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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ルイと長い夜を過ごしました。相変わらず加減を知らないので身体の節々が痛いのですが、今はまだ休めません。少なくともセレスティンに確認を取らなければならない案件があるのです。
「セレスティン、ライデン社のダイロスさんはいつ来訪するんでしたっけ?」
取り敢えず簡単に身体を清めてセレスティンを呼び出します。早くお風呂に入りたいのですが、今は我慢ですね。
「はっ、何事もなければ明日来訪する予定でございます」
「そうでしたか。ライデン会長がうちの果物を気に入ってくれていると良いのですが」
「それについての回答も明日でしたな」
「まあ、此方にもお渡しする手土産があるので無駄にはなりませんよ」
「お嬢様がダンジョンから持ち帰られた黒い液体でございますな。あの様なものは見聞きしたこともございません。重要なものなのですか?」
「私の推測が正しいならば、ライデン社。いや、ライデン会長は何を犠牲にしても欲しい代物です。これを対価としてライデン社の最新技術や各種ノウハウを要求するつもりですよ」
「交渉材料となりますかな?」
「なります。私の予測が正しいならば確実に。大金を用意しても手に入らなかったものなのですから、対価には期待が出来ます」
「ならば爺めはお嬢様の推測が正しいものであることを神に祈るとしましょう」
「神様なんかに祈らないでください。家族を奪い去った存在を許容する奴なんて信仰したくもない」
本当に神様が居るならば、山ほど文句を言ってやります。
「御意」
「祈らなくても、信じてください。それなり以上に自信がありますからね」
セレスティンと語らったシャーリィはルイスを連れて昨晩の色々を洗い流すべく風呂へ向かう。もちろん風呂でルイスが止まる筈もなくその日は足腰が立たなくなり休むことになったのはご愛敬である。
その日の夜、ダンジョンに対する警戒もある程度解除されて『暁』構成員達は久しぶりの非番を歓楽街で過ごして羽を伸ばしていた。
多少は羽目を外すことも許されては居たが、無用なトラブルを起こせば厳罰に処されるとあって『暁』構成員達は大人しく休暇を楽しみ、英気を養っていた。
だが、そこに悲劇が起きる。
「なんだ!?伏せっ!」
『暁』構成員四人が飲んでいた小さなバーにダイナマイトが投げ込まれ、店の主人や他の客を巻き添えに大爆発を起こす。これは悲劇の始まりに過ぎなかった。
「ぐはっ!?」
「なんだてめぇらっ!がっ!?」
メインストリートを歩いていた『暁』構成員二人が複数人に刺され。
「危なっ!がぁあっ!」
「おいっ!ぎゃっ!」
さらに別の道では馬車に数人の構成員が轢き殺される。
これらの事態が街の各地で発生。それを目撃したり伝え聞いた構成員達は緊急時のマニュアルに従い街を脱出。農園へと急いだ。
だが全員に周知するには時間がかかり。
「どわっ!?」
「ぐあっ!?」
更に数人が謎の集団に銃撃されて射殺されてしまう。結局この夜だけで『暁』構成員は十五名の死者を出すこととなった。
街から脱出して状況を知らされた指揮官のマクベスは、事態を重く見て厳戒態勢を布告。皆を呼び戻すために装備を固めた偵察部隊を街へ派遣して構成員達の帰還を急がせ、情報収集を開始。現時点で分かっている情報を夜の番をしていたシスターカテリナに報告する。
「何人殺られましたか?」
「現時点で六人殺られた。情報はこれからも増えていくだろうが、逐次報告する。お嬢様にもお伝え願いたい」
「シャーリィは休んでいます。より詳細な情報が集まってから伝えることにします。対応は?」
「非番の者全てを呼び戻す手配をしている。農園そのものは厳戒態勢を下命した。以後私は指揮を取るので、情報は随時伝令を此方に寄越す」
「分かりました。情報は漏らさずに報告するように」
「任された!」
マクベスげが教会を出ると、影から痩せた男が姿を表す。
「反撃されたな、シスター」
「ラメル、分かっていますね?」
「少し値が張るぞ?」
「手持ちは金貨三枚しかありません。それで働きなさい」
カテリナは祭壇に金貨三枚を置く。するとラメルは一枚のみそれを取る。
「いつも嬢ちゃんからは相場以上の金を受け取ってるからな、今回はサービスだ。一枚で請け負う。必ず確かな情報を持ってくるからな」
そう言い残してラメルは闇に消え、カテリナ一人が礼拝堂に残された。
「この時期に、わざわざシャーリィの怒りを買うような真似を。単純な話ではなさそうですね」
カテリナの呟きは夜の礼拝堂に溶けて消えた。
翌朝。
「シスター、もう一度お願いします」
「何度でも言いますよ、シャーリィ。襲撃されました。そして、これを貴女に」
カテリナは『暁』構成員が身に付けている認識章をシャーリィに手渡す。
「これはっ」
「残念ながら遺体を回収できなかった者も居ますので、認識章だけのお渡しとなります。昨晩市街地各地で襲撃が相次ぎ十五名が死亡しました。襲撃者達については偵察部隊も動員して調査中です、お嬢様」
マクベスが報告する。
「遺体の損傷は多岐にわたり様々な手段で襲撃が行われたのは確かです。かなりの規模の組織による犯行かと」
セレスティンも報告を挙げる。
「これに対して厳戒態勢を発令、農園からの外出を禁止しました。全部隊戦闘態勢を維持したまま待機しております」
「誰が、こんなことを?」
シャーリィは絞り出すように言葉を漏らす。
「心当たりはいくらでもあります。『暁』は拡大しましたが。それに伴い恨みも買っていますからね。詳細は調査を待ちなさい」
カテリナが答える。
「お嬢、気持ちは分かるが今は冷静にな。誰がうちにちょっかいを出してきたのかまだ分からねぇんだ」
「けどよ、今の『暁』に喧嘩売るような奴が居るのか?」
ベルモンドの言葉にルイスが疑問を投げ掛ける。
「単純に考えるなら、エルダス・ファミリーだろうな。俺たちに負けてから落ち目だ。その復讐だって考えるのが妥当だ」
「それに、目撃情報によれば襲撃者は全員赤い服を着ていたそうだ。エルダス・ファミリーのファミリーカラーだと言う」
マクベスの報告通り、エルダス・ファミリー構成員は赤い服を着ることを義務付けられる。組織としての一体感を強調するためだ。
「確かにそうだけど、仕掛けてきたのはあっちだぞ?」
「やられたらやり返す、裏社会の基本だな」
「ふふふふふっ」
室内に可憐な笑い声が響き、皆が視線を向けて戦慄する。その視線の先には満面の笑みを浮かべたシャーリィが居たのだ。
「誰だろうと、私の大切なものを十五名も奪ったんです。もちろん殲滅します、情け容赦なく。敵対者には破滅のみを贈り物とするのです。私の大切なものを奪うような連中は生きていちゃいけませんから」
まるで歌うように少女は嗤う。シャーリィ率いる『暁』の熾烈な反撃が始まろうとしていた。