「……あれ、もう朝か。」
いつものように気だるげにベッドから体を起こす。
顔を洗って、家族と挨拶を交わし、朝食を食べて学校に行く。
そんないつもと同じ日常だった。
…昨日のループまでは。
「昨日の黒猫…一体何だったんだ?」
記憶をなくしていなくて助かった…
昨日の出来事を頭の中で整理していると、先輩の言葉を思い出す。
『その日したこととかが主な原因になるんだろうけど…』
「…あの黒猫が関係していたりする…のか?」
いや、それよりも俺が昨日感じていた違和感…
あの”交差点”だ…。
その日、また同じことを繰り返した学校が終わった後、またあの交差点に行こうとした。
だが…
「ねえ。」
「…うん?何?」
隣の席に座っている女子クラスメイトから呼びかけられる。
“佐藤 春奈”、2学期から隣の席にいる、長い黒髪が特徴的な女子だ。
「新庄くん、黒猫とか最近見かけなかった?」
「……えっと、何でかな?」
そう聞くと、彼女は机の中から1枚の写真を取り出す。
「この子、うちで飼ってる猫なんだけど…最近家出しちゃって、皆に聞いて回ってるの。」
写真の中には昨日、交差点で見た猫とまったく同じ猫がいた。
もしかして、昨日違う行動をしたからこんなことが起こっているのだろうか?
だが、もしここで見たと言っても、それは今日、この後に起こる話なのだ。
そんなことを言っても混乱するだけだろう。
「うーん、見たことないかな、ごめんね。」
「そっか…引き止めてごめん、ありがとう。」
そう言って彼女は教室から去ろうとする。
…あれ……まただ。
……僕はこの光景を見たことがある。
初めて見たはずなのに…どこかでこの光景を…
「…まあいっか。とりあえず、交差点に行こう。」
その時は特に気にせず、僕は交差点に向かうことにした。
もしかしたら、佐藤さんに猫を渡したらこの日が終わるかもしれない…
「…いない。」
あの交差点にきて猫を辺りを見回すが、あの猫はどこにもいなかった。
鈴をつけているから居場所はすぐに分かりそうなものだが…
もうちょっと探してみようと、歩いていると思わぬ人物に出くわす。
「あれ、新庄くん?」
「…佐藤さん?」
何でここに…?
そう思っていると、佐藤さんからも同じように問われた。
「えっと…ちょっと探し物が…」
「もしかして、猫探してくれてるの?」
ば、ばれただと…。
結構、ポーカーフェイスしてたんだけどな。
「うん、まあ…。」
気まずくて視線を逸らそうとする…が、それが叶うことはなかった。
「…うぅ……ありがとう…。」
「え、ちょ、どうしたの?!」
佐藤さんはその場でいきなり泣き出してしまったのだ。
「…皆、誰も真面目に探してくれなくて…警察も全然動いてくれないから…。」
ああ、なるほど…そんなに嬉しかったのか…
「まあ、俺も探すから、一緒に見つけよう。」
「うん…ありがとう…。」
泣いている佐藤さんを宥めた後、猫探しをさっそく始めた。
結局、交差点では見つからず、佐藤さんの記憶を頼りに色々な場所を探しにいった。
気づけば辺りは暗くなっており、佐藤さんと近くの公園のベンチに座る。
「ふう…だいぶヤンチャな子なんだな。」
「ごめん…。」
申し訳なさそうに言う佐藤さんを見て、笑う。
まあ、広い町で猫1匹を探すなんて難易度やばいからな…
「…まあ、今日はだめでも明日にやろうよ。」
「え、明日も手伝ってくれるの?」
「うん、俺はほら…暇だから。」
まあ、明日が来るかは分からないが…。
そんなことを考えていると、佐藤さんはとても嬉しそうに僕の手を取る。
「ありがとう…ほんとうにありがとう…」
「だ、大丈夫だから…今日はとりあえず帰ろうか?」
………まただ、この違和感。頭の片隅にこの状況が初めてではないと訴えかけられている。
ゆっくりと手を抜け出して、彼女に一緒に帰ろうと提案する。
まあ、これ以上探しても暗くて見つけられそうにないし…
そして帰路に着こうと歩き出そうとしたその時、
チリン
「っ!!」
咄嗟に音のなった方を見ると、そこには昨日の黒猫が公園の真ん中に佇んでいた。
「佐藤さん、あの猫って…」
「え?…あ、クロ!!」
そう言って佐藤さんが近くに寄ろうとすると、黒猫は鈴の音を鳴らしながら、走り出す。
「ま、待って!!」
佐藤さんは黒猫を追いかけていく。
「ちょ、まじかよ。」
僕も佐藤さんに続いて猫を追いかけていった。
道を曲がったり、神社の前を横切ったり色んな方向に黒猫は進んでいく。
…この方向は…あの交差点?
「クロ…待ってってば!!」
佐藤さんは気にせず追いかけていっている。
だが、僕は気づいていた。
青信号であるにも関わらず、加速して近づいてきているトラックに。
「佐藤さん!!あぶなーー
ドン
鈍い音が鳴ると同時に視界に入ってきたのは、頭から血を流して倒れる少女、そして心配そうにそれに駆け寄る黒猫の姿だった。
「っ!?ぐぁ……またかよ…こんな…ときに……」
瞬間、僕の頭を強烈な頭痛が襲う。
あの時と同じ、何かを伝えようとしているような…
「はぁ…はぁ…ぐっ……」
痛みは治り、気づいた時には目の前に救急車が止まっていた。
通行人の誰かが呼んだものだろう。
「あの…すみません…実はーー
運ばれていく佐藤さんの元に駆け寄り、事情を話して、連れていってもらった。
「……。」
病院のベッドに横になっている佐藤さんを見ながら、彼女の親を待つ。
程なくして、焦りを表すような荒い呼吸音が病室に近づいてきた。
ガラ
「ハァ…ハァ…ハァ…春奈!!」
父親と母親が彼女の元に寄ってくる。
泣きながら、彼女の手を2人は握る。
まあ、当然の反応か…
僕はその場を立って、両親に頭を下げた。
「僕がいながら、このような状況になってしまい、ほんとうに申し訳ありませんでした。」
そう言って静かにその場を少し離れて、後ろから彼らを見守る。
「……いや、君は悪くない。悪いのは…」
父親はそこで言葉を止めてしまった。
こんな状況では何も言えないだろう…
わかっている………
ループを解決するためにまさかこんなことになるなんて、思ってもいなかったのだ。
表しようのない気持ちを抱きながら、病室の光景を僕は見ていた。
でも…
「……今度は何だよ…ぐ…うぅ……」
またあの頭痛だ。この光景も何かヒントの一つなのだろうか?
だが、何も思い出せない。一体なんなんだ…?
チリン
「…!!…お前、まじで何なんだよ…」
視線を下にすると、足の横にあの黒猫がいた。
あの日の交差点もそうだ。
まるでこの黒猫が関与しているかのような…
「…お前、何か知ってんのか?」
喋るはずもない…なのに、頭痛のせいなのか、俺はその黒猫に話しかけていた。
まあ、猫に期待しても無駄ーー
『答え合わせの時間だ。』