なぜか悲しげな声色を奏でる。
「本すらもないなんて…。最後の最後まで選ばれなかったのね…私が」
今にも消えてしまいそうな彼女に、語りかける。
「本は僕が持ってる」
彼女は振り向くと、魂が抜けたような顔をしていた。
「へ…?」
僕は手に本を持ったままだった。
「ちょっと…なんでいるの…?それになんで持ってるの?置いてきてって言ったじゃない。何してるの…」
彼女は人形のように固まっている。僕は彼女へ持っていた本を差し出す。ビー玉のような瞳が本へ、そして地に落ちた時、彼女は足元に亡骸を見つける。靴一つ分にも満たない灰の山。それは彼女の本だった。
「どうして燃やそうなんて思ったの…?」
それは純粋な質問だった。けれど、彼女は分かっている気がする。
「君の選択肢に沿おうと思ったから」
「だから、なんでそう思ったのよ!」
僕の答えを予測していたのか、人形は間髪入れずに声を荒らげる。
「教えてくれないのね?」
また彼女の中で答えが歪んでいく。
「探していると思ったから」
球体をどろどろに溶かしてしまうような彼女の思考を止める。本当はその球体がどんなものなのか彼女自身、気づいているはずだった。
「間違ってる?」
人形は再び表情を戻している。火花を散らしていた目は、冷たいビー玉に戻っていた。
「いいえ。合ってるわよ。あなたがそんなことを言うなんて思ってなかったわ。どうして探してると思ったの?手が寂しそうだった?焦っているようにでも見えたのかしら?本に執着しているようにも?」
選択肢のように並べられる。それらは既に、彼女自身の答えだった。けれど人形は人間らしさを捨てるように、声を尖らせる。
「私は本なんて探していないわよ。たぶん。まあ、あの本が憎らしいのは確かだったわ」
「なぜ憎いの?」
「あら、気になるのあなたが?私を?そうね…なんだと思う?見た目が気に入らない?ボロボロだから?名前が書いていなかったから?探している本があったから?あの本は誰かからもらったものだから?偽物だから?複製品かもしれない?」
彼女は強気な姿勢を崩さない女王のような人形であり続けようとしている。
「全部」
僕の答えにタバコを吸うような一呼吸をする。
「あなた。適当言ってるのならやめなさいよ。私の選択肢がどうでもいいからって、私のことまでどうでもよく考えるのはさすがに傷付くわ」
彼女は一人芝居のように続ける。
「どうしてあなたはそんなにおかしいのかしら。でも、なんであなたがこの本を持っていたのかしら。それが何を意味しているのかさっぱりだわ。これはそもそも私のものなのかしら。名前まで書いていたのに、人の手に渡っているなんて…」
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