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「あのさ・・。今まで自分から本気で好きになった人っているの?」
思わず心に思ってた言葉をそのまま口にしてしまう。
「・・・・いるよ」
意外な言葉だった。
自分で本気だと認める相手がいるんだ。
「へ~。そんな人いたんだ」
そう言いながらも、心の奥が少しチクリと痛む。
「ずっとそんな軽い感じだと思ってたから意外。ちゃんと恋愛してたんだ」
「だからオレそんないい加減なヤツじゃないって。本気で好きになった相手には本気で向き合う」
本気で向き合う、か。
私とのこの関係は、決して本気とは言えない関係。
軽くその場の気持ちを埋め合わせることが出来る関係。
そんな相手がいたのに、どうして今はこんな感じなんだろう。
「だけど。オレがどれだけ本気でも相手の気持ちが同じじゃないと成り立たないから」
だから、さっきの・・・。
「でもオレどんな時も常に本気だからさ」
それは私達の軽い関係でも本気なのだと言えるのだろうか。
「報われない恋愛も、もしかしてあったの?」
「・・・・もちろん」
またまた意外。
「どうしようもなく好きでもさ、オレ一人で恋愛するのは嫌だから」
確かに。
私も涼さんとの恋愛はいつからか孤独だった。
「うん。それわかるかも」
「だからオレはどんな時でもいい加減な気持ちじゃないし。本気で好きになった相手には、ちゃんとオレを好きになってほしい」
「そんなの余裕なんじゃないの?随分弱気だね?」
常にモテモテ人生で女性に不自由してなくて、いつでも強気なんだと思ってた。
「まさか。ずっと想い続けても成り立たない恋愛あるの、オレ一番わかってるから」
そんな言葉が出てくるとは思わなかった。
ずっと・・想い続けてる人、いるんだ・・。
しかも成り立たない恋愛・・。
片想い?それとも昔の彼女?
現在進行形?それとも過去形?
だから、その気持ち紛らわせる為に、こんな感じの関係続けられるのかな。
「だから。オレは無理やり気持ちを押しつけない。本当に大事な人にはオレの本気をちゃんと知ってほしいから」
一緒の時間を過ごしていく度、少しずつこの人のことを知っていく。
少しずつどんな人なのかがわかっていく。
思ってた以上に実際は真面目で、弱気で。
恋愛にもいい加減ではなく、実際は本気で向き合える人。
そして、器用に見えて、本当は不器用な人なのかもしれない。
「だけど相手が例え今はオレのことが好きじゃなくても、いつかオレの本気が伝わるって信じてるから」
今まで見たことのない真っ直ぐな意志を感じられるような眼差しで、誰かを思い浮かべるような愛しそうな優しい眼差しで、彼はそう言った。
その彼の表情を見て、今心に想っている人がいるのだと、なんとなくそんな気がした。
「なんか羨ましい」
だから、軽く見えて本気で想える相手がいるこの人がなんか羨ましく思えて。
誰かをそこまで想えるということ。
そしてそれくらい本気で想ってもらえるということ。
「私もそんな風に想える恋愛したかったな」
私は前の恋愛は、そこまで本気だと言えただろうか。
冷たくされたら、離れて行かれたら、ただそれを受け入れただけで。
行かないで、離れたくないと、私は言えなかった。
いや、言えなかったんじゃなく、きっと私もそんな恋愛から逃げたんだ。
その時の自分が辛くて、可哀想で、彼の気持ちがわからなくて、自分もその手を放した。
泣いてわめいて、引き止めようとしなかった。
あの人をそこまで必要と出来なかったのかもしれない。
本当に彼を好きだったのか、それとも結婚がしたかっただけなのか。
人を本気で好きになるってどういうことなんだろう。
「前に酔いつぶれた原因の元カレとはそんな恋愛じゃなかったの?」
「そうだね~。その時その時必死だったかも。だけど何が起こっても好きでいれなかったってことは、きっとそこまでの気持ちだったんだろうね」
「オレなら。そんな気持ちにさせない。ずっとオレを好きでいさせる自信あるし」
「うわっ。今度はすごい自信!」
さっきの弱気な態度とは打って変わって自信満々な言葉。
そしてきっとこの言葉は私に向かっての言葉ではなくて、きっと今想ってる人に対しての気持ち。
「だって本気で想った相手を自分のモノに出来たんなら、絶対手放したくないでしょ。好きになってもらえたなら後悔はさせない」
あの時。涼さんもこんな風に想ってくれる人なら、私も離れたりしなかったのだろうか。
この人にここまで想ってもらえる相手はどういう人なのだろう。
「面倒な恋愛いらないって言ってたくせに。ちゃんとそういう人いるんだ」
「まぁその人に出会うまでは、オレも結構いい加減な恋愛しかしてこなかった けどね」
「へ~それを変えてくれたその人すごいね」
「初めて本気で自分から好きになった相手だからね。だからその人以外オレにとっては面倒なだけ。でも報われない想いがずっと続くのは案外キツイからね。だからこの想いが届くまではドキドキだけでも楽しみたい、みたいな」
矛盾してるのに説得力あるような言葉に聞こえてしまう。
「矛盾してんじゃん。だけど、なんか切ないね・・」
そこまで想う人がいても、報われないと、埋められない何かは他で求めてしまうということだろうか。
「それはお互いさま」
「え?」
「だって恋愛の面倒はしたくないけど、ドキドキだけ感じたいって言ったのそっちでしょ?」
あっ。そっか。
元はと言えば、私がそれを言い出したのか・・。
「楽な方に逃げて楽しいコトだけ味わいたいって思うのはお互いさまでしょ。 お互いそれが一緒だからこの関係は成り立ってる。違う?」
ハイ。その通りです。
「そんなに前の彼引きずってるの?」
引きずってるのかも、もうわからない。
「本気になってきっともう恋愛で傷付きたくないんだろね。それなら一人でいる方が楽だし、こんな風にドキドキだけ味わいたいって思っちゃうのかも」
だから、もう誰かを好きになるとかそういうのは面倒なのだと思う。
「そっちも切ないじゃん」
優しく笑いながら彼はそう告げる。
「確かに」
そして私もつられて笑う。
そっか。切ないモン同士慰め合いながら楽しんでいるってことか。
切な・・・。