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「…海に沈める前に聞きたいんだけどさ、お姉さんが悩んでることって何?」

私が買った服の前に奇縁ちゃんが着ていた服を、いつも通り血まみれにして聞いてきた。

「…負担にならないかな、奇縁ちゃんの」

私が不安になっていたことを俯きながら言うと、奇縁ちゃんは淡々と言った。

「なんでお姉さんが悩みを打ち明ければ、それが私の負担になるわけ?」

私はそう言われ、顔を上げて奇縁ちゃんの目を見た。

「だって、奇縁ちゃん忙しいでしょ?パパ活もやるし、邪魔者は消すしで…そんな中私が悩み言えば凄い大変じゃん…」

私がそう言うと、奇縁ちゃんは、はあ、とため息をつき、口を開いた。

「私、悩み言われない方がイライラして負担になるから。悩みあったらちゃんと言って」

奇縁ちゃんはイライラして、呆れながら私にそう言った。

奇縁ちゃんがそう言ってくれたから、私も悩みを打ち明けることにした。






「ふーん…。お姉さんのお父さんになんて言うからで悩んでたってこと?」

「まあ…そんな感じ、かな?だからさ、奇縁ちゃんに考えて欲しいんだよね…勿論一緒にだよっ…!どう言えばお父さんは、私の漫画家としての仕事を認めてくれるのかなあ…」

私がそう言って俯くと、奇縁ちゃんは淡々とした口調で言った。

「普通に全部、思いを言えばいいじゃん」

顔を上げて奇縁ちゃんの方を見ると、平然とした顔で私を見ている。

「いやいやいや!全部言うのは流石にハードル高いって!」

私が大きな声で反論すると、奇縁ちゃんは不思議そうな顔をして言った。

「なんで?本当のこと言わなきゃ、漫画家としての人生、送れないじゃん。お父さんにバレたんだったらさ」

「いや、まあ…」

「だったら、本当のこと言いなよ。私は漫画家に憧れてなったんだ。金のためでも笑顔のためでもないって。私の夢は私が決めるんだ、とかさ」

そう言うと奇縁ちゃんは立ち上がり、私を見下ろして言った。

「自分の夢は、自分で守らきゃダメだよ」



私はその言葉が、心に響いた。




そうじゃんか。

どんなに人気が出なくても、どんなに好いてもらえなくても、私は漫画家だ。

憧れた漫画家になれたんだ。


なら、どんなに認められなかろうが、私は私の道を進みたい。




「私、お父さんにちゃんと言う。私の想いをはっきりと」

私がそう言って奇縁ちゃんの目を、はっきりと見た。

勇気を出して、お父さんにはっきりと言えばいいんだ。私の夢を、憧れを。金とか笑顔とか、そういうのはどうでもいい。ただ、憧れてなった夢を、仕事を、私の気持ちが分からない輩に奪われたくなんかない。

私がそう勇気を出した時だった。机の上に置いてあったスマホの通知が鳴った。

「……えっ」

私はスマホを開いて通知元を見て驚いた。

「なに?なにがあったの?」

奇縁ちゃんが後ろから私のスマホを覗いて見てくる。

「私の漫画…流行り始めたかも」



スマホの通知元のアプリを見ると、私がやっているSNSからの通知で、コメントでは漫画を賛称する声が沢山あった。

「やった………やったよ奇縁ちゃんっ!」

私は後ろにいる奇縁ちゃんの顔を見るため振り返り、笑顔でそう言った。憧れの漫画家さんの本を見た時以来、こんなに輝かしい笑顔なんて、誰にも見せたことがなかっただろう。

奇縁ちゃんは私の笑顔を見て、微笑んでくれた。やっぱり、瞳には私を映してくれないが、それでも私は嬉しさの方が勝った。

私は勇気が出た。最近SNSアプリを開かず、放置したままだったため、いつから流行り始めたのかは分からないが、それでも認めてくれた人が沢山いるということだ。それだけで勇気が出る。

お父さんに、全部話せる。改めてそう思ったのだ。話す、じゃなくて、話せると、勇気を出せた。

「…奇縁ちゃん、私、お父さんにちゃんと話す。話して、認めて貰えるように頑張る」

私が奇縁ちゃんに笑顔でそう言えば、奇縁ちゃんは頷いて微笑んだ。

「うん、頑張って。私がお姉さんのこと、特別にしてあげるから」

特別にしてあげる、その言葉の意味は分からなかったが、きっと、これからも漫画のアドバイスをくれるということだと、その時は解釈した。まあ、聞けばわかる事だ。

「よしっ。じゃあ死体バラバラにしたし、海に沈めてこよっか!」

自分が言っていることはやばいと分かるが、その時の私は調子が良かったため、笑顔で奇縁ちゃんにそう言っていた。

私は、玖字さんと相性がいいのかも、なんて一瞬だけでも思った。玖字さんは優しくて、頼りがいがあると少し思った。

でも、奇縁ちゃんが言ったのだ。邪魔者は消せと、特に警察官なんかは消した方がいい、と。

玖字さんを殺した罪悪感と、悩んでいたこともあってか、暗い雰囲気を出してしまっていた。だけど、奇縁ちゃんが言ってくれたから。悩みを聞いてくれたから。

奇縁ちゃんは私の漫画家としての人生を尊重してくれている。私の悩みを見透かしている。誤魔化しても駄目だという気持ちと、奇縁ちゃんを信じていいんだという気持ちが混ざり合う。

奇縁ちゃんを信じたから、今の私がいるんだ。

今まで、胸の奥がつかえているような感覚があったが、それはお父さんに言えない不安が溜まっていたんだろう。でも、奇縁ちゃんが私を慰めてくれたから。だから私はお父さんにはっきりと言う勇気を持てた。

玖字さんを好きになりそうな私がいた。

でも、奇縁ちゃんが言うのなら、私は邪魔者を消す。

奇縁ちゃんは、私の恩人みたいな人になったから。

奇縁ちゃんと美輝ちゃんの幸せのために。

私の漫画家としての人生のために。

私は、奇縁ちゃんと一緒にそれを隠しながら、邪魔者を消していくんだ。

誰にもバレないように。

奇縁ちゃんは、美輝ちゃんにもバレてはならないと言った。

なら私は、恩人のために隠してやるんだ。

その瞳が教えてくれるから

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