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引き続きシャーリィ=アーキハクトです。去年起きた『ターラン商会』での内紛には、ガズウッド男爵家が深く関与していたことが判明しました。
ガウェイン辺境伯からの依頼を受けた時はどうしようかと迷いましたが、これで気分も楽になりました。敵なら潰すまでです。
あっ、ついでに聞いておかないと。
「ユグルドさん、『血塗られた戦旗』との戦いは避けられません。あちらが野心を消さない限りは、必ず衝突します」
既に黄昏では『血塗られた戦旗』の構成員らしき人間が複数目撃されており、警備隊と小競り合いにまで発展したこともあります。
『オータムリゾート』と直接敵対するより『暁』を狙ってきました。
小競り合いで判明したことですが、彼等の練度は非常に高いと言うことです。
『血塗られた戦旗』は傭兵集団、それ故に実戦経験も豊富で構成員の質は間違いなく『エルダス・ファミリー』を越えます。幸いなのは、構成員の数もそこまで多くはないと言う点でしょうか。
「それに同調する『ターラン商会』も潰すと言うのだろう?構わんよ。古巣とは言え、未練はない。それに、長く生きているとこんなことも珍しくはないからな」
「それを聞けて安心しました」
やっぱり叩き潰すにしても気が引けましたからね。許可を得た以上遠慮はしませんが。
ただ厄介なのは、相手は商人。ただ力で叩き潰すのは難しい。さてどうするか。
「『ターラン商会』については任せてくれないか?商人には商人の戦い方がある」
「そうなのですか?ではお任せします」
私はユグルドさんとの面会を終えて店を出ることにしました。長居するとご迷惑でしょうからね。
さて、『血塗られた戦旗』についてです。真正面から戦えば損害が出る。戦うにしても充分に弱体化させてからの方がいい。
となれば、三者連合がやったように破壊工作を中心とした搦め手で攻めるべきでしょう。挑発には乗らず正面決戦を避けてとにかく工作で力を削ぐ。
そうなるとこの時期にマナミアさん達が加入してくれたのは非常に有り難いことです。既に潜入させて準備を進めていますが、成果を期待できますね。
ラメルさん曰く、『血塗られた戦旗』の防諜能力は極めて低いみたいですからね。
マナミアさん達を中心に破壊工作を行い弱体化を狙って、弱ったところを一気に叩き潰す。これまでと方針は変わりませんが、今回はいつも以上に慎重にいきます。
財政については大きな『魔石』が手に入ったのでそれで充分に再建は可能。失われた人材の育成が急務ですね。でないとエレノアさん達海賊衆を動かせない。
アルカディアとの密貿易の利益を考えたら、直ぐに再開させたいのですが……ん?相手は傭兵集団……組織への忠誠心なんて無いはず。
「…リィ……シャーリィ!」
「んわっ!?」
わっ!?ビックリした!?って、ルイ?
「何ですか?ルイ。驚かさないでください」
「それはこっちの台詞だよ。こんなところでボーっとしてどうしたんだ?」
「こんなところ?あれ?」
私はいつの間にか『大樹』の根元近くにあるベンチに腰掛けて考え込んでいたみたいです。全く記憶に無い……ルミの導きかな?
「おいおい、大丈夫かよ?やっぱり疲れがあるんじゃないか?」
ルイは心配そうな表情を浮かべていますね。心配掛けないようにしないと。
「大丈夫ですよ、少し考え事をしていただけですから」
「それなら良いんだけどよ……無理するなよ?」
「ありがとう、ルイ。無理をしない範囲で頑張りますから」
笑顔で答えると、ようやくルイは安心した様子。いけませんね、考え事に夢中になるのは悪い癖です。
「そっか。なにを考えてたんだ?難しいことか?」
「今後の方針を考えていました。被害を受けたのは間違いないので、どうやって戦おうかなと」
獣王絡みの騒動が無ければ、『血塗られた戦旗』相手に充分な余裕を持って戦えたのは事実です。
それに、マリアと言う不確定要素の出現は『暁』の戦略を見直さなければいけなくなりました。
今から憂鬱ですが、マリアは必ず敵になる。そんな気がするのです。立ち塞がるなら叩き潰すだけですが。
「ここでじっとしてるのも何だしさ、ちょっと歩こうぜ。気晴らしにはなるだろ?」
「そうですね……少し頭も疲れましたから、付き合いますよ。エスコートしてください」
辺境伯との話し合いからずっと考え事ばかりしていましたからね。少し気分転換は必要でしょう。
「おう、任せろ」
笑顔を浮かべて差し出された手を握り、私はゆっくりと立ち上がりました。
「では、ルミ。また来ますね」
私は『大樹』呑み込まれてしまったお墓に一礼して、ルイと一緒に歩き始めました。初夏の日差しに少しばかり汗ばみますが、手を繋いだままです。たまにはこんな日もいいでしょう。
皆様ごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。お姉さまが難しい顔をなさっていたので心配していましたが、幸い今はお義兄様と一緒に町を散策しています。表情も穏やかで安心しました。
ただ、今朝私宛に届いた手紙の内容はお姉さまにとって良い知らせではありません。
前々から動きはありましたが、『オータムリゾート』内部も一枚岩とは言えないのが現状です。古参達の声を完全に無視できない以上、今のリースさんは身動きが取れない状態です。粛清の日が近付いているのを肌で感じます。
あっ、古参の人達からは何かと嫌がらせをされてきたので、迷いはありません。私が気に入らない様子ですからね。
ただ、『血塗られた戦旗』との抗争に『オータムリゾート』が加勢することは出来ません。おそらく黒幕が動いてうちの保守派を唆したのでしょう。誰だか知りませんが、用意周到なことです。が、残念でしたね。
『オータムリゾート』は動けずとも私は自由に動けるんですよ。私に指示を出せるのはリースさんのみ。そしてリースさんからは好きにやるように書かれています。
言われるまでもありません。三者連合との戦いでは、お姉さまのお力になれなかった。今度こそは、と言う想いがあります。
何よりお姉さまの為に振るう刀は清々しく、胸が高鳴るものです。迷う必要がない。お姉さまの敵は私の敵。実にシンプルだ。故に全力で戦える。魔物相手に魔力切れを起こしてしまう醜態を晒したばかりです。『血塗られた戦旗』、私の汚名返上のための踏み台になって貰いますよ。
レイミは敬愛する姉を見守りながら闘志を燃やす。スタンピードを乗り越えて数日、『暁』は新たなる戦いへと突き進もうとしていた。