手が、震える。
まだ現実を受け止めきれていない
『……』
ポッカリ空いた穴には絆創膏を貼る暇すら無い。ずっと、傷口は空いたまま。
だからどんどん傷が染みていく
日が経てば経つほど何があったのかを明確にさせていた。朦朧とした意識も、今ではハッキリとして…………
「…絵名、瑞希は……大丈夫だよ。一命は取り留めたんだから」
「……絵名は、悪くない。」
『…………本当に、そうかな…』
もう散々泣いたから涙は出ない。
自分を責め立てる気力も無い。
ただただ、光を失った瞳で瑞希を見詰めるだけ。
学校なんて、行けたもんじゃない
ずっと瑞希の傍に居なくちゃ…
離れないように、嫌な思いも痛い思いもしないように。
(もし瑞希が助からなかったら、私も追いかけよう…)
そう決意した。
「じゃあ、私達は帰るね」
「…絵名は、まだ残るの?」
『……うん、私はまだ居る。…………またね』
「…うん、またね」
「分かった、またね」
2人の足音が完全に聞こえなくなった後、今度はまた別の足音が聞こえてくる。
そして、扉がゆっくりと開いた。
「……あ、絵名ちゃん…今日も来てくれたのね」
『あ、瑞希のお母さん…こんにちは』
「いつもありがとう。こんなに遅い時間まで…」
『…………いえいえ、別に、…』
「……?」
「…………あ、そうだ。絵名ちゃん何か食べたいものはない?夜ご飯買ってきてあげるわよ」
『あー…すみません、今、食欲……無くて』
「そう……。…………じゃあ、いつものお茶を買ってくるわね」
『ありがとうございます』
そしてまた暫くすれば足音が聞こえなくなる。
『…………』
外はもう夜になりそうだった。
…私も、この夜に溶け込んでしまいたい。
沈んでしまいたい。
(…………あーあ、私、何やってるんだろ…)
(私なんかが居なければ瑞希はこんな事にならなかったのに。あの時、声を掛けなければ…追いかけなければ)
…………良かったのに。
『…』
やっと、自分を責め立てることが出来た。
苦しくて心がギタギタになってしまいそう。
棘を全部吐き出してしまいそう
壁に押し潰されて…首を絞められてるみたい
『……』
苦しくて、楽に…なりたかった。
そこからの私の行動は早かった。
病室の扉を開け、階段を駆け上がった。
そうしたら、何時もの屋上が見えた。
__
暗い暗い水底の中。
海藻で身体中ぐるぐる巻きにされてるみたいに動けなかった。
『……うぅ、』
でも、水面には光が漏れだしている。
そっちに行きたい…
もう暗いところは嫌だよ。
(海藻、邪魔…何で巻き付いてるの……?
早く上がらなくちゃダメなのに…)
もがいてももがいても海藻のせいで何も出来ない。
(…………)
涙が頬を伝ったその時、水面の光が消えた。
さっきまであんなに漏れ出していたのに。なのに、一瞬で消えた。
まるで誰かが待つ事を諦めてしまったみたいに
『…………!』
その瞬間、身体中の海藻が解けて、自由になれた。
まるで選択を強いられているみたいに
(そんなの、決まってるじゃん…)
そしてボクは一気に水面まで這い上がった。
今度はボクが答える番だ
焼けるぐらい強い夕焼けの空の下、私はいつも通り靴を脱いで夕焼けを見つめた。
結局私は弱い。
追いかけるセンタクをした後必ず逃げるセンタクを取ってしまう。
もう我慢の限界だから!!
自分のせいだって分かりきってるから!!!
悪いとしたら私なんだから!
ねぇ、そうでしょ……?
そうなんでしょ…………
『……あぁ、もう…いや……ッ…!』
勢いよくフェンスに飛び乗ろうとした時
「ッはぁ、え、な……、、!」
聞き慣れた声がした。
『__え』
皆が待ってるであろう、聞きたいだろう声。
「はぁ、はぁ…………ゴホッ…え、な…!ま、って……」
瑞希は今にも倒れそうなぐらいフラフラしていた。
『は…?…………何で……』
ポッカリ空いた穴には絆創膏が貼られた。
優しく、抱き締めるような。
「……無事で、よか、った…!」
ああ、この人はどれだけ優しいんだろう。
自分の事より他人の事を何時までも優先する優しい子。
…………私とは違ってね。
『瑞希……』
「え、な…?…………ボクはもう大丈夫だよ!こーんなに元気…だ、しぃ………」
瑞希はバタッと地面に倒れ込んだ。
『っ、ちょ……!!』
「あ、あはは…ごめん、急に走ったから……はぁ、はぁ……………………」
『…………そっか、生きてたんだ』
_悪いのは私じゃない、ドライバー
「うん!……まぁ、まだ完全復活には時間が掛かるだろうけど……」
_瑞希を一生守るって決めたんだ
『……そう。なら、さ…………お願いがあるんだけど』
_もう、苦しい思いはさせない。
「お願い?……何?何でも聞くよ!!」
_大丈夫、もう苦しい世界とおさらばするだけ
『ありがとう。じゃあ……』
『私と一緒に……死んでくれる?』
これが望みだから、
もう、つかれちゃったの
「…………え?」
「…何で」
動揺するかと思ったら瑞希は冷静だった。
もしかして、瑞希も提案しようとしてたのかな
「……絵名、 」
『?』
瑞希はゆっくりと近付いて来て、こう言った。
「……」
「何も見たくないのならずっとこのまま2人で目を閉じていようよ」
『……は?…………何で、、私は、そんなその場凌ぎなんて……!』
「……絵名が居れば良いんだ」
「死んだら、もう一緒には居られないから 」
『…そんなの嫌ッ!!』
「絵名 」
瑞希はさっき倒れた時に出ていた血を拭い、傷だらけの手で私の事を抱き締めた。
『っ…………!』
「…ありがとう、絵名」
『っ………………………………』
『……………ごめん、…ありがとう、瑞希』
私達は一生傷だらけの手で荊棘の道を進んでいくんだ。
コメント
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ううぅ~続きが気になるぅ
ご愛読させていただきました。 まゆぬでございます。 どうか、感想を述べさせてください。 みずえな尊い。無論その逆でも。