⚠死にかけの描写あり(死にはしない)
inm視点
ー緊急事態発生。ヒーローたちは直ちに出動せよー
「あーーー今日もかあ」
「最近さむいのにね」
「せやなあ、寒い中襲ってくるとかほんま小賢しいのぅ」
「寒いとこ行きたくないなあ」
「今日雪山らしいよ」
「まじ?」
「まじ」
「まじかあ」
実際現場に着いてみると、そこは大層な荒れようで思わず身を引く。
「うう、さむ」
「っしゃあ、やるか」
目の前の敵は、寒さなんてお構いなし。おれはヒーロー装備でいるものの、防寒という訳でもなく動きが鈍くなっていた。
ハンマーを持つ手が悴む。震えてうまく握れない。周りの状況を見ると、るべは触手を、ロウは刀を、カゲツはクナイを巧みに操っていた。みんなうまく武器を握れている。おれは、寒さに弱いみたいだ。
「ライきゅん、無理そう?」
声の方向を見ると、そこにはウェンの姿が。
「ううん大丈夫、いってくる」
「手が震えてるぞ〜?無理せずどうぞ」
そう言ってウェンが渡してくれたのは温かい水筒。蓋を開けてみると。
「これ、スープみたい」
「おー!正解、寒いのには温かい飲み物が必要でしょ」
「コーヒーとかかと思った」
「げ、コーヒーが良かった感じ〜?」
「いや、そうじゃなくて!スープ好きだから嬉しい」
「ほんと!ならよかった」
「ありがたくいただきます」
「どうぞ召し上がれ」
ウェンはすぐ戦闘に戻り、おれは皆を見ながらスープを飲む。最近みんなとの力の格差を感じていたおれは、何とも言えない気持ちになっていた。どうしていつも、こんなに上手くいかないものか。
「はあ」
スープを飲んで温まった分、精一杯の力を出そうとするも、皆のおかげで敵の数はだいぶ減ってきているのを視認していたのでその輪に参加するか悩む。おれが居なくても成功するんじゃ?今参加しちゃったら、いいとこ取りみたいになっちゃうんじゃ?
「ライ!!!」
上の空だったおれは、その声に気づくのにほんのちょっと遅れてしまった。いや、ちょっとじゃなかったかも。気がつくと視界はみんなよりも遥かに高いところに居た。
「高すぎ………」
そのまま重力に逆らえるわけもなく地面へと落ちる。高いところに居ると分かったときに集中をしておけばよかった。地面から強い衝撃を受けると同時に、そのまま雪の中に埋もれてしまう。
「い”っ…………」
深い雪に覆われて急に体温が低下する。指先はまともに動かないし、強く叩きつけられた体のせいで声もかすれてしまう。何か、何かないか。
「あ…………」
あった。ウェンからもらった、水筒。先ほど飲み干してしまった自分を殴りたくなった。これがあれば助かったかもしれないのに。
「バカ。ほん…とに、バカ」
ヒーローが声を上げているように聞こえるが、聴力もままならないので実際呼んでいるのかわからない。微かに、おれの名前が呼ばれている気がする。
「おれ、ここ…にいるっ」
思いっきり声をあげたつもりだったが、きっとそれはただの思い込みで。声を出したのか分からないほど小さく、彼らの耳には届かなかったのだろう。彼らの助けは数分経っても、数時間経っても、来なかった。
ハッピーエンドが好きだった。観てきた映画も、読んだ漫画も、ハッピーエンドだと幸せな気持ちになれるから。
でも、でも。
「こんなの、バッドエンドじゃん……」
言えてるかわかんないけれど。寒くて凍える手足。口角が上がらなくなった顔。しっかりと死を覚悟する、未だ嘗てこんなにダサいヒーローがいただろうか。止まらない耳鳴り。少しだけ体温で溶けた雪が髪から滴り落ちてくる。その冷たいことと言ったら。
目を瞑る。おれ、こんな形で人生終わっちゃうんだな。みんなのスーパーヒーローに、なれたのかなぁ…。
「ライ…」
ああ、誰かが名前を呼んでいる。この声は誰だろう。ヒーローみたいに、安心できる声を、している。
「ライ…!!」
もう助からないんだ、おれは。雪の寒さで凍え死ぬような、そんな、弱いヒーロー。
「ライ!!!!」
目を瞑っていてもわかる、明るい光。微かに聞こえる雪をかき分ける音。体を揺さぶられている気がする。
「ラ…じょ…か?」
「た…む……れ」
耳が限界だ。精一杯最後の力を振り絞って目を薄く開けると視界いっぱいのヒーローたち。
「みん……あ」
雪を全力でかき分けてくれる彼ら。ああ、助かった。
usm視点
敵は思ったより手強い存在で、ライを探しに行く暇もなかった。数時間交戦しやっと倒して、やっとライを探しに行ける。ライの場所を見つけたあと、教えた場所に全員が集まり、全力で雪をかき開けていた。
「ライ、大丈夫か?」
「頼むから助かってくれ」
ライの頭が雪から抜け出せたというタイミングで、ライの目が開く。
「みん……あ」
その口はこの上なく震えていて。その後目を閉じて体がだるんとしてしまったライはきっと命を落としたのではなく、気を失ったのだろう。
「リト、行ける?」
「当たり前、運びます」
ライに触れると、人間の身体とは思えないほどの冷たさだった。お前、これに耐えてたのかよ……。
「大丈夫、温かいとこ行こうな」
全力で走る、走る、走る。たしかこの雪山、ゲレンデがあると聞いた。ヒーロー本部なんて行ってる場合じゃない。そこを貸してもらおう。
「もうすぐ着くぞ」
ゲレンデには照明が着いていて、透明なガラス越しから暖炉があるのも見える。
「宇佐美リト、ゲレンデにいます。誰か温かいもの持ってきて」
ヒーロー端末を通してみんなに報告する。暖炉の前にいるライは、雪の中よりは幸せそうな顔をしている。
「リト、ありがとう………ね」
「わ、無理すんな、まだ黙ってていいのに」
「なにそれ、ひどい」
「すまん…w」
「おれ、死んじゃうかと思った」
「クッソ体温低かったもんな」
「口も耳も手足も上手く使えなくて」
「よく生きたよ、えらい」
「ほんと?うれしい」
inm視点
次第にヒーローたちが集まってきて、スープ、コート、靴下、カイロなどたくさん用意してくれた。
「おま、大丈夫?」
「うん、もう平気」
「つよ。ヒーローやん」
「こう見えてヒーローです」
「あちゃーーーそうだったか」
「ほんとによく生きてたよ」
「ポーーーンて飛ばされてたな」
「あれめっちゃ高かったんだからね?怖かった」
「ほんとに、なんで生きてる?そっちの方が怖えよ」
「やっぱヒーローだからさ」
「ヒーローの割にはえらい上の空でしたけど」
「そのせいで飛ばされました。よそ見してました」
「てめえ」
「ひえーーーごめん」
やっぱり好きだ。このやり取り、この雰囲気。
「ライがいないと戦略がゴミになるのでしっかりしてください」
「はい、頑張ります」
「ゴミて……ほんで否定せんのかよ…w」
「僕ら8人でめちゃつえーやからな!!」
皆で笑う。ああ、楽しい。生きててよかった。これからもよろしくね、みんな。
コメント
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基本的にはバットエンドが好きなんですけど、過去一で刺さったハッピーエンドでした…😭✨️ ハッピーエンドも悪くない…