テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
噂の元凶が生徒会書記の女子生徒だということを突き止めた海斗。直接話に行っても取り合ってもらえなかったため、他の生徒にその女子生徒のことを聞いてみることにした。
「ねえ、ちょっといいかな」
「また委員長じゃん、昨日ぶり。今日はどうした?」
「聞きたいことが出来ちゃってさ、噂について調べてたら色々分かってきちゃってね。せっかくだから、噂について教えてくれたお礼に、君にも情報共有しておこうかと思って」
「え、マジ? それは嬉しいこと言ってくれんじゃん。あんまり委員長と話したことなかったけどさ、ちょっと印象変わったよ」
海斗自身も少し距離を置かれていることは感じていた。絡みにくいのだと、周りの人の感情を理解していた。しかし今回、その言葉を聞いて、海斗はちょっと嬉しくなった。
「僕も打ち解けたようで何より」
「で、何が分かったんだよ」
「実は、噂を意図的に流していた人がいたんだ」
「何のためにそんなこと……」
「うーん、それが僕も気になってね。その人っていうのは生徒会の書記担当だったんだ。その人について何か知っていることはあるかい?」
男子生徒の顔が一瞬青ざめた。『生徒会』という言葉に過剰に反応したようだ。
「え、生徒会? 俺たちが関われるような人じゃないよ」
「少しだけでもいいんだけど……」
「まあ、全く知らないってわけでもないんだけどさ、俺が言ったってことは秘密にしてくれよ?」
「もちろんだよ」
予想以上に生徒会の壁は高い。海斗もかつて生徒会に入りたいと思っていたが、生徒会に入れるのは生徒会長から推薦を受けた者だけなので、諦めざるを得なかったのだ。
「実は、そいつは生徒会長と特別な関係なんじゃないかって」
「……え?」
海斗は拍子抜けした。
「もしかしたらそういう関係かも……」
「ちょ、ちょっと待って。それはつまり、恋人同士ってことかい?」
「ああ、あくまで噂だからあれだけど、恋愛対象がどっちも女だとか……」
「それは……驚きだね。僕たちにはよくわからない領域かもしれない」
正直言って、海斗は全く興味が湧かなかった。兄を嵌めたかもしれない奴の恋愛事情など聴いていられるものではない。
「そうだなあ、俺たちには想像もつかないぜ」
「ほ、他にはある?」
「他? 他はまあ、勉強も運動もできるすごい人だとしか……」
「そうか、僕は君に頼り過ぎていたのかもしれない。他をあたってみるよ」
「ご、ごめん。俺も他に知っている人がいないか聞いてみる。だから今後も仲良く……」
「うん、よろしく頼むよ。ありがとう」
海斗は友達といえる人をあまりつくってこなかった。『優しい』両親や親戚がいればそれでよかったからだ。でも案外、友達というのはすぐそばにいるのかもしれない。
俺は今、友人と何もない、ある意味平和とも言える日々を過ごしていた。
「上手くやってるかな、あいつ」
「海斗のことかい? あの子なら十分な収穫をしてくるだろうさ」
「最近、生徒会長を探してないからか、すごい暇になっちまったよ」
海斗のことは信頼しているが、どこか不安が残る。しかも俺もむやみに動けない。このまま何もしなくて本当にいいのだろうか。
「少しは勉強に精を出してみてもいいんじゃないか? ほら、数学も真面目にやればいい点数を盗れるかもしれない」
「あんなクソパワハラ教師の授業を聞くくらいなら、全裸で校内一周してやる」
「相当恨んでるみたいだね。そこまでとは、僕も想像してなかったよ」
「お前だって、あいつのことは嫌いだろ?」
「嫌いというか、興味がないかな。あの先生の授業は授業になっていないからね。教科書を読むほうが勉強は捗るよ」
友人も意外と、いや俺と同じくらいにはあの教師を下に見ている。
「なんであんな奴が教師になれたんだろうな。一回道徳学び直してこいよと本気で思うんだが」
「まあ、試験に合格すればいいだけだから、そこまではさすがに見抜けなかったんだよ」
「というか、俺に勉強しろっていうなら、お前だって化学頑張れよ」
「あれは、ちょっと生理的に無理かな」
なんてわがままな奴だ。勉強に生理的もくそもあるかよ、って俺が言えたものではないけど。
「先生が嫌なのか?」
「そういうわけではないよ。だって、化学の先生はみんなに大人気じゃないか」
「まあ、俺もあの先生の授業は楽しくて、眠たくなるどころか目が冴えるほどだよ」
「ほらね、だから先生は関係ないよ」
「じゃあ、何が問題なんだ?」
友人は苦手と言っているが、テストの点はいつも平均点以上だ。これは、苦手というのだろうか。
「さあ、なんでだろうね」
「なんだよ、その回答。殴りたくなるだろ」
「いきなり怖いことを言うもんじゃないよ。とりあえず苦手って言っておけば、苦手になれるかなって思っているだけさ」
「それって何の意味があるんだ。むしろ不利になってないか?」
「人間、少しは苦手がないと疲れちゃうからね」
聞いたところで、俺が理解できる範疇を超えていた。そうだ、こいつ天才なんだった。
「あーあ、海斗は大丈夫かなあ」
「本当に君は、心配性なんだから」
この穏やかな日々は、いつまで続くのだろうか。
一方、海斗は情報をかき集めている最中だった。
「あの子、別に付き合ってるとかそんなんじゃないと思うよ」
「そうなんだね、ありがとう」
ターゲットを女子に絞り、より信憑性のある情報を引き出そうと聞きまわっていた。
「いつも不愛想でさ、何考えてるのか分かんないし、私はあまり関わりたくないのよ」
「分かった、ありがとう」
情報を集めるたび、女子の中ではあまりよく思われていないということが分かってきた。
「家はお金持ちらしいよ、あ、でも親は離婚してるって聞いたかな」
「君はあの子と友達なの?」
「私じゃないよ。私の友達がそうなだけ」
「そっか、ありがとう」
どうやらあの書記にも友達がいるらしい。海斗は最後にその友達を訪ねた。
「生徒会の書記担当について話を聞きたいんだけど」
「あの子は、ちょっと普通じゃないから」
「どういうこと?」
「前に悩みを言われた時は、『会長は全然私の気持ちを分かってくれない』だったかな。私少し驚いちゃって、今は距離を置いてるの」
「そういうことね、ありがとう」
ある程度の予想がついた海斗は、再び生徒会室へと向かった。
「色々嗅ぎまわっているようですけど、やめてくれませんか?」
「君のこと、少しだけ分かった気がするよ」
「何を、言っているんですか?」
書記の猫のような目がギラギラと光る。海斗をいつも以上に危険視しているようだ。
「生徒会長に素直に伝えたらどうだい?」
「あなたに何が分かるんですか」
「こんなくだらない怪文書に頼ってないでさ」
海斗は手に持っていた紙切れを書記に見せつけた。
「それをどこで手に入れたのですか」
「君の『友達』から受け取ったんだよ」
「そうですか……。やっぱり友情というものは、本当にくだらない」
強く唇を噛みしめる書記、海斗はもう確信したのだった。
「僕の兄さんの冤罪を晴らしてよ」
「知りません、そんなこと。それよりあなた、こんなことして無事でいられると思ってるんですか?」
「まだ罪を重ねるつもり? その行動、生徒会長はきっと気づいてると思うよ。僕でもたどり着ける真実なんて、生徒会長は最初からお見通しなんじゃない?」
「帰ってください……」
「もう君は詰んでるよ」
「いいから帰ってください!」
前回のように、生徒会室のドアがゆっくりと開く。
「大声が聞こえたと思ったら、私の後輩をいじめるのは誰かしら」
「会長……」
「さあ、手伝って。そこのあなたは早く帰りなさい」
この事件は、まだ終わらない。