テラーノベル
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あれから何度私は死んで、生き返ってを繰り返しただろう。
彼は会う度に好きだと伝えてくる。
その度に私はループを起こす。
私だって奏汰が好きと伝えたいのに言葉が詰まってしまう。
何度も何度も、逃げている。
怖かった。
彼が私と付き合った日々を忘れて、またもう一度作り上げていくのが。
それが一生続くのなら私は彼を受け入れる自信が無い。
この恋だけは私の中にしまわなければならないと思う。
好きになってはいけないのだろう。
ただ静かにゆっくりと私は沈んでいる。
もう一度と手を伸ばしてみる。
何かが触れる感覚。
初めての事だった。
そのなにかに一瞬、触れたかと思えばなんの感覚も無い。
また、7月29日に戻ってきていた。
あれはなんだったのか自分の右手を見る。
何も無い。
あれは気の所為だったのか。
何事も無かったかのように日々が過ぎていく。
つまらない。
ふと、昔の事を思い出した。
5年前。
あの日はやけに日が沈むのが早かった気がする。
夕日に照らされて当時付き合っていた2個上の先輩との帰り道。
いつもの事のように手を繋ぎ海沿いを歩いていた。
その日は珍しく先輩が海を見て帰ろうと言って海辺まで連れて行ってくれた。
先輩は楽しそうに海で遊んでいる。
水が綺麗に輝いていて頭の中にずっとあり続けている。
私も混ざろうとスカートを折り海へと足をつけた。
7月上旬だったため水は予想以上に冷たく私の身体に染みていた。
しばらく水遊びをしている時、私の左腕に違和感があることに気が付いた。
見るとそこには先輩が誕生日にくれたブレスレットが無くなっていた。
辺りを見渡すとそれは少し深い所へと流れている。
先輩に言うと一直線にブレスレットへと足を動かした。
ただ、人間が泳ぐよりも波の方が圧倒的に速い。
ブレスレットは先輩から遠ざかって行く。
先輩も私からどんどん、離れて行った。
危ないと言おうとした時、先輩は必死に暴れながらも水面から姿を消してしまった。
動きが無くなりいつも通りだと言うように波はゆっくり揺れている。
私はスマホを取り出し警察に電話した。
大人しく待っている訳にも行かず制服を脱ぎ海へと飛び込んだ。
昔から海の近くに住んでいたため泳ぎだけは得意だ。
先輩が溺れたであろう場所へ大きく息を吸い込んで潜った。
先輩は静かに沈んでいる。
私は先輩、いや蒼汰の腕を掴み上へと登っていく。
息が苦しくなるが懸命に引っ張った。
水面へ出た頃には警察が来ていて私達ふたりを助けてくれた。
砂浜に寝ている彼に私は人工呼吸をした。
彼との初めての口付けだった。
どれだけ息を吹いても彼の意識は戻らない。
救急隊が心臓マッサージや電気ショックをしてくれる。
けれど彼は息をしない。
ふと彼の右手を見ると流されたブレスレットが強くにぎってある。
不意に涙が溢れてきた。
私のせいで、彼は危険に晒されているのだ。
救急車が来て緊急搬送されて行く。
共に乗り彼の手を強く握った。
そして懸命に祈った。
彼を、どうか助けてください。
彼が手術室に連れて行かれた時も外で懸命に祈った。
そんな時私の背中に温かみを感じ、顔を上げた。
そこには奏汰がいた。
「大丈夫、兄ちゃんは助かるよ。」
そう言ってくれた。
数時間後蒼汰が亡くなったことが確認された。
私は泣き喚いた。
私のせいだと心の中で思っていた。
けれど奏汰は私に優しく「陽菜のせいじゃないよ。」と言ってくれる。
そう言ってくれるけれど奏汰は最愛の兄を私に殺されたのだ。
何故、私を好きになどなってしまったのだろうか。
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