俺は自分のグラスの下の方を指でつまんだ。
「こっちの人達ってすごく前向きだとは思う。だけど、一つひっかかってることもあるんだ。昨日の国語のとき……なにもわざわざ作者の肩を持つわけじゃないけど……みんな結構、作品の問題点、突っついてなかったか? あれって、ちょっと意地悪な批判に聴こえたぞ」
俺が口を尖らすと、ケマルは笑った。
「そう見えたとしたら、それはお前がそう見てるだけだ、クタイ」
「俺が?」水滴が落ちて、指に伝わる「じゃあケマル、君にとってはクラスメート達の発言は批判じゃないのか?」
「違うね」
「じゃ、何だ?」
「分析だ」
「批判とどこが違う?」
「受取り方。見る角度」
何だかなおさら、混乱してきたぞ。
「見る角度が違うと、世界が違って見えんのか?」
彼はうなずいた。俺は身を乗り出した。
「どう違うって言うんだよ、教えてくれよ」
「お前も、こっちに長くいればそのうち分かるさ」
「またそのセリフかい」俺は続けた「そんなこと言わずに、何か例出してくれよ」
ケマルは背もたれに寄りかかった。
「例えば、こっちのニュースは壁の中とまるで反対だ。希望だらけで眩しいもんだ」
「でもこっち側にだって、怪我だって、痛みだって、病気だって、火事だって、殺人事件だってあるだろう?」
「世の中広いからわざわざ捜し出せばあるのかもしれないけれど、そんならその同じ理由で、幸福事件や輝くばかりに美しい出来事もあるもんだよ」
「そんな楽観主義こそ、幻想じゃないのか」
「どっちを取るかは、単に選択の問題だよ。なあクタイ。なら聞くけど、お前なら土の中からわざわざ犬の糞を掘り出したいか、それとも、ダイヤモンドを見つけたいか?」
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