テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第62話 「組み合わせ」
2022年6月。
夏の福岡大会組み合わせ抽選会。
会場には各校の主将たちが集まっていた。
柳城高校からは主将・佐伯が出席していた。
センバツ優勝校。
当然、注目は柳城に集まる。
記者たちも多い。
「春夏連覇への意気込みは?」
「優勝候補筆頭ですがどうですか?」
質問が飛ぶ。
しかし佐伯は落ち着いていた。
「まずは一試合目です」
派手な発言はしない。
それが柳城だった。
抽選が始まる。
トーナメント表が少しずつ埋まっていく。
柳城は第1シード。
順当に勝ち進めば、
準々決勝で西福岡高校。
準決勝で博多学院高校。
決勝で九州第一高校。
そんな組み合わせになった。
会場がざわつく。
福岡を代表する強豪が同じ山に入ったからだ。
「厳しいな」
ある記者がつぶやく。
だが別の記者は首を振る。
「柳城も強い」
「面白い夏になるぞ」
その日の夕方。
柳城高校。
ミーティングルーム。
選手たちが集められる。
壁には大きなトーナメント表。
全員が見つめていた。
すると福間監督が前へ出る。
「相手を見るな」
選手たちが顔を上げる。
「見るのは一回戦だけです」
それだけだった。
柳城の選手たちは頷く。
甲子園へ行くチームほど。
先を見ない。
目の前の一試合に集中する。
それが柳城の伝統になりつつあった。
練習後。
塁はブルペンに残っていた。
静かな夕暮れ。
ミットの音だけが響く。
夏が近い。
去年の夏。
甲子園決勝のベンチにいた。
今年は違う。
自分がチームを背負う立場になった。
「考え事か?」
史陽だった。
塁は苦笑する。
「少しな」
史陽も隣に座る。
「甲子園?」
塁は頷く。
「今年は優勝したい」
史陽は少し笑った。
「みんなそう思っとる」
その通りだった。
昨夏の準優勝。
今春の優勝。
あと一歩の悔しさも。
頂点の喜びも知っている。
だからこそ。
もう一度あの場所へ行きたかった。
その頃。
おっちゃんの店。
壁にはセンバツ優勝の記事。
その横に夏の組み合わせ表が貼られていた。
常連たちが眺めている。
「今年も柳城かね」
「いや、博多学院も強いぞ」
「九州第一もおる」
予想は割れていた。
おっちゃんはお好み焼きを焼きながら言う。
「夏は分からん」
皆が振り向く。
「強いだけじゃ勝てんけんな」
昨夏の準優勝。
今春の優勝。
その両方を見てきた言葉だった。
そして7月。
夏の福岡大会開幕。
センバツ王者・柳城高校。
春夏連覇への挑戦が始まる。
しかし。
誰も知らなかった。
この夏が柳城にとって、
歓喜と悔しさが入り混じる夏になることを。
第62話 終
#高校生
コメント
1件
第61話「組み合わせ」、読み終わりました! 抽選会の緊張感から、福間監督の「相手を見るな」の一言まで、すごく染みましたね。あの重みのある台詞、柳城らしい姿勢がしっかり描かれていて好きです。最後のおっちゃんの「強いだけじゃ勝てん」も効いてました。もう夏が始まったんだな、って感じがして、次の展開が気になります!