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同志琥珀さんからの命令、蘇&露&フィン✖️日本です。
雨が途切れたのは、何日ぶりだろう。
透き通った風鈴の奥の空には、白い光が滲んでいる。
足元の縁側がじんわりと熱を帯びていて、ぽつり、と言葉が漏れた。
「…夏が、来てしまうんですね。」
その声が大きく響いてしまったのか、向日葵の間引きをしていたふたりが振り返った。
四つ並んだガラス玉のような瞳がこちらを見やる。
「嫌いなのか?夏……。」
夏が束の間の太陽を楽しむ季節であるロシアさんが、不思議そうにそう言った。
「暑いもんね…日本の夏は。」
庭仕事で浮いた汗をフィンランドさんが拭う。
暑いのは嫌だな、とロシアさんが呟いた。
縁側に置いたグラスにふたりが寄ってくる。
優しく笑い合う彼らに、ふと、胸が強く痛んだ。
「……どうした、日本?」
「……いえ、その……怖いんです。夏が、来るのが……。」
カラン、と氷が音を立てて崩れた。
麦茶の影が板間にのび、血溜まりのような色を作っている。
「夏が終わる度に、暑かった記憶しか残っていなくて……それが、怖いんです。……全部、覚えていようとしてるのに。」
気道が細くなったように、喉の奥がきゅっと絞まる。
自分でも、どうしてこんな気持ちになるのかわからなかった。
でも、ずっと前……暑い季節が来る度に、胸が落ち着かなくなる。
何だか、また誰かを失ってしまう気がするのだ。
フィンランドさんがグラスを置いた。
ラムネを思わせる爽やかな瞳が僕を覗き込む。
「日本らしいね。…ちゃんと、自分以外を大切に思えるんだ。」
だから怖いんでしょ、と結露で冷えた手に包み込まれる。
「終わるのが怖いなら、終わらせなきゃいい。」
その手にロシアさんのものも添えられる。
冷たいはずなのに、心がじんわりと温まる、安心できる温度。
「始まりも終わりも、これからずっと、3人でいよう。」
ふんわりと、入道雲のように微笑まれた。
ありがとうございます、とはにかむと、手に込められた力が少し強くなった。
「おぉ〜〜〜〜い、お前らぁ……。」
「なぁにが『3人』だ、俺のこと忘れてんじゃねぇだろうなぁ?」
振り返ると、買い物袋を手にしたソ連さんがリビングで仁王立ちしていた。
チッ、とふたりの端正な顔から舌打ちが聞こえる。
「おらスイカ買ってきたぞ。ガキはスイカ割りでもしやがれ。」
ソ連さんは不敵に笑うと、庭先を顎でしゃくった。
文句を言いながらも、ふたりがいそいそと立ち上がる。
「あ、箒で割っていいですよ。」
フィンランドさんが新聞紙の上にスイカを据えると、ロシアさんが目を瞑り、庭箒を手に取った。
「ロシアー、もっと右ー!」
明後日の方向へロシアさんを誘導し、フィンランドさんが笑う。
「どうせ左なんだろ。」
「おい待てっ、そっち俺!!」
「やっぱガキじゃねぇか。」
ギャーギャーと喚きながら庭を走り回る彼らに、呆れたようにソ連さんが呟いた。
「ふふ。あのまま、ずっと変わらずにいてくれるといいですね。」
晩夏の夕暮れのように深い色の瞳が笑う。
「……安心しろ。もう誰も、お前の前からいなくなったりしねぇよ。」
少し寂しそうな、優しい声色。
そっと手の甲にキスを落とされた。
「おいクソ親父!絶対日本になんかしてるだろ!!」
「知らねーー。」
「日本、やっぱ俺とだけいよう!」
「えぇ……?」
これからはずっと、ひとりじゃない。
胸の奥にあった寂しさが、ひまわりのように、静かに太陽を追いかけ始めた。
(終)
コメント
3件
同志よ、君はやはり同志であったな。まじで解釈一致なキャラ設定で、自然と映像が脳内に流れ込んできましたよ。露フィンの日本を思う優しさがシリアスに描かれたあと、子供のような喧嘩のコミカルなシーンが来てギャップ萌えしました。そんな二人を眺めているソ日はもはや夫婦なんよ…日本の独白を聞いていなかったにもかかわらず、日本の思っていることを理解し、励ましているソ連さん、スパダリですね。好き好き大好き。今年の夏は暑い以外にも、彼らとの記憶が沢山残ってるといいね。きっと彼らが忘れないように刻み込んでくれるよ。あと、途中まで露フィンがソ連をいないものとして"3人"と言っていたのか個人的に好きです。お父さんをライバルに含めたくないんだね、厄介だもんねあの人、わかるよ。でもソ連が故人なのかとちょっと心配しました。昔の生きていたソ連との記憶も夏では暑さに消えてしまうと日本くんが嘆くのかと…まあ、生きててよかった。 4Pとかいう強欲な願望にも応えてくれてありがとうございました!最高でした!これを糧に夏の暑さにやられようとも頑張って生きます!