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「あ、ああ……」
「ギチギチ」と嫌な音を立てて、魔獣の鋭い牙が私のドレスに食らいつく。
抵抗する力なんて残っていない。
牙が洋服をズタズタに引き裂き、魔獣の鋭い爪が私の胸元へ、心臓を貫こうと振り上げられた。
(うそ、私……死ぬ、の……)
絶望の中で目を閉じた、その瞬間。
「───俺の女に、その汚い爪を立てるなと言ったはずだ」
鼓膜を突き破るような轟音と共に、暴風のような魔力が森を吹き飛ばした。
目を開けると、そこには鬼神のような形相で魔獣を圧殺したディアヴィル様が立っていた。
彼は一瞬で魔物を塵に変えると、震える私のもとへ駆け寄り、その場に膝をついた。
「オーロラ!! 無事か、オーロラ!」
幸い致命傷はなかったけれど、私のドレスはボロボロに破け、肌は汚れ
私はただガタガタと震えることしかできなかった。
◆◇◆◇
再び目を覚ましたとき
私は見慣れた寝室の天蓋を見上げていた。
体は温められ、傷口には丁寧に包帯が巻かれている。
傍らでは、ディアヴィル様が私の手を両手で包み込むようにして、うなだれていた。
「……ディアヴィル、様……?」
私の掠れた声に、彼は弾かれたように顔を上げた。
次の瞬間、彼は壊れ物を扱うように繊細に
けれど決して離さないというほど力強く、私を抱きしめた。
「……っ、すまない。すまないオーロラ……」
耳元で聞こえる彼の声は、ひどく震えていた。
魔王として君臨する彼の
これほどまでに脆く、必死な声を聞くのは初めてだった。
「俺が悪かった。お前を道具だなんて、一度だって思ったことはない。お前を失うのが……死ぬほど怖かったんだ」
「え……」
「愛しているんだ、オーロラ。聖女の力なんて、あってもなくても構わない。俺はお前というひとりの女に初めて会ったときから惚れていたんだ。頼む、俺を赦してくれ」
自分を「どうでもいい」と思っていたのが、どれほど愚かな誤解だったかを思い知らされる。
彼の手の震えが、抱きしめる腕の熱さが、何よりも雄弁に彼の愛を語っていた。
「……私も、ごめんなさい。わがままを言って…。私…ディアヴィル様に必要ないと言われたようで、悲しかったんです。ディアヴィル様が…好きだから」
「…っ、すまない。お前の涙を見たくなくて、妻としてこの魔界では幸せに生かしてやろうと思っていたにもかかわらず、泣かせてしまって」
私は彼の背中に手を回し、その広い胸に顔を埋めた。
「いいんです…ディアヴィル様の気持ちが…聞けたので…もう、いいんです」
「オーロラ……っ」
初めて本音でぶつかり合い、私たちは本当の意味で、真の夫婦として結ばれたのだ。
あの日、生贄として魔界に落とされたとき、私の人生は終わったのだと思っていた。
けれど今、私は魔王の腕の中で、世界で一番幸せな光の中にいる。
「愛している、オーロラ。永遠に…俺のそばにいてくれ」
重なる唇からは、甘い誓いの味がした。
紫の月が照らす魔王城で、私たちの物語は、ここから本当の始まりを迎えるのだ。