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私は、どんな人生を生きたいのだろう?
自室の勉強机に向かい、目の前のブックスタンドにズラッと並べてある参考書を眺めながらそんな思想を巡らせていた。
|近藤《こんどう》|和葉《かずは》、十七歳。高校三年生。進路を決めないといけない初夏。桜が散り青葉が茂ったばかりだというのに、もうそんなことを決めないといけないのか。
少しずつ暖かくなる気候にブレザーは暑く脱いで椅子に掛け、第一ボタンまで留めていたカッターシャツを二つほど外す。
どんどんと変わる季節に焦りを感じつつ、手元には進路希望調査表の紙。そこに地元の大学名を書き込んだけど、本当にその勉強がしたいのだろうか?
でもお母さんはそうした方が就職に有利だって言ってるし、きっとそうなんだよね?
無印のシャーペンをコロコロと転がし参考書の奥に隠しておいた一冊の冊子を手にした私は、それを力ない溜息と共にゴミ箱に落とす。
視界がグラッと揺れ胸の奥にザラザラとしたものが立ち込めるような気配がし、気付かないフリをする為に机の右側に備え付けられている引き出しの一番下をバンっと開ける。
するとそこには四冊の単行本と二冊の児童書。それは全て同じ作家先生の作品で、児童書は子供が読めるようにと内容を変えずに文体だけ柔らかくしたものだ。
私はその中で一番好きな物語の本を取り出し、また一から読み始める。
憧れのSF作家、菅原平成先生。昭和初期の文豪で、別名「生まれる時代を間違えた天才」との異名が付けられている。もし非業の死を遂げていなければもっと作品を世に出し、SFの世界を変えていたであろうと言わしめるほど。
そんな私も、菅原平成先生の作品に魅力された一人。
嫌なことがあっても、どうしようもない現実に打ちひしがれていても、本を読んでいる時は全てを忘れさせてくれて私を違う世界に連れて行ってくれる。
……私もこの主人公のように強かったら、人生変えられるのかな?
そんなどうしようもないことに思考を巡らせていると、時は黄昏時。開いた窓より風が吹き、レースのカーテンがフワフワと風で舞う。その隙間より差す、金色に輝く光が私を包んでくる。
窓の外より聞こえてくる、葉がサワサワと揺れる音。
どこからか放たれる甘い花の香り。
中間テストと受験勉強に追われていた私は最近睡眠不足で、いつの間にか意識を手放していた。
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