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第62話 「開幕」
2022年7月。
夏の福岡大会が開幕した。
照りつける日差し。
鳴り響く応援。
夏が始まった。
センバツ王者・柳城高校。
当然ながら優勝候補の筆頭だった。
だが。
福間監督は開会式の後、選手たちに言う。
「センバツ優勝校は今日で終わりです」
選手たちは静かに聞く。
「ここからは夏の挑戦者です」
その言葉に全員が頷いた。
初戦。
柳城高校対南筑高校。
試合は柳城が序盤から主導権を握った。
塁は七回まで無失点。
打線も着実に得点を重ねる。
結果は8対1。
七回コールド勝ち。
危なげないスタートだった。
試合後。
記者が塁に質問する。
「春夏連覇を意識していますか?」
塁は少し困った顔をする。
そして答えた。
「まず次の試合です」
どこか福間監督に似てきた。
数日後。
三回戦。
相手は北福岡工業高校。
守備力の高いチームだった。
柳城打線は苦しむ。
五回まで0対0。
スタンドもざわつき始める。
しかし六回。
史陽の二塁打から流れが変わる。
佐伯のタイムリー。
さらにスクイズ。
終わってみれば3対0。
接戦を制した。
試合後のバス。
選手たちは静かだった。
快勝ではなかった。
夏の難しさを感じていた。
福間監督が前を向いたまま言う。
「いい試合でした」
珍しい言葉だった。
選手たちが顔を上げる。
「苦しい時に勝つのが強いチームです」
誰も声を出さない。
だが嬉しかった。
その夜。
おっちゃんの店。
テレビでは大会結果が流れている。
「柳城、今年も強かね」
常連客が言う。
おっちゃんは首を振る。
「まだ分からん」
春の王者。
夏の王者。
似ているようで全く違う。
一発勝負の怖さを知っていた。
翌週。
準々決勝。
相手は西福岡高校。
春の県大会準優勝。
強力打線を誇る強豪だった。
スタンドには大勢の観客が集まる。
福岡大会屈指の好カード。
塁はブルペンで静かに投球練習を続ける。
史陽はショートの位置でグラウンドを見る。
佐伯はベンチ前で仲間を集める。
夏は負けたら終わり。
その重みが誰の胸にもあった。
そして試合開始のサイレンが鳴る。
柳城の夏。
本当の勝負が始まった。
第63話 終
#高校生
コメント
1件
読了しました。第62話「開幕」、じわりと熱が滲む回でしたね。 「センバツ優勝校は今日で終わりです」という福間監督の言葉に、チームが一から挑戦者に戻る覚悟が感じられて、すごく好きです。勝ち方も、コールド勝ちあり接戦ありとメリハリがあって、だからこそ苦しい時に勝った後の「いい試合でした」が沁みました。おっちゃんの「まだ分からん」という距離感も、野球を知る大人の視点として効いてますね。 なにより、塁が「まず次の試合です」と答える場面、もう完全に福間監督のDNAが入ってるなと思いました。選手たちが静かに夏の重みを背負う空気が、地味ながら確かに伝わる構成でした。続き、気になります。