テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝――。
「お父様、話がある」
朝食の席で、藍琉はまっすぐ父を見た。
父は新聞をめくりながら答える。
「なんだ」
「婚約、断る」
空気が凍る。
新聞を持つ手が止まった。
「……理由は」
「好きな人がいるから」
父の目が鋭くなる。
「誰だ」
一瞬の沈黙。
でも藍琉は逃げなかった。
「蒼真」
カップが机に置かれる音が響く。
「……執事か」
声が低い。
「本気か」
「本気よ」
父の視線が蒼真へ向く。
部屋の端に控えていた彼は、静かに頭を下げた。
「事実でございます」
空気が張り詰める。
「身の程を知れ」
父の一言は冷酷だった。
「お前は使用人だ」
藍琉の胸がズキンと痛む。
でも蒼真は動じない。
「承知しております」
「ならばなぜ手を出した」
沈黙。
蒼真は答える。
「私の責任です」
「違う!!」
藍琉が叫ぶ。
「私が好きになったの!!」
父は娘を見る。
「お前はこの家を継ぐ人間だ」
「だからなに」
「結婚は家のためだ」
藍琉は立ち上がる。
「私は道具じゃない!!」
初めての反抗だった。
父の眉が動く。
「本気で言っているのか」
「本気よ」
震えている。
でも止まらない。
「蒼真以外とは結婚しない」
沈黙。
重い沈黙。
父はゆっくり立ち上がる。
「ならば条件だ」
「……え?」
「執事を辞めろ」
藍琉の呼吸が止まる。
「一使用人としてではなく」
父は蒼真を見る。
「男として立て」
空気が変わる。
「財力も地位もない男に娘はやれん」
蒼真は静かに頭を下げた。
「当然でございます」
藍琉が慌てる。
「ちょっと待って!!」
父は続ける。
「一年やる」
「……一年?」
「その間に結果を出せ」
「無理よそんなの!!」
でも蒼真は違った。
「お受けいたします」
藍琉が振り向く。
「蒼真!?」
彼はまっすぐ言う。
「必ず認めさせます」
父は少しだけ驚き――。
そして笑った。
「面白い」
勝負が決まった瞬間だった。
―――――
部屋を出た後。
「なんで勝手に決めるのよ!!」
藍琉は怒る。
「一年でなんて無理よ!!」
蒼真は優しく言う。
「大丈夫です」
「大丈夫じゃない!!」
涙が滲む。
「離れるの嫌……」
その言葉に、蒼真は一瞬固まる。
そして優しく抱きしめる。
「離れません」
「でも執事辞めるんでしょ」
「ええ」
胸が痛む。
でも蒼真は微笑む。
「ですが」
耳元で囁く。
「あなたを迎えに来ます」
心臓が跳ねる。
「必ず」
藍琉は彼の胸を掴む。
「約束よ」
「はい」
「絶対よ」
「ええ」
二人は強く抱きしめ合う。
恋のために。
未来のために。
執事は――戦いに出る。
物語は新章へ突入した。