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「うん、すごく大事な話だから」
なんだよそれ。今、俺のテンションは最低なのに、追い打ちまでかけんのかよ。
絶対うさちゃん絡みだろ。正式に付き合うことになったなんて改めて報告されたら、俺はもう一生、家から出ていかない自信がある。
♢♢♢
迎えた約束の金曜、放課後。
いつきくんに指定された場所へ向かうと、そこにはなぜか、うさちゃんが一人で待っていた。
結局、二人揃っての交際報告か……どこまで残酷なんだよ。そう思って身構えていた俺に、まさかの逆転ホームランが飛んできた。
「私……いっちゃん先輩のこと好きです。大好きです!」
「……え!? なんで!?」
あまりの急展開に、心臓が跳ね上がる。
「……なんで、ですか?……ごく自然に、というか」
少し難しい顔をして、彼女は理由を考えている。……いや、たぶん俺も同じ顔をしている。
「……いつきくんは? 知ってんの?」
焦る。めちゃくちゃ焦る。もし今いつきくんが来たら、俺はどう説明すればいいんだ。
「知ってます! ジャンケンで決めました。告白する順番……」
「え、何? 俺、まだからかわれてんの?」
本当に意味がわからない。団体戦かよ。いつの間にか戦う相手が増えてんじゃん。
「からかってないです! 本気です! でも、付き合ってほしいとかそういうのではなくて、後悔したくなくて。いつき先輩も、気持ちは伝えた方がいいよって言ってくれて」
「いつきくんが?……でも、あいつのこと好きだっただろ?」
「私は『いつき先輩』のファンなので……! 最初から、そういう目では見てないです!」
顔の前で激しく手を振る彼女。……嘘だろ。あんなに嬉しそうにデートの話やバイト先の話を報告してきたじゃん。女の子読めなくて本当に怖い。
「……そっか。ありがとう。めっちゃ嬉しいよ。俺のこと好きになってくれて、ありがとな」
「……はい! えっと……じゃあ、次はいつき先輩の番ですね」
「うん。気をつけて帰れよ」
バイバイ、と手を振るうさちゃんに手を振り返す。
本当は送っていくのが男としての正解なんだろう。けれど、今の俺には、今すぐやらなきゃいけないことがあった。
教室に戻ると、窓際の席に、あいつがいた。
「あ、おかえり。いっちゃん」
「いつきくん、一体何がしたいんだよ」
俺の隣の席の机に腰掛けて、そんな清々しい笑顔で出迎えるな。
「……でも、嬉しかったでしょ?」
「次好きになった人には、俺から告白するって決めてるんだよ。余計なことすんな。馬鹿」
「……そうなんだ。ごめんね。俺、いっちゃんに嫌われることばっかりだね」
……なんだよ。そんな顔で笑うな。こっちまで苦しくなるだろうが。
俺は一呼吸置いて、ずっと喉に引っかかっていたトゲを引き抜くことにした。
「……ねぇ。手紙、本当は何て書いてあったの?この期に及んで、嘘はなしだぞ」
「ん? ふふっ……『いつき先輩は一生の推しです』って」
「……本当、タチ悪いわ。お前」
俺の呆れたような声に、いつきくんはただ、満足そうに目を細めて笑っていた。
「……嘘つかないといっちゃん、さやちゃんのこと諦めないじゃん」
いつきくんの震える声に、俺は小さく息を吐いた。
「そんなのわかんねぇだろ。あの時俺ら一応付き合ってたんだし」
「……わかるよ。嫌だったんだ。もう、いっちゃんを誰かに取られるのは」
「……いつきくんでも、自信がないなんてこと、あるんだな」
「あるよ。……いっちゃんに関しては、全部、自信なんてない」
確かに、俺が今まで見てきたいつきくんは、いつだって涼しい顔で周囲の先を行く奴だった。自分のペースを乱さず、器用に立ち回る。
そんないつきくんが、俺の前でだけ、こんなにテンパったり、泣いたり、落ち込んだりしている。
「……俺はさ、いつきくんのことが大嫌いだったんだよ」
気づけば、俺は心の奥に溜まっていた気持ちを一つずつ言葉にしていた。
「勉強も、サッカーも、周りからの人気も。俺がようやく一番を掴み取ったと思っても、いつの間にかいつきくんがその上をいく。周りから比べられて、否定されるたび、いつきくんの存在がトゲみたいに刺さって、本当に辛かったんだ」
「……俺は、いっちゃんが大好きだよ」
いつきくんが、真っ直ぐに俺を見る。
「何でも一番で、いつもキラキラしてて、かっこよくて。だから、全部真似したんだ。俺は嬉しかったよ? 大好きないっちゃんに、ようやく並べたんだから」
もっと早く、こうやって面と向かって話せていれば。俺がもう少しだけ素直だったら。
俺たちは、もっと違う形で、一番の親友になれていたのかもしれない。
「俺、いっちゃんの好きなさやちゃんのこと、いっぱい観察して良いところを真似しようと思ったんだ。だけど、素直で可愛くて……女の子で。俺と正反対すぎて何一つ真似できなかった。全部負けてるなって、勝てないなって。……俺に勝てるのなんて、いっちゃんを好きでいた時間しかないんだよ。それしかないんだよ」
いつきくんの気持ちを聞いて、今までの彼の暴走が、すべて本気だったんだと改めて突きつけられる。
俺はいつきくんに言われた通り、本当に「ちょろい」男だ。こんなに一途に想いをぶつけられて、まんまと好きになっちゃったんだから。
「……だから、もう泣くなって。またしゅうとに怒られるだろ」
「だって、もう最後だと思ったら、悲しくて……」
「え、なんで最後だと思ったんだよ?」
俺、まだ返事してないよな? 勝手に失恋したことにして終わらせようとしてるのか。
「……だって、俺のこと、まだ大嫌いなんでしょ?」
「いや……大嫌い『だった』って言っただろ」
「え!? じゃあ、今は!?」
じっと見つめてくる潤んだ瞳に、耐えられなくなって顔を逸らす。
「……えっと……ふ、普通?」
「普通!?」
涙をボロボロこぼしながら、いつきくんが咲くような笑顔を見せた。
「普通」が「大好き」よりも価値があるみたいに喜ぶなよ。好きなんて言っちゃったらいつきくん、どうなるんだよ。
「……そっか、よかった。前より嫌いだって言われたらどうしようかと思った。じゃあさ、もう一回、友達に戻れる?」
「うん、てかもう友達なんだけど」
多分だけど、今ここで自分の気持ちを伝えないと、俺は一生後悔する。この先、二度と素直になれるタイミングなんて来ない気がする。
「本当? よかった! そうだ、いっちゃんさ、最近ずっと怒ってたのって、俺がさやちゃんとデートしたからだよね。ごめんね、勝手なことして。ちゃんとデートの意味言えばよかった。もう知ってるだろうけど、さやちゃんいっちゃんのこと好きだし、俺のこと気にしないで付き合ってもいいからね。俺、負けるの分かってたし、男だし、友達に戻れただけでも十分なんだ。それが当たり前だし、これからもいっちゃんに迷惑かけたくないし……」
「おいおい、待て待て待て待て。話勝手に進めんじゃねえよ」
また始まった。早口でテンパって、何を血迷ったか帰り支度まで進めてんじゃねぇよ。
「……だって、これ以上一緒にいても話終わんないし、いっちゃんに迷惑かけるから」
「ちげぇよ。俺が怒ってたのは、お前がバイト先の女の人に気安く触られて呑気に笑ってたからだよ! それに、うさちゃんのことデートに誘うくせに、俺にはルーティン変えたくないとか言って金曜の放課後しか時間くんねぇし! それと一番最悪なのは、俺以外のみんながお前の連絡先知ってることだよ!」
あー!! 言い返してるだけでまた腹立ってきた! なんなんだよ、本当にお前の「好き」はどこに向いてるんだよ!
「……いっちゃん、あの人、料理長の奥さんだよ? あの時は名札忘れてるって注意されただけ。あと、時間を決めてないといっちゃんのこと好きすぎて、絶対暴走しちゃうから。LINEなんて知ったら、もう五分に一回じゃ済まないかもしれないし……」
マジで、ややこしいことすんなよ。余計な嫉妬で勝手に怒って、俺、ただのバカじゃん。
「べ、別にいいよ。通知音切ってまとめて見るから。それに俺、重いの嫌いじゃないんだよ。実際、俺自身が重すぎて今までの彼女にフラれてきたんだし」
「……ねぇ、いっちゃん。多分だけど、本当に間違ってたらごめんなんだけど……それって、俺のこと、好きってことなの?」
今だ。言えよ、俺。今言わないと、絶対また捻くれるぞ。
「好き……とか言ったら、また、ちょろいとか言うんだろ?」
あー!! はっず! 告白するのが恥ずかしすぎて、必死に誤魔化してる自分も最高にカッコ悪くてはっず! もう教室の床に穴掘って、一生そこで埋まってたいわ!
「……本当!? 本当に!? じゃあ、ちゅうしていい!?」
「だから! なんでそこまで一気にぶっ飛ぶんだよ!」
「大丈夫! 今日もしゅうと巻いたから! 誰にも見られないから!」
いつきくんの瞳が、さっきまでの涙を忘れたみたいにキラキラと輝き出す。
しゅうとを巻いたとか、そういう問題じゃないんだよ。
「……一回だけだからな」
そう小さく呟いた俺の言葉を、こいつは一文字も聞き逃さなかった。
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