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#ワンナイトラブ
おまる
心臓が口から飛び出しそうだった。
美佐子さんの言葉は、私たちの関係の「土台」を粉々に打ち砕く正論だ。
あの時、先輩が適当に言った「新入社員歓迎会の二次会」という嘘が、今になって牙を剥いた。
「どうしたの? 黙っちゃって。……やっぱり、ただの悪ふざけだったのかしら」
美佐子さんの勝ち誇った顔が、歪んで見える。
私は必死に反論の言葉を探したけれど、何も出てこない。隣に立つ先輩も、黙ったままだ。
(どうしよう…嘘がバレたら、先輩の立場が……!)
私が絶望しかけたその時。
「……参ったな。美佐子さんには、敵わないですね」
先輩が、ふっと小さく笑った。
それは諦めの笑いではなく、どこか清々しい、覚悟を決めたような笑みだった。
「ええ、そうです。付き合い始めたきっかけの話は、俺がついた嘘です」
「! 先輩……っ」
慌てて先輩の袖を掴むけれど
先輩は私の手をそっと握り返し、美佐子さんの目を真っ直ぐに見据えた。
「きっかけどころか……正直に言いましょう。つい数日前まで、俺と彼女は付き合ってなんていませんでした。美佐子さんのアプローチをかわしたくて、俺が彼女に無理を言って『偽装彼女』になってもらっていたんです」
周囲の社員たちが、ざわ……と色めき立つ。
美佐子さんは満足そうに頷いた。
「ほら、やっぱり! 田中さん、あなたもよくこんな嘘に───」
「でも」
先輩の声が、フロア中に響いた。
握られた手に、ぎゅっと力がこもる。
「……でも、昨日、俺は彼女に本当の告白をしました。今は嘘じゃありません。田中結衣さんは、俺が一番大切にしたい『本物の恋人』です」
しん……と、フロアが静まり返る。
美佐子さんも、毒気を抜かれたように目を見開いた。
「偽装から始まったのは事実です。それは俺の卑怯な考えのせいです。でも、嘘の恋人を演じているうちに、俺の方が彼女に本気で惚れてしまった」
「だから美佐子さん。もう、彼女を疑ったり虐めたりするのはやめてください。俺への文句なら、いくらでも聞きますから」
先輩の言葉は、嘘ひとつない、熱い本音だった。
私の目から、堪えていた涙が溢れ出した。
「…な、な…っ、なによそれ…!」
美佐子さんは顔を真っ赤にして、何かを言いかけ
でも先輩のあまりにも真っ直ぐな瞳に気圧されたのか
最後には「……勝手になさい!」と捨て台詞を残して、足早に自分の席へ戻っていった。
「先輩……いいんですか…?あんなこと言って」
涙を拭いながら見上げると、先輩はいつもの困ったような笑顔に戻って、私の頭を優しく撫でた。
「嘘をつき続けるのは、もう限界だと思ってたから。……それに、もう『偽装』なんて名前で、君との関係をごまかしたくなかったんだ」
先輩は私の涙を親指でそっと拭うと、フロアの視線なんて気にせずに、私の耳元で囁いた。
「やっと、本当の俺の彼女になってもらえたね。……結衣」
偽装という盾を捨てて、私たちは本当の意味で「社内公認」になった。
ここからが、私たちの「本物」の恋の幕開けだった。