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「よいしょっ…。あー…もう暗いな…」
悠真の時と同じように私は、リュックにバラバラになった美香ちゃんの死体を詰め、その死体を海の深くへと沈めた。
もう暗いから、という理由もあるだろうけれど、やはりこの海は人があまりいない。死体を沈めるには、最適だろう。
水で濡れた服や足を持ってきたタオルで拭きながら考える。
明後日、お父さんの元へ行き、仕事のことを話す。バイトなんてハナからやってなかったこと、漫画家として、今仕事していること。
新しく描き始めた漫画は、最近完結して、また新しい漫画を描き始めようとしたが、お父さんに仕事のことを色々とバレてしまっては、そんな余裕なんてないだろう。
私はお父さんに対してどう言い訳すればいいのか。そんなことを考えていたが、折角外に出たのだから、そのまま鮭や鮎など、小さめ魚を何匹か多めに買った。そのついでに、不足していたビニールも買って行った。
帰りながら私は考えた。
美香ちゃんのあの言葉に傷ついたのは勿論、お父さんにバレたことも不安が募る。そして、その不安を奇縁ちゃんに見透かされているのも心配だ。まだ私より十歳以上年下の、園児や小学一年生くらいの年齢の女の子に、私の悩みを負担させることは、流石に大変だろう。
でも、私だけでお父さんに話すとなれば、きっと言いなりになって終わりだろう。奇縁ちゃんに悩みを打ち明ければ、なにかしらの勇気を貰えるかもしれない。
でも、それだけのために悩みを話していいのか。奇縁ちゃんはパパ活をしていて、人を殺しているのだ。考えてみると相当やばいことをしているが、その中で奇縁ちゃんに悩みを打ち明けると、負担になりすぎるのではないか。
それに、漫画のアドバイスや漫画の材料だって貰っている。私の漫画家人生を支えてくれているも同然だ。そんな奇縁ちゃんに、これ以上負担はかけたくない。
そんな結論に至ると、いつの間にか玄関の前に立っていた。
このまま立っていると完全に不審者だと思い、家に入った。
魚料理を作って、奇縁ちゃんと美輝ちゃんに食べさせてあげないと。それを思い出し、魚料理を作った。結構な数の魚料理を作ってしまったが、一緒に食べればいいだろう。食べ切ることが出来ずとも、朝ごはんとかにはなるし。
次の日の朝になれば、私は昨日よりも悩むことになった。昨日殺した美香ちゃんの血が床についていたので、その血を拭きながら考えた。死体自体はキッチンの方でバラバラにしたが、殺した時の血が拭えないでいるのだ。
漫画家としての人生を、お父さんの言いなりになって終わらせたくない。でも、奇縁ちゃんに相談して勇気を貰おうとしても、それが奇縁ちゃんの負担になってしまうことを恐れている気持ちもある。
どうすれば、奇縁ちゃんの負担にならずに、漫画家としての人生を続けられるだろうか。
考えに考えていると、急に家のインターホンが鳴った。急なことに内心驚きつつも、モニターの前まで行き、画面を見た。すると、警官の服装をした男の人が立っていた。
「すいません、警察の者ですが…。近所の方が、この家から変な匂いがすると苦情がありまして…中を見させて頂いても構わないでしょうか?」
モニター越しに爽やかな声が聞こえる。私は、今行きます、と言って、玄関へ向かった。
「あ、どうもご苦労様です…」
私が爽やかな声をした警察官の人にそう言うと、警察官の人はにこっと優しく微笑み、話した。
「ありがとうございます。では早速ですが、見させてもらっても良いでしょうか?」
「あっはい。どうぞ」
そう言うと、では失礼します、と言い、家に上がっていった。
「…?キッチンの方、生臭くないですか…?」
「まあ…はい」
私は落ち込んでいた時に入られたこともあって、曖昧で怪しそうな返事をしてしまった。それを変に感じた警察官が、キッチンの方へと入っていった。
「!?この血、なんなんですか!?」
爽やかで優しかった警察官の人が、さっきとは打って変わって、焦ったような声を出している。
「最近、魚料理を作りはじめまして…新鮮な魚を使った料理の方が美味しいかなって思って、魚を一から捌いて料理してるんです」
私がいつも通りにそんなことを言えば、警察官の人は安心したように、初めと同じような雰囲気で、爽やかで優しい顔になった。
「そうなんですか…てっきり人を殺したのかと…」
苦笑しながら言う警察官の人に、同じように私は苦笑しながら言った。
「そんなことしませんよー…ドラマみたいなことあるわけないんですし…」
そして、目を合わせて二人で笑った。
「すいません、無駄話ばかり…あ、俺玖字って言います。何か事件などに巻き込まれたり、そういったものがあれば、いつでも警察に連絡してくださ…」
「誰?この人」
玖字と名乗った警察官の後ろから、急にバッグをかけた奇縁ちゃんが現れた。
「奇縁ちゃん!?なんで来たの…!?」
私が驚いた様子で聞くと、奇縁ちゃんはいつもと変わらない様子で淡々と言った。
「お姉さんが悩み事あるって言うから。で?この人誰?」
奇縁ちゃんの喋り方に多少驚きつつも、玖字さんは優しく奇縁ちゃんに話しかけた。
「えーっと…奇縁ちゃん…でいいのかな?お兄さんは警察官なんだけど、もうお家出ていくから、気にしないでいい…、」
「そういうこと聞いてるんじゃないから」
玖字さんが奇縁ちゃんを宥めていると、奇縁ちゃんはそう言って話を遮り、かけていたバッグから包丁を取り出し、玖字さんの横腹に刺した。玖字さんは痛みで尻もちをついた。
「警察官がこっちに来ると迷惑なんだよね色々と。こっちの幸せを邪魔しようとしてきて。だから、邪魔する前に消しちゃうね」
そう言って奇縁ちゃんは、苦しむ玖字さんの首元目掛けて腕をあげ、思いっきり包丁を振り下ろした。玖字さんは痛みで声を上げたそうにしていたが、首元の急所らしいところを刺され、そこから血が吹き出た。
玖字さんの手は、さっきまで足掻こうとして、奇縁ちゃんの手を掴んで包丁から手を離させようとしていたのに、今はもう力が出ないのか全体的に脱力している。
そして、息をしなくなった。
「…お姉さん」
奇縁ちゃんはそう言って立ち上がり、私の方を睨んだ。
「お姉さんは漫画の材料として私にアドバイス貰ってるのに、警察官とか邪魔な存在を消さなくていいわけ?」
「それは……まあ、そうだけど…」
私はぐうの音も出なかった。漫画の材料としてアドバイスを貰い、それを漫画として描いているのは事実で、それがなくなると、私の漫画家としての人生があまり輝かない。
「お姉さんの漫画家としての人生と、私と美輝ちゃんの幸せを邪魔する輩は容赦なく殺せばいいの。特に警察官とかね」
そう言って奇縁ちゃんは、玖字さんの死体を包丁でバラバラにしようとしている。
私は言い返す言葉がずっと浮かばず、死体をバラバラにする手伝いをした。