テラーノベル
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フィンランド、ロバニエミ。 太陽が一日中昇ってこない「極夜」の境界線に位置するこの街で、僕は新婚旅行の最終夜を迎えていた。
鼻先が痛くなるほどの凍てつく空気。吐き出す息は、瞬く間に白い霧となって闇に消えていく。
「……陽一さん、見てください。あそこ」
隣に立つ、白いファーの耳当てをしたひよりさんが、厚手のミトンで空を指差した。その先――漆黒の夜空に、一筋の淡い光が揺らめいている。
最初は薄い雲かと思ったそれは、瞬く間に光を強め、巨大なカーテンとなって空を舞い始めた。 幻想的な、エメラルドグリーンの光。オーロラだ。
「私ね、ずっと夢だったんです。いつか大切な人と、オーロラを見たいなって」
彼女の横顔が、背後のコテージから漏れる明かりに照らされている。 新婚旅行中、いろんな景色を見て、いろんなものを食べた。でも、僕にとって一番は、いつだって隣にいる彼女の笑顔だった。
彼女は、繋いだ手の力を少し強め、縋るような瞳で僕を見つめた。
「私、一生、仲良し夫婦でいたいな。どんなことがあっても……おじいちゃんとおばあちゃんになっても、手を繋いで、笑い合える二人でいたいの。約束してくれる?」
「うん、約束するよ」
「じゃあ……証明して」
『永遠の愛』の証明。 オーロラという奇跡が起きている間に愛を誓い、口づけを交わした二人の絆は、もう誰にも引き裂けない――。
そんな、おとぎ話のようなジンクスを、その時の僕は、疑いようのない真実だと信じていた。
外はマイナス20度の極寒。けれど、重なった唇は驚くほど柔らかく、あたたかかった。
明日には日常に戻るけれど、この空の下で交わした言葉があれば、どんな困難も乗り越えていける。 ……本気で、そう信じていたのだ。
それから、わずか数か月後。
「陽一さん、離婚しましょう」
瞳には、涙が一杯に溜まっていた。彼女は、左手の薬指から結婚指輪を抜き取った。
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