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🌹はなみせ🍏
あの日、上野公園の夕闇の中で手渡されたメモ。そこに書かれた数字をスマホに登録した瞬間から、私の日常は一変した。
大森さんと私の、世界中で二人しか知らない「秘密のやり取り」が始まったんだ。
私からは、怖れ多くてなかなかメッセージを送ることはできなかった。だって、相手は日本を代表するアーティスト。私の送る一言が、彼の貴重な休息を邪魔してしまうんじゃないか……そう思うと、文字を打つ指が止まってしまうから。
でも、大森さんは驚くほどマメに、そして優しく、私に言葉を届けてくれた。
「今日は朝からMVの撮影。朝焼けが綺麗だったよ」
「もうすぐ卒業式だね。三年間、本当にお疲れ様」
「入学式おめでとう! 新生活、無理せずらんちゃんのペースでね」
画面に「大森元貴」という名前が浮かぶたび、私の心臓はトクンと跳ねた。
私は自分の特性を考えて、全日制ではなく通信制の高校を選んだ。人混みや予期せぬ大きな音が苦手な私にとって、自分のペースで学べる環境は、音楽やマネジメントの勉強に没頭するための「攻めの選択」だった。
「大森さん、私、通信制の高校に行くことにしました。空いた時間で、いつか皆さんの力になれるように、もっと専門的な勉強を始めます」
そう報告した時、大森さんはすぐに「いい選択だと思うよ。自分の居場所は自分で決めていいんだ」と肯定してくれた。
教科書を開く時も、レポートを書く時も、耳元にはいつもミセスの音楽があり、ポケットの中には大森さんからの温かい言葉がある。
石川の静かな部屋で、私は少しずつ、でも確実に、東京にある「あのスタジオ」へと続く階段を登り始めていた。
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