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#ワンナイトラブ
おまる
昨夜の、唇に触れた熱量。
耳元で囁かれた「好きだよ」という声。
マンションのベッドで何度も思い返しては、枕に顔を埋めて転げ回った。
(夢じゃない……よね?)
鏡を見ると、そこには見たこともないくらい上気した顔の私がいた。
昨日までの「偽装」という重荷が消えたはずなのに
心臓の鼓動は以前よりもずっと激しく、騒がしい。
◆◇◆◇
月曜日の朝
オフィスに入るのが、こんなに緊張するのは初めてだった。
いつものように自分の席に座り、パソコンを立ち上げる。
すると、画面の端にピコンと通知が表示された。
『おはよう。よく眠れた?』
高橋先輩からのLINE。
今までなら「作戦会議」のための連絡だったけれど
今は一文字一文字から体温が伝わってくるようで、指先が震える。
『おはようございます。……はい』
送信した直後。
「おはよう、結衣」
顔を上げると、そこにはいつもの爽やかな笑顔の高橋先輩が立っていた。
でも、目が合った瞬間に、先輩が少しだけ照れくさそうに視線を逸らす。
「…おっ、おはようございます、徹さん」
周囲にバレない程度の小声で名前を呼ぶと、先輩の耳の付け根がふっと赤くなった。
演技じゃない、本物の照れ。
それを見た瞬間、胸の奥がキュンと鳴る。
「あのさ、結衣……。お昼、いつものカフェでいいかな。二人で、ゆっくり話したいんだ。…今度は、作戦会議じゃなくて」
「は、はい……!」
二人の間に流れる、昨日までとは明らかに違う甘い空気。
隠そうとしても溢れ出してしまう「本物」の幸せに浸っていた、その時。
「あら。なんだか、今日のお二人は一段と『雰囲気』が変わったわね」
背後から、冷ややかな声がした。
美佐子さんだ。
彼女は私たちの顔をじっくりと観察するように見つめると、不敵な笑みを浮かべた。
「高橋君、そんなに分かりやすく鼻の下を伸ばして。…でも、おかしいわね。あんなに熱心に写真を見せてきたのに、肝心の『馴れ初め』について、さっき別の人から面白い話を聞いたのよ」
「……何のことですか、美佐子さん」
高橋先輩の声が、一瞬で警戒のトーンに変わる。
「去年の新入社員歓迎会の後、あなた、二次会には行かずに取引先との会食に出てたんですってね? ……おかしいわね、二人が付き合い始めたのは、その二次会がきっかけだったんじゃなかったかしら?」
私は血の気が引くのを感じた。
あのとき先輩がその場しのぎでついた嘘。
美佐子さんはそれを、執念深く裏付け捜査していたのだ。
「さて……本当のことを教えてもらえるかしら? 二人の関係が『真っ赤な嘘』だってこと」
突きつけられた矛盾。
せっかく本物の恋が始まったばかりなのに、私たちは最大のピンチに立たされていた。