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第10話:そして一年後――迎えに来た人
一年は、長いようで短かった。
あの日から蒼真は屋敷を去り、執事ではなくなった。
連絡はほとんどない。
会うこともない。
ただ一度だけ届いたメッセージ。
『必ず迎えに行きます』
その言葉だけを支えに、藍琉は待ち続けた。
―――――
一年後。
「お嬢様、お客様です」
使用人の声。
「……誰?」
「男性の方で」
胸がドクンと鳴る。
まさか。
そんなはずない。
でも――。
玄関ホールへ向かった瞬間。
時間が止まった。
そこに立っていたのは。
「……蒼真」
黒のスーツ。
以前より大人びた雰囲気。
自信に満ちた表情。
でも目は変わらない。
「お久しぶりでございます」
涙が一気に溢れる。
「……遅い」
声が震える。
「一年よ」
「申し訳ございません」
「ばか」
藍琉は走り寄る。
そして胸に飛び込んだ。
蒼真はしっかり抱き止める。
「……会いたかった」
「私もです」
静かな再会。
一年分の想いが溢れる。
―――――
応接室。
父も同席していた。
「で、結果は」
父は冷静に言う。
蒼真は一礼した。
「会社を立ち上げました」
藍琉が驚く。
「え?」
「現在、国内数社と契約しております」
父の眉がわずかに動く。
「資本金は?」
蒼真は数字を告げる。
空気が変わる。
明らかに予想以上だった。
父は少し黙り――。
「なぜそこまで出来た」
蒼真は迷わず答えた。
「愛する人のためです」
藍琉の顔が真っ赤になる。
父はしばらく彼を見つめ。
そして小さく笑った。
「合格だ」
「……え?」
藍琉が固まる。
「約束通りだ」
父は立ち上がる。
「娘を頼む」
世界が止まる。
「……本当に?」
藍琉の声が震える。
父は娘を見る。
「そこまで本気なら止めん」
涙が溢れる。
「お父様……」
父は背を向ける。
「幸せになれ」
―――――
庭。
夕暮れ。
二人きり。
「約束、守ったわね」
藍琉が言う。
蒼真は微笑む。
「はい」
「褒めてあげる」
「光栄です」
少し沈黙。
風が吹く。
そして蒼真は静かに跪いた。
「お嬢様」
「なに?」
「改めて申し上げます」
彼はまっすぐ見上げる。
「結婚してください」
心臓が止まりそうになる。
藍琉は泣きながら笑った。
「……命令よ」
「はい」
「絶対幸せにしなさい」
蒼真は優しく微笑む。
「既にそのつもりです」
夕陽の中。
二人は抱きしめ合った。
執事とお嬢様だった二人は――。
ついに人生のパートナーになった。
物語は、幸せな未来へ続いていく。