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終わらない悪夢はるの体は、最早自分の意思とは関係なく反応していた。意識は完全に闇の中に沈み、ただひたすら、「おえぇぇぇぇぇうぇぇぇぇぇげぇぇぇぇぇぇぇ」と、吐き続けることしかできなかった。胃液すら枯れ果て、吐き出すものは何もないはずなのに、吐き気は嵐のように襲い続ける。
「吐くッ…!」
か細い声が、はるの喉から絞り出される。それはもはや言葉ではなく、ただ苦しみからくるうめき声だった。呼吸は途切れがちで、ひゅーひゅーと喉が鳴る。
影山先生は、憔悴しきった表情ではるに付き添い続けていた。はるの背中をさすり、額の汗を拭う。その手は震えていたが、決して離れることはなかった。
「はる、大丈夫だ。先生がそばにいる。頑張れ、はる…」
先生の声も震えていた。その目からは、とめどなく涙が溢れ落ちる。
親の来訪とさらなる暴力
その時、病室のドアが乱暴に開け放たれた。そこに立っていたのは、はるの親だった。逮捕されたはずの親が、なぜここにいるのか。影山先生の顔から血の気が引いた。
親は、はるの姿を見るなり、病室中に響き渡るような声で怒鳴りつけた。
「てめぇ!また仮病使いやがって!どれだけ迷惑かけりゃ気が済むんだ!」
そして、はるのベッドに詰め寄ると、その腹を容赦なく殴りつけた。はるの体は、弱々しく宙に浮き、ベッドに叩きつけられた。
「おえぇぇぇぇぇうぇぇぇぇぇげぇぇぇぇぇぇぇ!」
はるは、激しい衝撃と痛み、そして親への恐怖で、再び嘔吐した。胃液と、わずかな血が混じったものが、はるの口から噴き出す。
「吐くッ…ごめんなさい…ごめんなさい…!」
はるは、もはや意識も定まらない中で、ただひたすらに謝罪の言葉を繰り返した。それは、過去の経験から染み付いた、恐怖と服従の言葉だった。
先生の介入と未来
影山先生は、親の行動に激昂した。
「やめなさい!何をしているんですか!はるは病気なんです!これ以上、この子を傷つけないでください!」
先生は、はるの体を覆いかぶさるようにして、親から守ろうとした。しかし、親は逆上し、先生にも手を上げようとした。その瞬間、異変を察知した看護師や警備員が駆けつけ、親は取り押さえられた。
親が連れ去られた後、病室には沈黙が訪れた。はるは、ぐったりと意識を失っていた。影山先生は、はるの震える体を抱きしめ、ただただ涙を流し続けた。
はるの体は、この出来事によってさらに深いダメージを負った。しかし、影山先生は決して諦めなかった。先生ははるを自分の戸籍に入れ、養子として引き取ることを決意した。法的な手続きを進めながら、先生ははるの心身の回復のために、できる限りのことを尽くした。
はるの治療は、長く厳しいものになるだろう。しかし、影山先生という絶対的な味方がそばにいる限り、はるはきっと、この苦しみを乗り越えられるはずだ。そしていつか、心からの安らぎと、温かい愛情に包まれて生きられる日が来ることを、先生は強く信じていた。終わりの始まり
はるの体は、すでに限界をはるかに超えていた。意識の闇の中で、はるはひたすら苦しみにもがいた。胃の奥からこみ上げる吐き気は、もはや生理的な反応ではなく、魂の叫びのように感じられた。
「おえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
は呼吸をするごとに、喉の奥からヒューヒューと音が鳴り、全身が激しく痙攣した。意識の狭間で、はるはぼんやりと影山先生の顔を見た。先生は、もう声も出せないほど泣き崩れていたが、はるの手を強く握りしめて離さなかった。その温かい手が、はるにとって唯一の現実だった。
お腹が焼け付くように痛み、内側から体を突き破ろうとしているかのような感覚に襲われた。激しい腹痛に、はるは無意識のうちに体を丸め、小さくうめき声を上げる。しかし、その声すらも、吐き出す息に混じってかき消されてしまう。
影山先生は、はるの顔色を見て、その異変に気づいた。先生はすぐに医師を呼んだが、医師が駆けつけた時には、はるの意識はほとんどなくなっていた。
別れ、そして先生の誓い
モニターの心電図が、不規則な音を立てる。医師や看護師が慌ただしく処置を行うが、はるの小さな命の灯火は、もう消えかかっていた。先生は、はるの手を握りしめたまま、その顔をはるに近づけた。
「はる…!先生がいるぞ…!はる…!」
先生の声は、病室に響き渡る。はるは、その声を聞いたのか、わずかに指を動かした。それが、はるが先生に見せた、最後の反応だった。
ピーーーーーーーーッ。
無機質な機械音が、病室に響き渡った。心電図は、一本の平坦な線を示している。医師は、静かに首を横に振った。
はるは、亡くなった。
影山先生は、その場に崩れ落ちた。はるの手を握りしめたまま、先生は声を上げて泣き続けた。これまで守りたかった、愛しい教え子の命が、自分の腕の中で尽きてしまった。その事実が、先生の心を深く深く抉った。
病室には、先生の嗚咽だけが響き渡った。しかし、先生の心の中には、はるへの尽きることのない愛情と、もう二度と、同じような苦しみを味わう子供を生まないという、強い決意が芽生えていた。
はるの死は、先生にとって、生涯消えることのない深い悲しみとなった。しかし、その悲しみは、先生を教育者として、人間として、さらに強く、そして深く成長させるきっかけとなるだろう。影山先生は、はるの分まで、これからも多くの子供たちを守り、支えていくことを、心に誓った。