テラーノベル
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「……ルイ姉、おはようございます。……顔色が悪いですよ? また変な夢でも見たんですか?」
翌朝。宿の粗末な食堂で、マイロは粥を口に運びながら、心配そうにルイの顔を覗き込んだ。
その翡翠色の瞳は、昨夜の「銀嶺の審判」としての冷酷さを微塵も感じさせないほど、澄み渡っている。
「いや、なんでもない。……ただ、少し寝付けなかっただけだ」
「嘘ですね。ルイ姉が隠しごとをするときの癖、ちゃんと覚えてるんですよ?」
「…!」
「ルイ姉?」
「……マイロ、いいか。これからは、極力魔法は使うな。」
悲痛なまでのルイの眼差しに、マイロは一瞬、きょとんとした顔をした。
「私の『見せ場』、また奪っちゃうんですか? ルイ姉は心配性ですね。」
いつかマイロが魔法の代償として『忘却』の彼方に消えてしまうのではないか。
もしも消えてしまったら。存在が消えてしまったら。
私は…一体何を支えにして生きていけばいいのだろう。
ルイは、彼女の首元に刻まれた「チョーカーの跡」を、祈るように見つめることしかできなかった。
「……さあ、湿っぽい顔はやめて行きましょう。リガ・ポルトの『門』は、一度閉まると金貨を積んでも開きませんよ」
ベルツが軽薄な足取りで二人を急かす。
手にした通行許可証をひらつかせながら、彼はルイの耳元でだけ、凍りつくような低い声で囁いた。
「剣を振るうのは自由。だが、忘れるな。君が血を流せば流すほど、彼女は君を助けるために『銀』を刻むだろう。」
ルイは無言で剣の柄を握りしめた。
守りたいという願いが、彼女を死へと誘う。これほど残酷な矛盾があるだろうか。
港町の北側にそびえる巨大な石造りの門。
そこには、昨夜の「銀の彫像」事件を受けてか、重装備の警備兵たちが物々しい雰囲気で立ち並んでいた。
「……止まれ。通行証を見せろ。……それと、その銀髪の娘。顔を見せてもらおうか」
隊長らしき男が、マイロの顔を覗き込もうと手を伸ばす。
その瞬間、ルイの身体が弾かれたように動いた。
「……触るな」
抜剣の音。隊長の喉元数ミリで静止する。
「……通行証はある。指一本でも触れてみろ。葬ってやろう」
「る、ルイ姉!? 落ち着いてください! 私は大丈夫……っ」
マイロが慌ててルイの腕を掴む。
だが、ルイの瞳には、かつての正義の騎士の光はなく、愛する「モノ」を奪われまいとする獣のような執着だけが宿っていた。
「……行こう。……マイロ」
ルイは通行証を投げ捨てると、呆気に取られる兵士たちを威圧しながら、無理やり門を突き進んだ。
背後で、ベルツがやれやれと肩をすくめている。
「すっかり『狂犬』になっちゃって。……まあ、その方が生存率は上がるかもしれませんけどねぇ」
門を抜けた先には、荒涼とした荒野が広がっていた。
自由への道か、あるいは、さらなる破滅へのカウントダウンか。
ルイは、背中に感じるマイロの小さな温もりだけを、唯一の「正解」だと信じて歩き出す。
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天神みねむ!クリスタルがない人