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4 - 第4話 小さな戦火(鎌倉×日本・らぎさんから)

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2025年06月28日

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らぎさんのリクエスト、神隠し鎌倉✖️反抗期日本です。思ってたのと違ったらごめんなさい。




久々に訪れた蔵は、ひどく静かだった。

晴れた休日、お盆のドタバタが来る前に少しでも片付けておこう、と思ったのだ。


「重っ…………」


ギィ、と錆びついたハサミがこすれるような音がして、扉が開いた。


お前はあの蔵には近づくな、と小さい頃言われていたせいで寄り付かなくなった蔵には、埃とまとわりつくような静寂が充満していて。

幾分か体の発達した自分でも、その広さを錯覚してしまいそうになる。


手近な棚に並んだ小道具を順に眺め、保存状態を確認していく。


確かここは、鎌倉さん…僕の何代か前の『日本』の遺品を集めた場所だったはず。


「僕の蔵も、できちゃったりして。」


変声期を終えたばかりの不安定な声。

それが妙に辺りに響いて、なんだか少し怖くなった。


ふと、隠すように奥にしまわれていた布が目に入った。

虫食いでもあったら大変だ、と少し背伸びをして引っ張り出す。


深い藍に、牡丹の意匠。


朽ちることなく、どこか艶やかな光を放つ陣羽織。

ほとんど魅せられたように、するりと腕を通す。


「……綺麗……。」


ぽつりと呟きながら、それを鏡に映した。


けれど、すぐに視界の隅に赤黒いシミが浮かぶ。

胸元に、血の色。

慌てて脱ごうと肩紐を引く。


「…あれっ……?」


しかし、伸ばした指先が、ぐにゃりと曲がった。

貧血を起こしたように、徐々に暗くなっていく視界。


眩暈がする。


そう思ったのを最後に、僕の意識は途切れた。




***




煤けた梁、古い木の香り。見知らぬ布団の感触。

ゆっくりと意識が浮上する。


「おぉ、目が覚めたか。」


声に視線をあげると、枕元に男が座っていた。

ギョッとしながら見やると、しゃらり、と雅な音を響かせて狩衣の紐を揺らす手には、あの陣羽織が握られている。


「……っ、あのっ、僕……」


どうしてここに、と動かそうとした唇に、しぃっ、とでもいうように指を当てられた。


「余は鎌倉。喜べ。今しがた、お前をみて決めたのだ。これは運命だ、と。」


甘やかな言葉とは裏腹に、捕食者の目つきで鋭い目が笑う。

穏やかな面差しに、狂ったように赤い唇。


「……何を、でしょうか。」


男……鎌倉さんは、そっと畳に羽織を置いた。


「今日からお前を囲い、育てる。…余の血脈を継ぐにふさわしい器に、鍛え上げようぞ。」


優しげな猫撫で声に、背筋が凍えた。


「……わかりました。」


上体を起こし、頭を下げる。

満足げに、くつくつと喉の鳴る音が降ってきた。


(ふざけるんじゃない。何が『喜べ』だ。)


こんなしみったれた場所に男ふたりで仲良く、なんてごめんだ。


心の奥で、牙を向く気持ちを抑え込んだ。




***




鎌倉さんと過ごし始めてから数日間。

広い家には、彼と自分しかいないらしい。


襖の先にある庭も、裏口の土間も、どこも外へは通じていない。

それに、季節だって狂っているようだった。


桜と萩の花が同時に揺れる庭に、膝をつく。


「背筋を伸ばせ。刃先を淀ませるな。……全く…何度言えば、頭に入る?」


愚鈍な奴よの、と、荒く息を吸う背を強かに打たれた。

長くしなやかな足の先が、脇腹にめり込む。


「すみっ、ません゛………すぐ、覚えます。」


喉奥から迫り上がる胃液を抑えながら、呼吸の隙間でそう答えた。


「ほぉ、殊勝だな。」


鎌倉さんが微笑む。

しかし僕は、それが従順さに向けられたものだと知っている。


立ち上がって木刀を構え、またすぐ地面に転がされる。


「何故できぬ?お前は、余に選ばれた身であろう?」


そんな身勝手なことを言うな。

サウンドバックの間違いだろう。


胸の内で毒づいても、目の前では圧倒的な支配者が、残虐に八重歯を見せて笑うだけ。


「すみ゛っ……ませ゛っ………、……」


閉ざされた世界に満ちる時代錯誤な支配を罵りながら、僕はただただ仮面を被った。




***




「…おいで、日本。」


縁側に腰掛けた鎌倉さんが、ぽんぽんと自身の膝を叩く。


「……はい。」


できるだけ静かに膝を進めると、鎌倉さんは心底愛おしいものを見る目で微笑んだ。


ぎこちなく固まる僕の頭を、マメで厚くなった手のひらが優しく撫でる。


「…すまぬな、毎日苦しいことをさせて。」


そう、低い声が僕に囁く。

冷たい指先に反し、言葉には湿っぽい、愛のような温度が込められている。


「余は、一刻も早く、お前を元の世に返してやりたいのだ。」


この時間があるから、僕はこの人のことを嫌いになりきれない。


「……ごめんなさい、出来が悪くて……。」


気づけば、またそんなことを口にしてしまう。


「気にするな。余は、お前の素直さを愛おしく思うておる。」


痛むところはないか、と彼のつけたアザをゆっくり撫でられる。


「……いえ…ただ……。」

「『ただ』…?」

「……みんなは、どうしてるんだろう、と……。」


自分でも驚くほど、弱々しい声。

板間に影が落ちる。

黙り込んだ彼を不思議に思って覗いた瞳は、穏やかに笑みの形に細められていた。


ぞわり、と肌が粟立つ。


凪いだ水面のように、感情の影を感じさせない両目。

しかしその目の奥に沈む澱は、明らかに怒りの色を示していて。


思わず後退り、自分の袖を握りしめた。


「……帰りたい、だと?」


ドクン、と心臓に冷たい血が流れる。


「いえ、違います……!」

「ならば、余が間違っていると申すのか?」


低い声が空気を震わせる。


「日本。何故お前は、余を拒む?」


降り仰いだ瞳が、静かに燃えていた。

返事をするよりも早く、鎌倉さんの腕が伸びてくる。


硬い指が肩を押し、瞬間、背にひんやりとした床の感触を感じた。


「待って、違うんです……!」


言い終わる前に、強い力で襟首を引っ張られる。

頬が床にこすれ、乱暴に布団の上に放られた。


ガタン、と障子が音を立てた。


「逃げることも、抗うことも、余の好まぬことは全て許さぬと、何度言えばわかる?」

「ごめんなさい、でも、本当に誤解でっ!」

「うるさい。」


耳元に落ちる声が、冷たく耳に染み入る。

ふたり分の重みを受け、畳が軋んだ。


「余が、お前を選んだ。囲うと決めた。……お前は、余のものなのだ。」

「やだ、やめてっ……!」


必死に身を捩っても、爪先ひとつ動かせない。

刃物のように冷たい手が首筋を伝う。


「やだっ、やめて、やめろ!やめろって……!」

「帰りたいと口にするのならば、その唇が、余のことしか紡がぬようになるまで、存分に愛でてやろう。」


恐怖で身体が震えた。

悔しさと憎らしさで情けなく潤む目を隠せず、せめて声だけは、と息を殺す。


「余を拒むことが、どういう意味を持つのか………。身をもって、知るがいい。」


のっぺりとした月が、生ぬるい光で僕たちを照らしていた。




***




「どうだ?憎い相手に、脳を焼かれるほどの快楽を与えられるのは。」

「……くそ゛がっ……!しねよぉ゛っ……ジジイ……!!」

「ははっ…それが本性か。…見込んだ通りだ。生きがいい。」


冷たい指の腹が頬を撫で、鎖骨をなぞり、足を押さえつける。


「あっ、んぁっ………!」


乾いた吐息が皮膚にまとわりつく。

ぐぽんッ、と深く沈み込まれたせいで、息ができずに唇を開く。


どれほどの時間が経ったのだろう。


いつしか喜びのようなものを纏い始めた嬌声。

腹の奥を穿つ体温。

下卑た水音。


全部全部、気持ち悪い。


「まだっ……嫌と申すか?」

「あっ、ひぅっ……♡や、だっ……かえ、りゅっ……♡」


呂律が回らない。激しく腰を打ちつけられ、視界が揺れる。


「……今宵はこのまま……お前が理性を繋ぎ止めるなら、それもまた一興。」


自分の意識とは違うところで引き摺り出される快楽が、気持ち悪くて、気持ち良くて、仕方がない。


彼の息が首筋を撫でる。

それだけできゅっと身体中が収縮した。


いっそ、堕ち切ることができたら。


引き延ばせば引き延ばすだけ惨めになっていく終わりを乞おうかと迷いながらも、負けるものか、屈するものか、と歯を食いしばる。


(……負けてたまるか…こんな生活、ごめんだ。)


心の奥で何度も呟く。


口の中、腹の奥、首筋、耳元。

至る所で彼を感じ、喘ぎながらも、ギリギリの理性を必死に抱き締めていた。



(終)

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