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「捜しているうちは全てが幻想、見つければ、それが自分にとっての現実」壁を超え、元の世界へ戻ってからも、ケマルの言葉が頭の中に反芻している。
玄関を開けると階段の上は電気がついていなかった。父は留守だ。一階右手のリビングも電気が消えている。廊下右の母の部屋を通り過ぎた。こちらも電気は消えている。突き当たりの自分の部屋に入って電気をつけると、机の上には札が二枚、裸のまま置いてあった。隙間風に飛ばされないよう、金属製のボールペンが上に乗っかっている。
大人はいつも何かに追われ、くたくたに駆けずり回っている。彼らは家族のため、自分のために働いていると言うが、本当は大家のため、自動車ローンを借りている銀行のために働いているのではないだろうか。別々な部屋に住み、普段ほとんど口をきくことがない両親が、月末になるとお互いを罵りあう。授業とテストの繰り返しという舗装道路をこのまま歩く先の世界が、まさかこれだったりするのか。あんたが悪いのよ。お前が悪い。この鞄は私のお金で買ったんです。家賃滞納なんて洒落にならないぞ。自動車ローン勝手に組んだのはあなたでしょ。車がなかったらどうやって会社に行くんだ? お酒やめればいいじゃない。お前だってそんな高そうな服買うのやめればいい。クタイの教育積立にまで手をつけるのはやめてよね。それはこっちのセリフだよ。今忙しい。また後で。またそのうち。急ぐから。お前の成績は何だ。こんなんで将来どうするつもりだ。ここで遊ぶな。あっち行け。勝手にしろ。でも非行に走るな。大人達は何でも人のせいにするけれど、でもこんなつまらない世の中をつくったのは一体誰だというのか。彼らには、一切の自己反省力がない。自分が見えてない。自分の都合でばかり意見する。聞く耳がない。あまりに身勝手だ。
ペンを転がし札を鷲づかみにして家を出た。外には星は出ていなかった。