◇◇◇◇◇
冒険者たちの叫びが響く中、レキと魔人の女がゆっくりと近づいでくる。
わ!どうしよう?
焦る心境の中、高速思考でいろんなパターンを検討する。
リンドウたちが動けないこの状況では自分がなんとかするしかない。
たぶん、普通に戦ったら勝ち目がないことはわかる。
かと言って、何もしなければ状況を変えることはできない。
まず、戦力差から剣術による接近戦は、かなり歩が悪いと判断。
そして、攻撃魔法による攻撃も彼らの後ろに大勢の冒険者がいる状況では被害を出す可能性が高い。
であれば、ここは一か八かあのスキルを試すしかない。
リオは、考察を終えて次のアクションを起こした。
まず、ゼータとサランはカード収納で、一旦この場から回避させる。
ボン!ボン!
リンドウ:「リオ。ゼータとサランを収納したのね。
オーケー!カゲロウ!リオを守るわよ。」
カゲロウ:「承知や!防御に徹するってことやな!」
リンドウとカゲロウは自らの視界を遮られながらも、リオを背に2人で囲むように防御姿勢を取った。
相手の攻撃する気配のみを察知して防御する手段を取ったようである。
レキ:「へえ。ずいぶんと献身的なことで。」
マリス:「そうね。悪あがきだけどね。」
レキとマリスは、すでに決着はついたと言わんばかりの余裕の表情で近づいてくる。
この時間をも楽しんでいるかのように。
よし!頼む!通用してくれ!
サンクチュアリ!
リオは新しく取ったスキルを発動した。
リオの周りに透明なドーム状の聖域結界が創造された。
レベル1なので、リオ、リンドウ、カゲロウが入るくらいの大きさではあるが。
レキ:「お前、いまさら何やってんだよ!笑!」
マリス:「ふふふ、見るからに脆そうな結界だこと。」
リンドウはこの状況で自ら考えて行動をしているリオを嬉しく思った。
リンドウ:「リオ。いい選択だわ。」
リンドウはそう言うが……持つかどうかはわからない。
そうして、リオたちの目の前に対峙したレキは、持っていた短剣で聖域結界のドームを斬りつけた。
ガキーン!
レキ:「な!くっそ。結構硬ってえな!」
マリス:「あら、坊や、やるじゃない!
どうなってるのかしら。
私にも通用するのかしらね。ふふふ。」
マリスはこのドーム状の結界がどんなものなのか?強度を確認しようとして触れた途端、その掌にとんでもない激痛が走った。
マリスの掌は黒く焼け焦げている。
マリス:「熱っ!なんなのよ!これ!」
そのあとも、いろんな手を使って結界を破壊しようとするが、レキもマリスも有効な手段を持ち合わせていないことを理解した。
リンドウ:「ふふふ。リオ。相手はサンクチュアリを突破できないみたいね。」
リオ:「うん。良かった〜。」
カゲロウ:「リオ。やるやないかい!」
◇◇◇◇◇
それから約1時間が経過した。
リンドウとカゲロウは相変わらず、闇の中にいたが、リオのサンクチュアリも継続して発動している。
リンドウ:「リオ。まだ持ちそう?」
リオ:「うん。問題なさそう。」
レキとマリスは、どうせすぐに消費していく魔法力が尽きるとタカを括って持久戦に持ち込む算段だったが、あまりにもリオが余裕を持っているので、マリスの方が危うくなって来た。
マリス:「レキ、私の方がそろそろ危ないわね。」
レキ:「ん?もう持ちそうにないのか?」
マリス:「そうね。解除される前に退散した方が良さそうね。」
レキ:「ん。そうだな。今回はこれで良しとするか。」
レキはそろそろ潮時だと判断して、この場を立ち去る決断をした。
レキ:「リオ・ルナベル!
最後に聞いておきたいことがある。
お前は人間を信じられるか?」
突然のあまりに突拍子もない問いかけにリオは戸惑った。
人間を信じられるか?
人間を信じられるか?
普通の人なら普通に答えているかも知れない。じゃあ、普通じゃないのか?
どうしたんだろう。
すごく簡単な答えのはずなのに、答えることができない。
リオ:「……。」
あまりにも長い沈黙が続いた。
レキ:「ふ。そうか。わかった。それでいい。
気づいていないが、お前の中には闇がある。
俺の邪魔をするなよ。
マリス!行くぞ!」
マリス:「ええ。坊やは相性が悪いわ。
何者なのかしら?
もう会わないことを願うわ。」
そう一言言うと、レキとマリスは元の冒険者の方に戻ってから、マリスが翼を広げてレキの腕を掴み一緒に飛び立っていった。
あの女の人、マリスって言うのか……。
リオ:「ふう。リンドウ。カゲロウ。
彼らは飛んで去って行ったよ。」
リンドウ:「よく頑張ったわね。リオ。」
カゲロウ:「ほんまや。今回はリオ様様やな。」
ようやく、リオたちの緊張も解けて、今回は助かったことを実感した。
……それから数分後、彼らが遠のいたからなのか、時間が経過したからなのかはわからないが、リンドウとカゲロウの状態が元に戻ったようだ。
念の為、サンクチュアリは継続していたが、それも解除した。
リンドウがリオを抱きしめて安堵の表情を浮かべると、本当の意味で安心したのか、リオが震えていた。
リンドウ:「リオ!本当によく頑張ったわ。」
リオ:「はぁ〜。一気に力が抜けた。」
カゲロウ:「うんうん。えらいでぇ!」
リオ:「あ!ゼータとサランを召喚しないとね。」
ボン!ボン!
ゼータ:「あ!兄ちゃん、勝ったんだ!?」
リオ:「いや、粘って時間切れみたいな。」
カゲロウ:「リオ。それは粘り勝ちや!」
サラン:「そうなんですね。良かったですわ。」
ゼータ:「さすが、兄ちゃん!ありがとね!」
サラン:「はい、ありがとうございます!」
なんだかわからないけど、ゼータとサランにお礼を言われた。
リンドウ:「リオ。冒険者の方を見に行くわよ。」
リオ:「うん……たぶんやられてると思う。」
案の定、冒険者たちはすでに全員が事切れていた。
レキが飛び立つ前に冒険者の方に戻って、切り裂くところを見ていたからだ。
ただ、一瞬の出来事でリオにはどうすることも出来なかった。
そうでなくても、リオだけでは何も出来ないのだが……。
管理人の一人もすでに殺されていたが、右手首を切られた管理人だけ、かろうじて息をしているのをゼータが見つけた。
ゼータ:「兄ちゃん、この人だけまだ生きてるよ。」
リオ:「え?ほんとだ。」
リオはその男にヒールを唱えた。
男はほぼ虫の息だったのだが、リオのヒールがレベル6まで上がっていたために、なんとか命は取り留めた。
流石に欠損した右手は元に戻らないが……。
そして、気がついた管理人の男がパニック状態でリオに向かって叫び出した。
管理人:「ひぃー。助けてくれ!助けてくれ!」
リオ:「大丈夫です。もう去りましたから。」
管理人:「へ?お前ら仲間じゃないのか?」
リオ:「違いますよ。」
管理人:「はぁ……助かったのか!
うわっ!全員やられてるじゃねえか!?
俺の手首も!くそっ!」
管理人の男は、助かったと思った途端に悪態を突き出した。
管理人:「くっそ!なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねえんだよ!
なんで、お前らだけが助かってんだよ!
くそっ!くそっ!Fランの奴ら!」
その理不尽な態度にリオたち全員があっけに取られていた。
そして、管理人の男は自分の言いたいことだけを言って、自分の右手首を持つとそそくさとその場から走り去っていった。
管理人は、あんな風でも冒険者ギルドの職員だった。ギルド支部に報告と文句を言いに行ったのだった……。
リンドウ:「リオ。もう行きましょう。」
カゲロウ:「リオ。あんな奴、気にせんときや。
ああいう奴もたまにおるねん。」
リオ:「うん……。」
お前は人間を信じられるか?
最後にレキが言った言葉がリオの胸に引っかかった……。
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