な装備の充実を図るべく頭を悩ませる。
『暁』兵器開発を一手に担うドルマン率いるドワーフチームも銀製の弾丸の消費量に戦慄し、アンデッドを含む様々な魔物に有効な兵器の開発にも着手。
マクベス率いる実践部隊と連携して、銀製の武器や弾丸の消費を最小限に留めるため豊富な聖水を用いた兵器を模索する。
シスターカテリナは、本人曰く腐るほど有った聖水の在庫が一気に捌けたためご満悦。
久しぶりに床が見えてきた教会の備蓄庫を気分良く眺めつつ、娘のような存在であるシャーリィによる前代未聞の奇行に頭を痛めていた。
ベルモンドは今回の戦いの功労者であるが、まだまだ自分の限界が来ていないと悟り、更なる鍛練に明け暮れることとなる。
もちろんこれにはルイス、アスカが巻き添えを食らう羽目となるが。
新参であるアスカにとっては初陣でもあり、獣人らしい機敏な動きと呑み込みの速さで縦横無尽の大活躍を果たす。
しかし途中で武器が破損して戦えなくなるなど課題も残された。
セレスティンとロウの年長組はシャーリィの指示によりダンジョンには余り関わらず、町の建設と農園の更なる拡張に尽力。
『ターラン商会』から新たに増員された人員を適材適所に配置して限られた物資で最大限の成果を挙げていた。
具体的に言うならば、町については今現在の『暁』関係者全員を住まわせることが出来る居住区の完成。
農園ではエレノアの要請により薬草園の拡充を図り、『オータムリゾート』、ライデン社との取引を見越して果樹園の充実を目指して日々拡張が行われていた。
エレノアは二回目の交易を指揮してアルカディア帝国へ出張。
帝室の内紛による内乱の危機が高まり急激に伸びた薬草の需要を満たすべく農園で大量生産された薬草を片っ端から高値で売り捌き莫大な利益を挙げていた。
一方姉の活躍を知らぬレイミは久しぶりの休暇で帝国各地の旅行を満喫していた。もしシェルドハーフェンに居たならば姉妹の再会はもっと早く果たせたであろう。
他の勢力では、ダンジョンでアイテム類の確保が順調であると耳にした『ターラン商会』が更なる商売のため、マーサ自ら『暁』本拠地へ来訪すべく調整していた。
『オータムリゾート』はエルダス・ファミリーから巻き上げた莫大な賠償金を元手に事業を拡大。リースリットらしい博打的な投資を繰り返して莫大な利益を叩き出していた。
『海狼の牙』はまだダンジョンについての騒ぎを知らないが、サリアは個人的にシャーリィの動向に注視していた。
そして、農園の片隅にある小屋。
ウッス、ルイスだ。そとがぼんやりと明るくなってきたな。もうすぐ皆が起き出す時間だ。
昨日は長い一日だった。ダンジョンの奥地まで行けたと思ったら、ワイトキングなんて化け物が出てきて、どうせ勝てないならシャーリィを庇って死んでやるって気合いを入れた瞬間、当のシャーリィが呑気にワイトキングと喋り始めた。
シャーリィが突拍子もないことをするのは慣れてたつもりなんだけどな、流石にあれはビビったよ。しかもシャーリィをワイトキングのところに残さなきゃならなかった。そとで待ってた四時間ほど長く感じたことはなかったな。
流石に夜も遅くなってきたから、マクベスの旦那に休むよう言われてな。気にはなったが少し身体を休めなきゃ倒れそうだったから近くの小屋を借りた。まあ、眠れなかったけどな。
「すぅ…すぅ…」
隣を見てみると、シャーリィの奴がシーツを着て寝てる。まあその、事後って奴だ。夜は自分を抑えられなかった。情けねぇが不安で仕方なくて、それをシャーリィにぶつけちまったんだ。
でも、そんな俺をシャーリィの奴は気にせず受け止めてくれた。情けねぇけど、それに甘えちまった俺も大概だな。
「すぅ…すぅ…」
いつもは無表情で冷めた印象があるシャーリィだけど、その、してる時は案外表情豊かでたぶん俺しか知らないような顔をするからなんと言うか優越感があるんだよな。そんなことを言うと殴られそうだから言わねぇけど。
こんな強く抱きしめたら壊れてしまいそうな小さなシャーリィだけど、いろんな無茶をやって、怪我をして。
それでも諦めないで滅茶苦茶やるこいつに俺は惚れちまった。今回みたいなことはこれからもたくさんあるんだろうな。
いつも俺たちを振り回してくるシャーリィ。背が高いわけでも、力が強いわけでもない。特別な力があるわけでもない。
色々背負って、組織のためなら手段を選ばない。組織をデカくするのだって、復讐のためだ。
シャーリィの真ん中には復讐がある。それがたまに不安になることがある。地下室では、暗黒街で名前が売れてるシスターでも引くようなことを笑顔でやってる。
俺も隙を見てはシャーリィを地下室から連れ出してるんだが。こいつは自分の敵に容赦がない。暗黒街の残酷で有名な奴らが裸足で逃げるようなことを顔色変えずにやる。
いつかシャーリィの闇の部分が皆に悪影響を起こさないか心配になる。古参の俺達でも正直引くくらいなんだ。これから『暁』が大きくなったらいろんな奴が入ってくる。
そんな奴らが地下室の、いつもは気前が良いシャーリィの裏側を見たらどんな反応をするか俺には分からねぇ。
もちろん俺はシャーリィの味方をする。何があってもそれは変わらねぇ。でも組織って奴は大きくなると面倒事も増えるし、自由もなくなる。
『ターラン商会』のマーサの姐さんだってそうだ。いつもあちこちを飛び回っていて、まるで自由がない。
『暁』だって町を作る勢いだ。どんどん規模は大きくなっていく。
「……ん……おはようございます、ルイ。昨日は凄かったですね」
「おう、おはようシャーリィ。身体は大丈夫か?」
「加減を知らない何処かのお猿さんのお陰であちこちが痛いです」
「悪い、我慢できなくてさ」
「ふふっ、本当に仕方のない人」
柔らかい笑顔を浮かべる恋人を見ながらルイスは心の片隅に生まれた不安を誤魔化した。
それが後にどんな影響を与えるか。それは神のみぞ知る。