テラーノベル
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『会いたい』
軽快な音と共に、緑色の吹き出しが浮かんだ。既読の2文字が着く前に、手の中の薄っぺらい端末が震え出す。
ほら、やっぱり。
わざとらしく5コール程無視してから、その応答ボタンに指を伸ばした。
「もしもし」
『今、どこですか』
食い気味に返事してくるところもいつも通り。緩む口角を手で覆い隠して、なんて事ないように返事をする。
「あと10分くらいで家着くかな」
『じゃあ、エントランスで』
「ん」
1分にも満たない短い会話を終え、ブチりと一方的に俺が電話を切る。これも、いつも通り。
最後にこうやって会ったの、いつだっけ。
忘れた。
俺が「会いたい」と言わなければ、向こうから言い出すことは無い。それが暗黙の了解のようになっていた。それでも、こうして俺が都合よく呼びつけたって息を切らしながらやってくる。
「…可哀想なやつ。」
俺を好きになってしまうなんて。
信号が青に変わる直前窓を見遣ると、意地悪くも満足気に笑っている自分がいた。
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最新らしくほとんど音を立てずにエントランスの自動ドアが開いた。藍はドアに向かって背を向けていたというのに、気配を感じたのかすぐに振り向き、俺を認識した途端に駆け寄ってくる。
ブンブン振られる見えないしっぽが見えた気がした。
「祐希さん!」
「…あんまひっつくなって」
「あ、」
すみません、と小さく呟いた謝罪は聞こえなかったふり。眉を下げている藍を横目に、また口角を上げた。
無言のままエレベーターに乗り込むと、そわそわした様子を隠すことなく、遠慮がちに尋ねてくる。
「祐希さんの家、久しぶりですね」
「あーまぁ、そうだな」
「…最近、忙しかったん?」
「…」
もっと、会いたいのに。
暗にそう言いたいんだろうなと直感した。どう答えようかと口を噤むと、その気配を感じ取ったらしい藍が話題を変えた。
「これ、買ってきたんです。少しだけ飲みましょう?」
「いいじゃん」
ホッと息をついて微笑む。感情がそのままに現れるこいつは、本当に分かりやすくて心地良い。
藍の単純さが、愚かさが、俺の仄暗い感情を掻き立てる。俺の思い通りに出来るのだという、こいつは絶対に俺を裏切らないという、最低な確信が、堪らない。
だって、藍は俺を好きだから。
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「どうぞ」
「おじゃましま、…っん、」
え、と声にならない驚きをキスで奪った。数回角度を変えながらその薄い唇に吸い付くと、藍が応えるように腕をまわそうとした。
その瞬間、唇を離す。
行き場のない腕が目の端に映ったが、それは直ぐに引っ込んだ。
「シャワー浴びてくる。」
「え、あ、」
「先に飲んでていいよ。ソファ座っときな」
言いたそうにしていた言葉を飲み込んで、素直に靴を脱ぎ始めるその背中を見つめる。
言いたいことも言わずに俺に従うところも、変わってない。その事が幾分俺を安心させる。
リビングに入っていくのを見送ってから、シャワーを浴びに浴室へと向かった。
熱い流水を浴びながら思案するのは藍のこと。
あいつは今頃、ソファで俺を待ってるんだろう。先に飲んでいいと伝えていたが、きっと待っている。理由は、そうだな。
「…俺と一緒に飲みたいから、とか?」
リビングのドアを開けた途端に、笑ってしまいそうになったのを堪えた俺は偉いと思う。予想通り藍は俺を待っていた。
「先に飲んでて、って言ったのに」
「やって、祐希さんと一緒に飲みたかったから」
理由もビンゴ。くつくつと笑いが込み上げてくる。
「そう?でも、お前もシャワー浴びるだろ?行っておいで」
「…じゃあ、お言葉に甘えて」
ヒラヒラと掌を振って見送ったあと、机の上に置いてあったビールのプルタブを捻る。カシュ、と小気味良い音が鳴った。
「…はぁ」
一気に流し込んで、一息つく。疲れている身体に染み渡るこの感覚は何とも言い難い。
ぼうっと空を見つめていると段々と睡魔が襲ってくる。缶を持ったままうつらうつらと船を漕いでいると、手の中の重みが突然消えた。それが、藍が缶を奪ったからだということはすぐに気がついた。
「祐希さん、缶あぶない」
「…わり」
「…もう、寝たらどうですか?」
「は?なんで、」
「だって疲れた顔しとる。別にヤらんで寝るだけでも、」
「そういうのじゃないだろ、俺たち。…ヤるために呼んだんだけど」
「っ、」
明らかに傷ついた顔。その顔がいつだって俺の劣情を煽る。
「…手、降ろせよ。」
長い睫毛を伏せたまま、こくん、と小さく頷いてからシルバーの缶が机に降りた。
何も言わずに空いた手を引けば、大人しく俺の後を付いてくる。
そうだ、それでいいのだと伝えるように、俺は優しくその手を握り締めた。
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「っい゛、!」
「声抑えて」
「ごめ、なさ、…ぁ、……、!ぅ゛、…」
喘ぎ声がでかいと指摘すれば枕に顔を埋めてしまった。それはそれで面白くない。だから枕を力技で引き抜いてやると、泣き出しそうな顔をした藍と目が合った。
ぞくり、と背筋が粟立つ。
白く靭やかな背中と突き出された臀部が目に毒で、途端に酷く揺さぶりたい衝動に駆られる。
大して解れていない気もするが、ちゅぽ、と間抜けな音を立てて指を抜いた。
「もう挿れていい?」
「へ、…ぁ゛ッ、!!」
同意を得るより早く、双璧を割開いて押し込んでいく。思っていたよりはキツくない。寧ろ、緩い気がする。
「…なに、お前他にも相手いるわけ?」
「は、」
「緩いじゃん、ココ」
「、!…ちが、」
「じゃあなんで?」
真っ赤に染まった耳を見て納得した。成程、そういうことか。
「あは、ひとりでシてた?」
「…っ、……聞かんでえぇやん、そんなこと、…ッ、」
「俺のこと考えてた?ん?」
「ぁ、…ひぅ、ッ……ん゛ぁ…、!」
耳元で囁きながら腰をグラインドすれば面白いくらいにナカが蠕動して俺の肉棒を締め付けてくる。あー、気持ちいい。
バックで覆いかぶさるこの姿勢だと、完全に藍のことを支配しているような気さえしてくる。
「ほら、言えよ。誰のこと考えてた?」
「…ゆ、ーきさッ、に、きまっとる、っ……ぁぁ゛あ、!!」
だよな。
そうだよ、お前は俺だけを考えて愛していればいい。
昂った感情のままに腰を乱暴に打ち付け、程よく引き締まった身体を抱きしめながら、俺は達した。
「…あーねむ、」
ずるりと引き抜いたモノからゴムを取り、縛って放り投げた。そのままべしゃ、と藍の上に倒れ込んでベッドに転がる。熱を吐き出した途端に、睡魔がひょっこりと顔を出した。
「ぇ、あの…おれ、」
イッてない、なんてこと分かっている。だがしかし、この睡魔に抗う気も起こらず目を閉じた。
「わり、疲れてるから先寝るわ」
こんな最低な俺の、何にそんなに縋ってくれているんだろうかとぼんやりと考えながら朧気な意識の中に落ちていった。
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ぬち、くちゅ、と微かな水音で意識が浮上する。音の所在はすぐ隣。そっと目を開けると、藍が自身を慰めているのが見えた。まぁ、そうなって仕方がないだろう。絶頂が近いのか、仰け反って白い喉を顕にしていた。
「…っ、ぅ、……ゆ、ーきさ、ッ、」
呟かれた名前に思わずドキリとして目を閉じた。耳を済ましながら眠ったふりをする。
ちゅこちゅこと扱く音が速くなり、それに伴って藍の息遣いも荒くなっていく。
「ぁ、ぅ゛ッ、…!……ふ、ぁ、…」
一際大きく吐かれた息を感じ、イッたのだなと分かった。暫くした後、不意に俺の顔に手が添えられた。
「…」
藍がすぐ近くにいる気配がして、起きていることがバレてしまうのではないかと思い心臓が飛び跳ねてしまう。
「……ゆーきさん」
静かに名前を呼ばれる。そのあとに続く言葉は、「アイシテル」か。それとも、キスでもしてくるんだろうか。
数分か、はたまた数秒か経った時。
「大嫌い」
そう聞こえた。
その瞬間にドクンと全身の血液が騒ぎ出す。アイシテルとでも言ってくるのなら嘲笑ってやろうと、キスでもしてくるのなら突き飛ばしてやろうと考えていたのに。
「大嫌い」という言葉はどうしようもなく俺を興奮させた。
その言葉を言った藍はどんな顔をしていたんだろう。どんな想いを込めていたのだろう。
ふぅ、と細く息をついてから俺の胸元に潜り込んできた。ドクドクと早鐘を打つ心臓に気づきやしないかと慌てたが、その事態は免れすぐに静かな寝息が聞こえてきた。
「…だいきらい、ね」
そっと、白く柔らかな頬を指でなぞる。あどけなさの残る寝顔に似つかわしくない涙の跡が見えた。
俺のお前に対する感情はなんだろうか。好き?嫌い?そんな単純なものではない。
まだ、俺はこの感情に名前を付けられずにいるんだ。
いっそ溺れてしまいたくなるほどの衝動を、藍の全てが欲しいと思うほどの欲深さを、愛しいものに俺だけの傷をつけたいと思ってしまう残酷さを、どう名付ければいいと言うのか。
いつか、お前が、教えてくれないか。
未熟な俺のそんな想いを、今は、「愛」と呼ぶには相応しくないから。
縋ってるのは一体どっちなんだろうか、なんて。
⚠️本作品のセリフやストーリー、言い回し等の盗作はお止め下さい。
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