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朝、玄関のドアを開けた瞬間だった。
「――🌸さんですよね?」
鋭い声と同時に、無数のマイクとカメラが一斉に向けられる。
一歩外に出ただけなのに、家の前はすでに人だかりになっていた。
「宮侑選手との関係について一言お願いします!」
「いつから交際されているんですか?」
「結婚の予定は?」
逃げ場がない。
後ろには閉めたばかりのドア、前には詰め寄る大人たち。
「……すみません、答えられません」
そう言って歩き出そうとするけれど、横に回り込まれ、前を塞がれる。
「少しだけでいいので!」
「交際は事実なんですよね?」
胸がぎゅっと締め付けられる。
侑は、まだ正式に何も公表していない。
勝手なことは言えない。
それでも、無視を続けるほど記者たちは引き下がらなかった。
「一般女性ですよね?」
「選手の私生活に入り込んだ感想は?」
その言葉に、足が止まる。
――入り込んだ?
「……それは違います」
気づけば、声が少し強くなっていた。
「私は、侑と……宮選手と、普通に過ごしていただけです」
マイクがさらに近づく。
「では交際は否定しない、と?」
「結婚も視野に入れている?」
視界が揺れる。
心臓の音がうるさくて、周りの声が遠のく。
そのとき――
「何しとんねん」
低く、はっきりした声。
人混みがざわつき、カメラの向きが一斉に変わる。
そこに立っていたのは、キャップを深く被った宮侑だった。
「一般人やぞ
許可もなしに家の前張り込んで、常識ある思うとんか?」
侑は🌸の前に立ち、自然に庇うように腕を伸ばす。
「取材するなら俺にしろ
この人には一切答える義務ない」
記者たちは一斉に侑へと向かう。
「宮選手!交際は事実ですか!」
「今のお言葉は認めたということで――」
侑は一瞬だけ🌸を振り返る。
その目は、不安よりも怒りよりも、強い決意で満ちていた。
「事実かどうか?
……俺が守りたい相手や。それで十分やろ」
それ以上は言わない。
けれど、その言葉はどんな肯定よりも重かった。
侑は🌸の手首をそっと掴む。
「行こ」
二人はそのまま、記者の間を抜けて歩き出す。
背中に浴びるシャッター音が、やけに遠く感じた。
車に乗り込み、ドアが閉まった瞬間。
🌸の肩から、ふっと力が抜ける。
「……ごめん、迷惑かけた」
その言葉を遮るように、侑が強く抱き寄せた。
「謝んな
俺が表に出るん、遅かっただけや」
少し震える🌸の背中を、何度も撫でる。
「怖かったやろ
でもな、これからは一人で矢面に立たせへん」
🌸は侑の胸に額を預け、小さく息を吐いた。
「……信じてる」
その一言に、侑は一瞬言葉を失い、そして静かに笑った。
「せやから俺も覚悟決めた
隠すためやなくて、守るためにな」
侑はかっこよく決めて 車はゆっくりと走り出す。
窓の外では、まだ騒ぎが続いていたけれど――
二人の距離だけは、確かに近づいていた。